三宅島2000年噴出物の構成粒子について

by Isoji MIYAGI @ Geological Survey of Japan, AIST

噴火対応

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三宅島2000年噴火


有珠山2000年噴火

(宣伝 ^_^);
火山研究解説集:


作成:平成12年11月8日(水)
変更:平成13年7月19日(木)
デザイン変更:2007年12月27日木曜日
by 宮城磯治@地質調査所(現,産総研・地質調査総合センター)


目次

★はじめに★

 2000年の三宅島では,7月8日以来火山灰を主体とする噴火が繰り返され,9月中旬から膨大な量の二酸化硫黄の放出が続いています.特に火山ガス放出には,衰える気配がみられません.これから先,本当に長期化するのかどうか,先を予測するための材料として,地下のマグマ活動について理解を深め,科学的に意味のあるモデルを構築することは重要だと考えられます.

 三宅島の歴史時代の活動では,溶岩やスコリアの放出をともなう噴火が主体でした.そのような噴出物は「そのとき活動したマグマが固結したもの」と見なせるでしょう.岩石学者は,噴出物の化学組成や組織をそのまま観察することによって,そのとき活動したマグマに関する情報を得ることができます.もし三宅島2000に活動したマグマを直接手に取ることができたなら,岩石学的な視野が開かれ,火山ガスの放出過程などに関する理解が前進するでしょう.

★何が問題か★

 しかしながら,2000年の三宅島では歴史時代の活動とは違って,火山灰を主体とする噴火が続いています.火山灰には,今回のマグマ物質のほか,山体を構成する過去の溶岩,過去のスコリア,変質物など,多種多様な物質が混入しているはずです.もしも分類を行なわずに,あるいは適切でない分類のもとに個々の火山灰粒子を分析したらどうなるでしょうか?.恐らく,「これは雑多な物の集合体だ」という当然の結論に達するだけで,活動中のマグマに直結する情報はなかなか望めないでしょう(硫黄同位体の分析などは話が別です).

★本研究の目的★

 そこでこのページでは,雑多な混合物である「火山灰」のなかに含まれるであろう「今回活動中のマグマ」を特定する目的で,三宅島2000年噴火で放出された火山灰の構成粒子を走査電子顕微鏡(反射電子像)で観察し,微細組織の特徴に基づく分類をした結果を,お見せします.微細組織の違いは,マグマの化学組成の違いや,マグマが火山灰として固化 するまでの温度圧力履歴の違いを反映するはずですから,これにもとづいた分類は十分科学的な意味があるでしょう.

 なお,構成粒子の種類やその比率が噴火時期とともにどのように変化したか,構成粒子の化学組成分がどうであるか,構成粒子がどのような起源をもつと考えられるか,構成粒子のうち今回のマグマに由来するものがどのような深度で破砕されたのか,八丁平カルデラ形成期の噴出物と今回のとの比較,等々については別ページで解説する予定です.

★したこと★

 三宅島の火山灰を水洗,篩分け(0.25-0.149mm区間),片面研磨し,走査電子顕微鏡で研磨面のデジタルBEI(反射電子像)を撮影しました.ハンドピック(実体顕微鏡等の下で任意の粒子をピンセット等で選択すること)は行なわず,篩分けされた粒子をそのまま研摩しています.これは観察者の先入観に起因する悪影響(本人の思い込みで特定の粒子を選択してしまうこと)を除去するための工夫です.

 次に,得られた反射電子像(A4サイズに印刷)に写っている火山灰粒子を一つ一つハサミで切抜き,床やテーブルの上に並べて鳥瞰しながら,人間のパターン認識(宮城の目)にもとづいたグループ分けを行いました.この方法は原始的ですが,粒子間の組織の差違がよくわかりました.

 新たな噴出物が入手されるたびに以上を繰り返し,場合によってはグループ分けの内容を再検討しました.

 なお,デジタル反射電子像の撮影は碁盤の目状に規則正しい間隔でなされ,撮影対象のほぼ全面積がカバーされています.研磨片の一枚あたり200〜300枚の画像が撮影され,それを用いて「研磨片の地図」が作成されました.研磨片は直径約2センチの小さな円盤ですが,電子顕微鏡の下ではこれは非常に広大であり,うっかりすると迷子になります.この地図は,さらに詳細な分析を効率的に行なううえで(例えば東宮氏による磁鉄鉱化学組成の分析,宮城によるSIMSを用いた含水量分析,構成粒子の計数,など)大変有効でした.


有珠で入門 三宅で応用
上述の観察手法&研究思想は基本的に,有珠2000年噴火の火山灰中にマグマ物質Us-2000gを見つけた時と同様です.
有珠2000年の噴出物は三宅島2000年のものに比べると研究の難易度は遥かに低く,我々研究者(特に宮城と東宮)のトレーニング用としてとても適していました.もしも三宅島が有珠山よりも先に噴火していたなら,そもそも火山灰粒子を分類しようという発想自体,なかっただろうと思います.


有珠2000年噴火対応の思い出…

  • この写真は,地質調査所のセミナー室で有珠の噴出物について議論をしている風景です.
  • 研摩試料作成の雰囲気は,EPMAのページでご覧いただけます.


★三宅島2000噴出物の反射電子像★


※基本的に反射電子像の輝度は固定しているので化学組成の相対的な比較(たとえば,鉄が多い部分は明るい) が可能です.但し,9月以降の分析はやや明度を上げてる設定に変更しています.

★分類結果★

分類の結果を以下の表に示します.


走査電子顕微鏡の反射電子像による組織観察に基づいた 火山灰構成粒子の分類

as of 00.07.21

as of 00.07.31

as of 00.08.31

as of 00.11.05

as of 01.07.19

Alt

Alt

Alt

Alt

Alt

Xtal

Xtal

Xtal

Xtal

Xtal

Myk2000g

Myk2000g-2

Myk2000g-2

Myk2000g-2
Myk2000g-6

Myk2000g-2
Myk2000g-6

-

Myk2000g-1

Myk2000g-1

Myk2000g-1
Myk2000g-3
Myk2000g-8

Myk2000g-1
Myk2000g-3
Myk2000g-8

-

-

Myk2000g-4
Myk2000g-5

Myk2000g-4
Myk2000g-5

Myk2000g-4
Myk2000g-5

Clot
-

Clot
-

Clot
-

Clot
Myk2000g-7

Clot
Myk2000g-7

-

-

-

-

Etc


各集団の簡単な解説:

以下に各集団の粒子について解説するとともに,いくつかの例を写真でお見せします.

写真をクリックすると大きく(1ピクセルが1μm)なります.


Alt


alt-0721a-11a.png alt-0904d-11a.png alt-0904d-11b.png alt-0904d-22a.png


 変質程度の大きい粒子を指します.反射電子像で三宅島の火山灰を観察すると,変質したものは暗く見えるので,他と区別できます.これらの変質した岩片の微細構造にもとづいてそれらをさらに細分することは不可能ではありませんが,分類の目的からするとあまり意味がありませんし,それは非常に困難でしょう.したがって,「変質した岩片」というくくりは妥当なものと考えられます.

Xtal

xt-0904b-31a.png xt-0904b-31b.png xt-0904b-31c.png xt-1004a-37a.png


 結晶の破片を指します.これらは斑晶の破片でしょう.それらの斑晶は今回のマグマに由来するものもあるでしょうし,既存の山体を構成する溶岩やスコリアのものもあるでしょう.このページではこれらの破片を細分せず一括しています.というのは,結晶片の周囲には基質が全く付着していないか,付着していてもごく少量であり,基質の微細構造にもとづいた分類が困難だからです.但し,今後,鉱物化学組成や斑晶ガラス包有物の分析値に基いた細分類を行なう可能性があります.

Clot

clot-0803c-22a.png clot-0904d-31a.png clot-0904d-41a.png clot-1004b-25a.png


 石基鉱物サイズの結晶が密に集合したものを指します.結晶隙間にわずかにガラス残っていることもありますが,発泡はしていません.ガラスが発泡していない点と,結晶のサイズが異なる点で,以下に述べるMyk2000gシリーズと区別されます.なお,2000年11月に分類の再検討を行なった際に,それまでClotタイプと分類していたもののうち,結晶粒間のガラス量が比較的多く磁鉄鉱の樹枝状結晶が晶出しているものを,「Myk2000g-7」 として再定義しました.


Myk2000g


 これはよく発泡した岩片です.地質調査所は三宅島の2000年7月8日および14日噴出物について顕微鏡(光学・電子)を用いた観察を行い,火山灰中にマグマ物質の疑いのある新鮮な発泡岩片が含まれている(※7月21日の予知連にはじめて報告) ことを発見しました.「Myk2000g」という名称はその時最初につけた仮称で,現在は使用していません.

Myk2000g-1


g1-0721a-04a.png g1-0721a-11a.png g1-0721a-18a.png


 比較的よく発泡したガラス片です.風化変質は認められません.2000年7月後半におこなった火山灰分類の検討の際に,Myk2000gのうち発泡が非常に細かいものを「Myk2000g-2」とし,これに比べて(基質がよりガラス質で)気泡がより粗く,基質の微細鉱物に輝石がない(目立たない)粒子を「Myk2000g-1」と呼び直すことにしました.


Myk2000g-2


g2-0904d-01a.png g2-0904d-22a.png g2-0904d-22b.png g2-1004a-02a.png g2-1004a-37a.png g2-1004b-25a.png


 非常に細かく発泡した岩片です.風化変質は認められません.10μm程度の微細で多数の気泡と,数μm程度の微細で針状の石基鉱物によって,他の岩片とは比較的容易に区別されます.このMyk2000g-2は,特に7月14日と8月18日の火山灰では,風化変質していない粒子の圧倒的多数を占めます.なお,この粒子の気泡はとても細かいので,実体顕微鏡下では金属光沢のある黒色の石質岩片に見え,うっかりすると発泡構造を見逃してしまうかもしれません.一連の火山灰に含まれるMyk2000g-2の微細組織は,8月18日に放出された高温の火山弾と基本的に同じ(但し,系統的な経時変化はある)です.Myk2000g-2に含まれる磁鉄鉱鉱物の化学組成は,単一の集団を形成し,かつ,他の粒子中のものとは区別できます.Myk2000g-2中の輝石および斜長石微斑晶(石基を埋める微細結晶よりもやや大きいものを指す) の化学組成は,8月18日の高温火山弾中のそれらと一致します.このように,(1)火山灰の新鮮な粒子の圧倒的多数を占め,(2)化学組成と微細構造で単一の集団を形成し,しかも(3)同質の火山弾は高温だったことから,Myk2000g-2が今活動中のマグマだと結論しても良いでしょう.ただし,Myk2000g-2以外のグループにもマグマ由来のものが含まれる可能性はあります.個人的には,Myk2000g-1がそうかもしれないと考えています.

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m2g2-typ-altinc.gif


Myk2000g-2の変わり種:

このMyk2000g-2粒子は,Altタイプ(変質した粒子)を包有している.このことは,Myk2000g-2のマグマが地下の変質部を通過したこと,すなわちマグマは変質部よりも深い場所から供給されたこと,またその時点でマグマは十分流動的だったことを示している.



Myk2000g-3


g3-0721a-07a.png g3-0805b-28a.png g3-0904d-01a.png


 これはMyk2000g-1より発泡が粗いという点でMyk2000g-2と区別でき,また,基質の微細鉱物に輝石がある(目立つ) という点でMyk2000g-1とも区別できます.風化変質は比較的少ないです.


Myk2000g-4


g4-0904b-33a.png g4-0904d-25a.png g4-0904d-60a.png


 この粒子はこれまで観察された粒子のなかにごく少量しか含まれません.基質の微結晶がMyk2000g-2よりさらに細かく,気泡の大きさがはMyk2000g-1と同じぐらいで,気泡の形につぶれたものが多いという点で他と区別できます.部分的に風化変質していることがあります.


Myk2000g-5


g5-0904d-29a.png g5-0904d-45a.png


 この粒子も比較的少量しか含まれません.基質はガラス質で,比較的少数の微斑晶主に斜長石からなるという点ではMyk2000g-1と類似しますが,気泡サイズが火山灰の直径よりも大きいことが多いという点と,基質ガラスの表面が風化しているという点で,Myk2000g-1とは区別することができます.


Myk2000g-6


g6-0805b-10a.png g6-0805b-12a.png


 この粒子はごく少量しか含まれません.気泡は微細で比較的数が多く,基質の微結晶が微細で針状で多数だという点でMyk2000g-2に類似しますが,基質の微結晶に斜長石が多く含まれており,反射電子像の輝度は典型的なMyk2000g-2よりも暗いので,区別できます.


Myk2000g-7


g7-1004a-19a.png g7-1004a-38a.png


 これはClotタイプの結晶粒間にガラスを入れたような組織を持ちます.粒間にガラスがあることと,そのガラス中に磁鉄鉱の樹枝状結晶が晶出しているという点で,Clotタイプと区別できます.このタイプは,9月になって白色の連続噴煙をあげるようになって以来,量が増加しています.部分的に風化変質していることがあります.


Myk2000g-8


g8-0721b-05a.png g8-0803d-13a.png


 この粒子も比較的少量です.基質の特徴はMyk2000g-3に似ていますが,微結晶のサイズ分布が異なります.気泡を含まないものは外形が破断面で囲まれることが多いです.同質の基質で粗な発泡をしているものものも,同タイプに分類しました.部分的に風化変質していることがあります.


★まとめ★

走査電子顕微鏡の反射電子像をもちいた微細組織観察結果にもとづいて,三宅島2000年火山灰を11のグループに分類した(本研究).その結果,(1)黒灰色の噴煙から得られた火山灰の新鮮な粒子の圧倒的多数を占め(本研究),(2)化学組成と微細構造で単一の集団を形成し(本研究→ 東宮斎藤宮城),しかも(3)同質の火山弾は高温な(宮城東宮川辺伊藤星住),火山灰粒子グループ「Myk2000g-2」の存在が明らかになった.


補足

分類数が高々10数しかないことについて
  • 火山灰には,長期間かけて形成された山体の多種多様な構成物が混入する可能性がある.だから,分類が数百種類におよんだとしても不思議はない.むしろ,本研究でそれらを10数種類に集約してしまったことは,一見無理におもえるかもしれない.しかし,過去の物質の大半は変質しているため「ALT」に押しこまれていると考えると,比較的小数の分類でよいことが納得できるだろう.
作業分担について
  • 試料採取は地質調査所の川辺,伊藤,宮城,宇都および気象庁によります.
  • 水洗と篩分けは地質調査所の星住,伊藤,宮城によります.
  • 研磨片の作成と撮影は宮城によります
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