南部・ゴールドストーンボソンは自発的対称性の破れにともなって現れる質量(ギャップ)ゼロの粒子(モード)のことである。
ここでは、モデルが与えられて、破れる対称性がわかった時にどのような南部・ゴールドストーンボソンが現れるかを考えよう。
例えば、フェルミ粒子系があり群 G の対称性を持っていて部分群 H に対称性が破れたとき、
南部・ゴールドストーンボソンはどのように表されるか、を考える。G, H が具体的に与えられたならば、
南部・ゴールドストーンボソンも具体的に表示できるはずである。南部・ゴールドストーンボソンの具体的表示を考える。
まず、自発的対称性の破れとは何かということから出発しよう。
一言で言うと、考えている系が持っている称性とは異なる対称性をもつ状態が実現している時に、
自発的に対称性が破れたと言う。(ここで、対称性とは連続的な大域的対称性のことを言うとする。)
例えば、磁石の中ではスピンは一つの方向に揃っているために3次元空間内での回転対称性が破れていて、
スピンがそろった軸の周りの回転対称性のみ持っている。磁石になることにより本来持っていた対称性を失い、
より低い対称性の状態が実現している。これが自発的対称性の破れの例である。
すなわち、状態が自ら対称性を破ってより安定な状態になるということである。
この時にゼロエネルギーモード(ギャップがゼロのモード)が存在することが知られていて、
強磁性体(磁石)の場合はスピン波がそのゼロモードである。このように自発的対称性の破れ(すなわち二次の相転移)は昔からあり、
それに伴いギャップのない励起モードが存在することも昔から知られていた。
自発的対称性の破れを数学的に定義しよう。ここでは、無限小の対称性を破る摂動に対する応答を考える[1]。
フェルミオンの場を ψ として、ラングランジアンを
L = iψ†∂ψ/∂t+iψ†Γk∂kψ + V(ψ)
と書く。V は相互作用項を表している。
系の対称性を表す群 G が与えられた時、G のリー環 g の基底を { Ta } (a = 1, …, dimG)
としよう。Ta はエルミートとする。 G は Ta 達により生成される。
{ Ta } の部分集合をとり、それらの Ta の一次結合として
表される M を取り対称性を破る項を
LSB = λψ†Mψ
と書く。λ は無限小のパラメーターであり、後で λ→ 0 の極限をとる。
これは、強磁性体においてはゼーマン項に対応するものであり、ここではより一般化して考えている。そこで、オーダーパラメーターを
Δ = 〈 ψ†Mψ 〉
とおく。ここで、〈 〉 は基底状態における期待値を表す。 この時、自発的対称性の破れを次により定義する:
λ→ 0 の時、Δ ≠ 0 ならば自発的に対称性が破れたと言う。
無限小のパラメーターを θ として、ψ が ψ→ ψ−iθTaψ と変換するとすると、
LSB は LSB → LSB + δLSB と変換し
δLSB = iθλψ†[Ta, M]ψ
となる。[Ta, M] ≠ 0 であって、λ→ 0 の時、Δ ≠ 0 であるなら Ta
に対応する対称性が自発的に破れており、南部・ゴールドストーンボソン(ゼロモード)が存在する。
実はこの時、南部・ゴールドストーンボソンは次で与えられる。
πa = iψ†[Ta, M]ψ.
実際に πa がゼロエネルギーモードであることを示すことができる[1]。
πa は dim(G/H) の数だけある: a =1, …, dim(G/H)。
これは、ボース粒子系に対しても同様に定式化できる。このように、対称性が与えられればその変換の基底(生成子)が求まり、
具体的に南部・ゴールドストーンボソンを構成することができる。
ただし、これらの全ては一次独立とは限らず、お互いに同じモード(同じ自由度)を表しているものがあることもある。
この時は南部・ゴールドストーンボソンの数が破れた対称性の数より少なくなる[2, 3]。
これは例えば、強磁性体において起きている。
参考文献
[1] T. Yanagisawa: J. Phys. Soc. Jpn. 86, 104711 (2017)
Nambu-Goldstone bosons characterized by the order parameter in spontaneous symmetry breaking
[2] H. Watanabe and H. Murayama: Phys. Rev. Lett. 75, 251602 (2012).
[3] Y. Hidaka: Phys. Rev. Lett. 110, 091601 (2013).
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