近藤効果は金属中に不純物スピンが希薄に存在する時に起こりますが、不純物スピンの数が増えてほぼ金属原子と同じくらい存在するようになると、新しい状態に移ります。この状態では、電子の有効質量が非常に重く、時には1000倍ほどにもなります。そのため、重い電子状態と呼ばれています。このように極端に有効質量が大きくなる現象は、実際に希土類元素を含む金属化合物で起こります。
電子間に強い相互作用が働くと、電子は金属中において勝ってに動き回ることができなくなります。電子はお互いに避け合い、動きにくくなります。
動きにくくなった電子は、質量が有効的に大きくなったように見えます。質量の大きさがその粒子の動きにくさを表すからです。このように、電子間相互作用により
重い電子状態が引き起こされます。このような電子系を強相関電子系といいます。有効質量が大きくなった状態は、電子数の運動量分布によって表されます。
下の図に示しましたように、フェルミ波数のところに運動量分布のとびが存在しますが、電子相関によりこのとびが小さくなります。このとびの逆数が有効質量に
比例します。
図1. 電子数密度の運動量依存性。周期的アンダーソンモデルに対して計算したもの。赤線が伝導電子に対するものであり、黒線がf電子に対するものです。
f電子間には強い斥力相互作用が働いているとしています。
電子の有効質量が数百倍にも重くなった時の運動量分布は下の図のようになります。フェルミ面(矢印)のところに微かにとびがあります。
ほとんど絶縁体のような運動量分布ですが、これでも金属的であり、重い電子状態とはこのような状態です。この図は周期的に局在スピンが存在するモデルに
対して、変分モンテカルロ法により計算したものです。
図2. 重い電子状態での電子数密度の運動量分布。有効質量は相互作用がない場合にくらべ約300倍です。
波動関数はグッツヴィラーの波動関数とよばれているものに、相関の演算子をかけたものを用いています。重い電子状態では、グッツヴィラーの関数
ではほとんどエネルギーが下がらないのですが。波動関数を改良することにかなりエネルギーが下がり重い電子状態が安定となります。
文献 [1] T. Yanagisawa: J. Phys. Soc. Jpn. 68 (1999) 893.
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