「河口湖」における降水の時間分布について

by Isoji MIYAGI @ Geological Survey of Japan, AIST

研究副産物



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火山研究解説集:


by 宮城磯治 (産総研・深部センター)
作成日:平成15年6月24日(火)
変更日:平成15年6月26日(木)
デザイン変更:2008年1月7日月曜日


関連ページ:


目次

問題提起

私たちは長年の経験から,雨の降りかたには時間的な「ムラ」があることを知っています.たとえば,関東地方では初夏に比較的多くの雨が降るのが普通で,それは梅雨と呼ばれています.もっと短かいスケールでも,雨の降りかたにはムラがあります.たとえば,雨の日は何10日も続かないのが普通です.では,もっと長い時間スケール,5年,10年,100年を考えたとき,雨の降りかたにはどのようなムラがあるのでしょうか?.

この疑問について考えるため,気象庁のデータを用いて,「河口湖」における降水量の時間分布を調べてみました.この場所を選んだ理由は,富士五湖のうち本栖湖,精進湖,西湖は5〜10年ごとに水位が10m近くも上下することが知られており,変動のメカニズムに筆者が興味を持ったからです.まずは,湖の水源となっている「降水」の時間変化を調査しようというわけです.

結果

河口湖における雨の降りかたの時間分布を調べたところ,おおきく分けて二種類の降りかたがあることがわかりました.ひとつは「定常的な降水(基本給?)」的な降りかたで,このうち基本給部分は,1年周期で規則的に変動するものの,ここ数10年は,一定とみなせる降水です.うひとつは「突発的な降水(ボーナス?)」的な降りかたで,8〜11年の周期で増減していることがわかりました.河口湖の降水量は8〜11年の周期で増減していますが,それは基本給が増減しているためではなく,ボーナスが8〜11年周期で変化していたためだった,と解釈できそうです.

解析法

考えるための材料:

気象庁電子閲覧室から,「日付」と「雨量(ミリメートル)」を得ました.

下ごしらえ:

・計算しやすくするため,日付を数値(1904.1.1からの日数)に変換しました.

・雨量の多少を評価しやすくするため,雨量を2mmを1単位とした「個数」として扱かいます.※たとえばその日の降水量が1.5mmならその日の雨粒は0個,8mmなら同じ日付の雨粒は4個とします.これを全ての降雨日について行ないます.すると,様々な日付の多数の雨粒を思い浮べることができるでしょう.

解析法:

全ての雨粒について,お互いの「日数差」を計算します.たとえば同じ日の雨粒では,日数差がゼロです.今日とその1週間前の雨粒では,日数差は7です.日数差ごとに雨粒のペアを数えあげ,日数差を横軸にしてグラフに表示します.全ての雨粒について行なうので,パソコンなしではちょっと,やる気が起きませんね,.

基本的にはこのページ→(雨と噴火の関連性について)の「噴火日から降雨日までの日数」と同じ解析手法です.

同じ手法をつかって「ランダムなデータ」を解析した場合には,こちらのページ→(二体相関:ランダムなデータの場合)のようになります.※:データには数理設計研究所の「マクスウエルの悪魔」さんが作成した乱数を使用させていただきました.

解析結果

おっと,その前に元データはこれ↓です.

kwgt-rain.gif


横軸は時間(ここでは1961年1月1日からの日数),縦軸は日降水量(mm)です.

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kwgt-pair00010d.gif


横幅10日でのヒストグラム.日数差0は,「全ての雨粒が降った当日」という位置付けです.ここが最大なの理由は,全ての雨粒は自分自身とペア(日数差ゼロ)なのと,同じ日に複数の雨粒が降っているからです.ここから中心に,日数差が大きいほど,離れた日に降った雨になります.日数差が2までは数が減少しますが,それ以上離れてもペアの数ほぼ一定になります.このことから,雨粒は3日程度のクラスターをつくっていることがわかります.また,それを越える日数では,雨の降り方は「ほぼ」ランダムであることがわかります.

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kwgt-pair00020d.gif


上の図と同じものですが,横軸の幅を20日にとり,縦軸を拡大しました.ひとつ前の図では,日数差が2以上離れたペアの数はほぼランダムにみえました.しかしよくみると,ゆらぎがあることがわかります.7日と14日あたりに凹みがあります.このことから,基本的には雨は3日程度の時間的クラスターを形成するが,8日程度のクラスターを形成するケースも多少あることを示しています.また,11日のところの凸は,クラスター同士の間隔を示しています.つまり,降雨日の11日後にまた雨が降りやすいことを示しています.

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kwgt-pair00180d.gif

これも上の図と同じもので,横幅を180日にしました.これもみると,雨のペア数は安定したベースラインを形成していることがわかります.ベースラインは時間とともにゆるやかに低下することがわかります.しかし40日後のところには,ベースラインより高い値が散在しています.これらは定常的な降雨(ベースライン)とは別の,突発的にもたらされる大雨と考えられます.それらは約40日の間隔をもっています.この間隔は,「梅雨」,「台風シーズン」,「集中豪雨のシーズン(?)」,「秋雨」というように,一年の中に存在する複数の雨期(雨のクラスター)の間隔を示していると思われます.

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kwgt-pair00720d.gif


同様に,横幅を720日(本当は730がよかったが)にしました.ひとつ前の図ではベースラインが時間とともにゆっくり低下するように見えましたが,この図ではそれは1年周期の一部を見ていたことがわかります.すなわち,雨は1年間隔のクラスターを形成しています.約40日後と,約360日後と,700日後のところには,ベースラインを越える値が散在しています.梅雨や台風がほぼ1年の周期でくりかえしやってくることを示しています.

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kwgt-pair07200d.gif


同様に,横幅を7200日(約20年)にしました.ベースラインに分析点が集中し赤くつぶれています.ベースラインは1年の周期で規則正しく上下するものの,基本的に一定(※1)であることがわかります.

それに対して,ベースラインを越えた所に散在する値(赤くつぶれた線の上方に散在している)は一定ではなく,数年の周期で増減しています.原点から右にみてゆくと,それらは急減し,約5年のところに谷がみられます.しかしその後は増えてゆき,約3000日(8.2年)と約4000日(11年),約6500日(17.8年)のところで山をつくっています.

こうイメージするとわかりやすいかもしれません.基本給は安定していて,ボーナスの量が8〜10年周期で増減する,,と.

このことから,河口湖の降水にはベースライン(年周期で変動するが安定)に,8〜11年の周期で増減する成分が加わっていることがわかります.この成分が多い時期は結果的に雨の多くなります.そのような時期は約5年の長さをもっていることがわかります.

この周期が何故おこるのか,ボーナスが何故8〜10年周期で増減するのかは,よくわかりません.

※1:右に行くほどベースラインがゆっくり低下してゆくように見えますが,これは明らかに人為的なものです.これは降雨日のデータの端にちかづいたことが原因で,本当は一定になるはずです.これを防ぐにはデータの解析幅を狭めればよいのですが,せっかくのデータを一部捨てることになるので,していません.とりあえず,気にしないでください.下図参照↓↓.

kwgt-pair14400d.gif


解析に使用したデータの端付近までプロットしたもの.残念ながら手持ちのデータでは,100年のタイムスケールを見ることはできません,,,.

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