雨と噴火の関連性について
by Isoji MIYAGI @ Geological Survey of Japan, AIST
- by 宮城磯治 (産総研・地質調査総合センター)
- 作成日:平成13年7月10日(火)
- 修正日:平成13年7月13日(金)
- デザイン変更:2008年4月27日日曜日
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- はじめに
雨がふると火山が噴火しやすい,という話を耳にすることがあります.そこで,桜島の噴火日と降雨日の二体相関をとることにより,この問題を検証しました.すると,両者の時間関係に明瞭な関係は見られなかったものの(噴火当日と四〜五日前に雨が降る頻度が高いことを示すピークはあったが,ノイズレベルと大差なかった),噴火した日とその直前の降雨日の二体相関をとったとると,降雨日に噴火する確率が高いことがわかりました.そこで計算機を用いた考察を行なった結果,降雨日と噴火日がランダムでも降雨日に噴火する確率が高くなることがわかりました.その理由は,簡単なモデルによって説明できました.桜島において観測された,「降雨日に噴火する確率」も,上記のモデルによって比較的容易に説明することができます.
- 結論
桜島の噴火と降雨の間には明瞭な関係はなく,現時点では,噴火と降雨の因果関係を考える必要性は少ない.
目次 |
問題意識
三宅島では2000年9月より住民全島避難が指示されており,本日(平成13年7月12日(木))10ヶ月ぶりに,一部住民による短時間の一時帰島が実現した.←注意:(2008年4月27日日曜日現在 この指示は解除されています)
三宅島では降雨と噴火の関連性が指摘されていた.梅雨時でもあり,この関連を明らかにすることは,住民一時帰島の安全確保にも資すると思われる.だから調査研究を行なう.
しかしながら三宅島は噴火の頻度が少ないので,統計誤差が大きい.そこで,活発に噴火をつづけている桜島を例にとり,今後の議論のたたき台としたい.
したこと
- 桜島の噴火日と降雨日を調べてみました.
- 噴火日から降雨日までの日数を全て数えあげました.
- 日数の頻度グラフを作成しました.
- ついでに降雨日から降雨日についても同様の解析をしました.
- データ数が足りているかどうかに関する検討をしました.
- 「噴火直前の雨」だけに注目してみました.
- 「噴火直前の雨」だけに注目して,桜島のデータを解析しました.
- 直前の雨だけに注目したとき,何故,降雨日に噴火日する確率が高いのか(!?)考察しました.
- 降雨日と噴火日が一致する確率は何で決まるか,考察しました.
- 桜島のデータを見なおしてみました.
- その後,水戸市の降水量と桜島の噴火の関連を調べてみました.
桜島の噴火日と降雨日
- 噴火日erup00-01.txt
(元データは鹿児島地方気象台の定期火山情報→kazan-report) - 降雨日rain99-01.txt
(元データは気象庁のアメダスデータ→Mail de AMeDAS)
※2008年4月現在は,気象庁の気象統計情報のページから,過去の気象データが検索できるようになっています.
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噴火日から降雨日までの日数
二体相関を,このプログラム→(pc2.pl)を使って計算しました.
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噴火日から降雨日までの日数の頻度グラフ
↓↓グラフをクリックすると大きくなります.
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降雨日から降雨日までの日数について
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データ数が足りているか
上に示した噴火と雨のグラフをみると,いかにもデータ数が不足気味に思えるからです.
そこで,コンピュータの疑似乱数を用いて発生させたデータについて,同様の解析を行なってみました.
乱数の発生には,このプログラムを用いました→(rnd.pl)
発生させた乱数の解析には,このプログラムを用いました→(pc1.pl)
- 1000日の期間に,200日雨が降って,50日噴火した場合のケース.→f50_r200_d1000
- ※上で桜島に対して行なったケース(18ヶ月で186回噴火,338日降雨)にほぼ匹敵します.
- 1万日(約27年)の期間に,2000日雨が降って,500回噴火した場合.→f500_r2000_d10000
※ランダムデータを与えたにもかかわらず,噴火当日の雨が少なく,噴火の一週間ぐらい前に雨が多いようにみえます.
- |千年の期間に,7万3千日雨が降って,1万8千250回噴火した場合.→f18k_r73k_d365k
※この程度データがあると,噴火と雨の日が無関係(ランダム)であることがよくわかります.
このように,噴火と雨のタイミングがランダムで,かつデータ数が十分多い場合には,二体相関のグラフはほぼフラットになります.しかし,たとえランダムでもデータ数が少ないと,統計的なばらつきによって凹凸ができてしまうことがわかります.
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「噴火直前の雨」だけに注目するとどうなるか
このように,桜島の実例(噴火日と降雨日)について二体相関をみたところでは,噴火と雨の間に明瞭な関係は認められませんでした.
しかしそれでも,降雨日と噴火に関連があるように感じるのは何故でしょうか?
たとえば桜島の観光タクシードライバーの方に聞いた話(miyakejima-mlにおける延永さんの発言[伝聞]をさらに引用)によると:
- 雨が降った後は噴火しやすい.
- 雨が多いと噴火までの時間が長くなる傾向がある.
- 雨が降ってから噴火するまでの時間が長いほうが規模が大きくなる傾向がある.
そうです.また,ニュージーランドの火山についても,これに似たジンクス(?)があるそうです.
※雨の数日後に噴火に至りやすいという話もあるが,桜島の例ではその事実は明瞭には確認できませんでした.これに関しては,今後も検討をつづけます.
そこで,より人間の直観に近い解析方法を考えてみました.
すなわち,「全て」の降雨日と噴火日を対象にするのではなく,噴火の直前の降雨のみについて,噴火と降雨の日数差を数えてみたらどうか,ということです.具体的には,噴火日から遡って最も近い降雨日までの日数差を調べ,これを全ての噴火日について行ない,日数差ごとに頻度を数えます.
解析:(この→prevRain.pl プログラムを用いました)
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「噴火直前の雨」だけに注目して,桜島のデータを解析するとどうなるか
これは桜島でのケース.
桜島では,最近18ヶ月の間に噴火が186回,雨が338回ありました.
左から,噴火と雨の相関,噴火の自己相関,雨の自己相関(いずれも直前の雨/噴火だけに注目したものです)です.
使用したデータは同じです.
これにはちょっと驚きました.直前の雨だけに注目したときは,降雨日に噴火する確率が高いのです.
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何故,降雨日に噴火する確率が高くなるのか
噴火直前の雨に注目したとき,なぜ,降雨日に噴火する確率が高くなるのでしょうか? 乱数を用いた場合にも同様のことが起きるかどうか,実験してみました.予想は,乱数なのだから特定の日に確率が集中することはないだろう,です.
1000日の期間に,200日雨が降って,50回噴火した場合のケース.
これにも,,ちょっと驚きました. 直前の雨だけに注目すると,ランダムなデータを与えたにもかかわらず,降雨日に噴火する確率が高いということが示されたのです.データ数が少ないとはいえ,,,. |
計算に用いたデータは,f50rndRain.txt と f50rndErpt.txt です.
なお,降雨日,噴火日,それぞれの自己相関(直前の雨だけに注目)は右のようになります. |
もっとデータをふやしたらどうなるでしょうか?.
1万日(約27年)の期間に,2000日雨が降って,500回噴火した場合.
計算に用いたデータは,f500rndErpt.txt とf500rndRain.txt です.
やはり結果は同じで,直前の雨だけに注目すると,雨と噴火が同時におこる頻度が高い,という結果になりました.うーむ. |
降雨日と噴火日が一致する確率は何で決まるのか
直前の雨だけに注目すると,何故,雨と同時に噴火する頻度が高くなるのでしょうか?
雨と噴火をランダムに与えているということを念頭において,整理してみましょう.
上の実験では噴火日と降雨日を乱数で発生させていますが,雨と噴火の頻度は制御してあります.雨は平均5日に一回,噴火は20日に一回の割合です.
簡単のため,実験期間(1000日〜千年)を5日の区間に分けて考えます.
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↑実験期間を5日で区切った様子. |
雨は平均5日に一回あって分布はランダムなのですから,ほぼ毎回,A〜Eのいずれかに,均等な確率で入るはずです.
噴火もランダムですから,A〜Eには均等な確率で入るはずです.頻度は20日に一回ですから,どの升目に入らない場合もあるでしょう.しかし今は「噴火した日」を基準に雨の日を見ているので,噴火があった週(5日ですが)のみ考えます.
たとえば:
- case:い では,雨(A)は噴火(E)の四日前に降っています.
- case:ろ では,雨(C)と噴火(C)が同時に起こっています.
- case:は では,噴火(C)の一日後に雨(D)が降っています.
全てのケースを列挙すると,以下のようになります.
雨 | 噴火 | 噴火 | 噴火 | 噴火 | 噴火 |
A
日差 | A
(-0) | B
(-1) | C
(-2) | D
(-3) | E
(-4) |
B
日差 | A
(+1) | B
(0) | C
(-1) | D
(-2) | E
(-3) |
C
日差 | A
(+2) | B
(+1) | C
(0) | D
(-1) | E
(-2) |
D
日差 | A
(+3) | B
(+2) | C
(+1) | D
(0) | E
(-1) |
E
日差 | A
(+4) | B
(+3) | C
(+2) | D
(+1) | E
(0) |
噴火と降雨日はランダムなので,これら5×5=25のケースはすべて均等に起こります.
「噴火と雨天の日数差」に注目して整理すると,以下のようになります.
日差 | 回数 | 確率 |
-4 | 1 | 1/25 |
-3 | 2 | 2/25 |
-2 | 3 | 3/25 |
-1 | 4 | 4/25 |
0 | 5 | 5/25 |
1 | 4 | 4/25 |
2 | 3 | 3/25 |
3 | 2 | 2/25 |
4 | 1 | 1/25 |
もうお分りになったと思います.
「雨と噴火が同時に起こる日(日差がゼロ)」は降雨がA〜Eいずれでも存在するのです.
だから,,日差がゼロ以外のケースよりも確率が高くなるのです!.
つまり,
噴火が雨によって引き起こされていなくても,
噴火と雨が同時に起こりやすいように見えるのは当然だ
ということが言えるでしょう.
※この現象は「さいころ」を二回振るためにおきる現象(ラッキーセブンと同じ理屈)です.
一方を固定(たとえばこのデータ→[1]f500stpRain.txt のように降雨日を等間隔にする)してしまうと,当然,確率は均等になります→ |
では,この単純なモデルにもとづいて,「噴火のうち,雨と噴火が同時に起こる確率」の予想を,試みてみましょう.
上にあげた例のように,升目が規則正しく並んでいて毎回雨が降ることが保障されているときは,その確率は「升目の数 分の一」になります.これは自明です.
では,升目の数が一定でなかったらどうでしょうか.- 事象と事象の時間間隔がランダムな場合,その間隔は「指数分布」になることが知られており,たとえば雨のあと雨が降る確率は「時間=0」のときに最大で,時間が経過するにつれて確率は「指数関数的」に減少します(東宮@GSJさん 談).
したがって雨の周期が一定になることはありえないのですが,一定でなくても,平均的な升目の数があると仮定すると,大雑把ではありますが,上での議論を応用することができて,雨と噴火が同時に起きる確率は「雨の平均周期分の一」になるかもしれません.
乱数で与えた雨の平均間隔は5日ですから1/5で確率は0.2になるはずです.すると実際に,たとえば上の,1000日の間に50回噴火したケースでは,噴火と雨が同時になった頻度が10回です.ちょうど確率0.2となりました.
さらにデータをふやした計算例(千年の期間に,7万3千日雨が降って,1万8千250回噴火した)ではどうでしょうか?.この場合,雨と同時の噴火が3250回ありますから,噴火のときに雨が降る確率は0.18です.これは予想される確率「0.2]よりも少し小さ目ですが,これは乱数でつくられた雨が東宮さんのいう「指数関数的な分布」をしたために,実効的な平均間隔が5.5日程度だったことを示しているのかもしれません. 計算に用いたデータは,f18krndErupt.txt とf18krndRain.txt です. |
降雨日,噴火日の自己相関↑.
桜島のデータを見なおしてみる
さて,そういう目で,もう一度桜島のデータを見なおしてみましょう.
桜島では,最近18ヶ月の間に噴火が186回,雨が338回ありました.18ヶ月は約540日ですから,平均すると1.6日に一度,雨が降ったことになります.仮にこの値(短かすぎる??)をとると,噴火のうち降雨日に噴火する確率は6割もあるはずですが,実際には降雨日に噴火した割合はずっと低くて,3.2割です.
逆にいうと,雨の間隔が約3日であれば,噴火が降雨日と重なった割合は,さして難なく説明できてしまうのです.実際に,降雨日の二体相関(その4参照)グラフをみると,降雨間隔は三〜四日のようです.
まとめ
まとめると:
- 桜島では降雨日に噴火する確率(全噴火に対して)が高い.
- 降雨と噴火がランダムに起きるとき,降雨日に噴火する確率が高いのは自明である.
- 1は2でうまく説明できてしまう.
- よって,桜島の噴火が雨によって励起されていると考える必要はほとんどない.
その後
じゃあ,,ランダムなら何と相関をとったって,噴火日にピークが立つはずだと思いました.そこで,茨城県水戸市の降水量と,桜島の噴火日の相関を調べてみました.
結果は(→これです)予想どおり,水戸で雨が降ったその日に桜島で噴火した確率が高くなりました.