超伝導の応用
       
 
超伝導は世界中で研究されていますが、どのような応用が期待できるでしょうか。室温超伝導体が発見されたなら、 世界は大きく変わるでしょう。現在は、残念ながら最高の超伝導温度は銅酸化物超伝導体の135K(マイナス138℃)(常圧)です。 超伝導の応用としては、例えば以下のようなことが考えられます。

(1) 超伝導線材(送電線、変圧器)
(2) 超伝導エネルギー貯蔵(電力貯蔵、超伝導電池)
(3) 超伝導磁石
(4) 超伝導デバイス・センサー
(5) 超伝導コンピューター


これらについて、順番に見ていきましょう。
(1)と(2)は、現在の電力状況を一変させると期待されるものです。 超伝導技術は、原子力発電所を必要としない社会を実現させる可能性を持っています。
(1) 電流を流すとどうしてもジュール熱による損失があります。超伝導線材によりこの損失を小さく抑えることができたならば、 かなりの量の節電ができると期待できます。現在、送電による電力損失はどれくらいかを評価するのは簡単ではありません。 送電による損失を減らすために、電力会社は50万ボルトの高電圧で送電しています。電圧を高くすると同じ電力を得るためには、 電流は小さくてすむからです。電流Iが抵抗Rの送電線を流れた時のジュール熱はRI2ですので、 電流Iが小さければ発熱量も小さくなるというわけです。 電流Iが小さければ、抵抗Rによる電位降下V=IRも小さくなり、やはり発熱量RI2=V2/Rは少なくなります。 電力損失は、これ以外に変圧器により電圧を変える際の損失があります。 50万ボルトの高電圧を市街地で流すわけにいきませんので、電圧をさげるわけで、この時に損失がありえます。 実際、電力損失はどれくらいか計算するのは難しいのですが、楽観的にみておよそ5%くらいだろうという意見もあり、もっと多いという意見もあります。 超伝導線材では、このような電力損失を小さく抑えることができます。
 銅酸化物高温超伝導体の線材は実用化のレベルまで来ています。銅酸化物高温超伝導体は異方的なd波対称性を持つ超伝導体ですが、 線材により適した等方的s波超伝導体の線材化の研究も進められています。

(3) 超伝導磁石は、医療機器MRI(Manetic Resonance Imaging)に使われています。 線材は、冷やすコストを下げるために高い臨界温度Tcの超伝導体が必要となりますが、 小さな超伝導磁石は容易に冷やすことができるために、今後多くの応用が期待できます。
大型の磁石の応用は、よく知られた磁気浮上リニアモーターカーです。一般に、リニアモーターカーと言われていますが、 超伝導体を使っているのは磁気浮上に関してです。超伝導体は磁場を廃除しようとしますので(マイスナー効果)、 磁石を近づけると磁石との間に斥力が働きます。これにより、かなり重いものでも浮かせることができます。 磁気浮上に使われるのは、第二種超伝導体とよばれているもので、磁場は完全に廃除されるのではなく、 糸状の磁場が超伝導体の中に入り込むことができます。これを、渦糸といいます。 渦糸は超伝導体のエネルギーが最小になるような配置をとり、普通は三角形の格子を組みます。 これを、アブリコソフ格子といいます。超伝導体の中を磁束が何本も突き通っているようなイメージです。 超伝導体をちょっとずらしますと磁束のエネルギーが変化し、超伝導体のエネルギーが上がりますので、超伝導体はもとの位置に戻ろうとします。 そのため、磁石の上に浮いた超伝導体は安定に同じ位置に浮いたままとなります。 (これを、磁束のピン止めと言うことがあります。) また、普通のモーターは、磁石を円状に配置して、回転する動力を引っぱりだしますが、リニアーモーターは磁石を直線上に並べて、 直線方向の動力を作り出すものです。並んでいる磁石にどんどん引っ張られていくという感じです。 (リニアーとは直線の、あるいは線形のという意味です。) これには、必ずしも超伝導体を必要とはしません。実際に、地下鉄大江戸線はリニアモーターによって運行されています。

 
 
 
  Condensed Matter Physics: Electronics Research Institute