超伝導と宇宙、素粒子
       
 
 我々の住む世界は、宇宙から素粒子までスケールが変わることにより階層構造をなしていますが、 不思議なことに類似の物理法則が各階層で成り立っています。


 宇宙の成り立ちに深く関係し、超伝導、磁性などの微視的世界を支配する物理現象に「自発的対称性の破れ」があります。 物理法則がある変換の下で不変であるにもかかわらず、実現した状態がその変換で不変とはならない時に、 自発的に対称性が破れたと言います。例えば、ニュートンの力学の方程式は平行移動という変換のもとで不変です(並進対称性)。 しかし、宇宙は物質が集まったところがあったり、全く真空の所があったりで、並進で不変ではないわけです。 方程式は不変であるのに、解としてえられる(べき)状態は不変とはなっていません。こういう時に、 自発的対称性の破れが起きたといいます。
 宇宙に質量を持った物質が存在するのは、自発的対称性の破れが起きたからです。 超伝導体と宇宙との間には強いアナロジーがあります。こういう話をしましょう
 自発的対称性の破れに、最初に人類が気づいたのは磁石においてです。 ばらばらな方向を向いていたスピンがある温度を境にして、同じ方向を向くと磁石となります。 スピンはどちらの方向を向いていてもいいわけですが(回転不変性)、磁石になりますと全部のスピンが同じ方向を向いています。 スピンの状態を決める方程式は回転で不変であるにもかかわらず、スピンの状態はその不変性を破っているわけです。 スピンがその一つの方向を選んだ瞬間に、自発的に対称性が破ったことになります。
 超伝導状態も自発的に対称性が破れた状態です。超伝導状態になることにより、破れた対称性は位相変換による不変性、 すなわちゲージ対称性です。超伝導のオーダーパラメーターは一般に複素数ですから位相の自由度があります。 超伝導状態になりますと、この位相の自由度がそろった状態になります。 超伝導体中でどこにいてもオーダーパラメーターの位相は同じになっています。 すなわち、勝ってに自由な値をとれるはずの位相が一つの値に固定されており、位相変換の不変性が破れているわけです。 マクロな超伝導体中で位相の値が同じというのは、ちょっとすごいことです。
超伝導体においては、基底状態と励起状態との間にエネルギーギャップがありますが、 このエネルギーギャップは電子がある種の凝縮状態を形成することにより生じます。 核子などのフェルミ粒子の質量の生成と、超伝導におけるエネルギーギャップの生成との間には非常に面白いアナロジーがあります。 このことに最初に気づいたのは南部陽一郎さんです。 我々の宇宙に原子が存在し物質が存在しているのは、質量をもった陽子が安定に存在しているからです。 神岡での実験でも陽子の崩壊は見つかりませんでしたから、自由な陽子はそれほど非常に安定です。 神岡では代わりに、超新星爆発により飛来するニュートリノを捉えることができ、それが大きな成果となりました。 陽子崩壊を予言した大統一理論はそのため疑問視されています。 そこで、なぜ陽子は質量をもっているか考えてみましょう。 陽子はクォークからできていますから、本来ならクォークの力学であるQCDを考えないといけませんが、 クォークのことは忘れてフェルミ粒子である陽子の質量について考えます。 最近、ヒッグズ粒子が話題になっていますが、ヒッグズが考えたヒッグス機構によりZやWなどのゲージ粒子(ボース粒子)の質量が与えられます。 現在の素粒子標準模型では、ヒッグス粒子がすべてのフェルミ粒子と湯川型の相互作用をして、 それによりフェルミ粒子の質量が与えられたとされています。ヒッグス粒子はまさに神の粒子であり、 質量が欲しい粒子と相互作用させることにより質量を与えることができ、その質量がヒッグズ粒子との相互作用の強さに比例します。 しかしながら、物質の質量の大部分をしめる陽子、中性子の質量はヒッグスとの相互作用では説明できません。 QCDを考える必要があり、QCDの寄与の方が支配的であり、ヒッグスによる寄与はごくわずかです。 陽子はフェルミ粒子ですからディラック方程式により記述されますが、この方程式は超伝導のギャップ方程式に非常に似ています。


(つづく)

 
 
 
  Condensed Matter Physics: Electronics and Photonics Research Institute