EPMA

by Isoji MIYAGI @ Geological Survey of Japan, AIST

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  • 産総研・地質調査総合センターのEPMA JEOL-8900

文・写真=宮城@地調 (2000年4月?日作成,9月11日改訂)


はじめに:

有珠山2000年噴火三宅島2000年噴火で本質物質をみつけた際には,EPMA(電子プローブエックス線マイクロアナライザ)の,化学組成分析機能と画像撮影機能(走査電子顕微鏡機能)が大活躍しました( [1] [2] ).

EPMAという装置はもう何十年も前からあって,様々な研究分野に応用できるものです.装置のしくみや分析の原理に関する情報は,インターネットのサーチエンジンで「EPMA」「電子線プローブマイクロアナライザ」といったキーワードを引いてやれば,沢山入手することができます.しかしながら,地球科学独特の,さらに言えば火山学でどのようにEPMAが使われているかに関する情報は,一般の方にはなじみがないと思います.そこでこのページでは,EPMAについてご紹介します.


現在このページの内容は,野外で採取した火山灰試料を観察分析する際の前処理が主ですが,おいおいEPMAを用いた分析・測定風景などについて,内容を追加して行く予定です.


EPMA用試料(研磨片)の作成

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  • 1.日曜の午後,「地質グループ」が洞爺湖周辺にて採取した2000年3月31日の有珠山の火山灰試料が,チャックつきビニール袋に入って,茨城県つくば市の地質調査所に届きました.早速処理にとりかかります.試料のみかけはいわゆる「泥〜細かい砂」です.

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  • 2.まず蒸留水とともにビーカー中で懸濁させます.

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  • 3.次に,超音波洗浄器にて1〜2分洗浄し,数分静置後上澄み(澄んでませんが)をとり,再び蒸留水を入れて懸濁させ(2),洗浄(3)を繰り返します(七〜八回).上澄みが濁らなくなったらおわります.

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  • 4.次に,110℃のオーブンに入れて十分乾燥させます.この時点で試料のみかけはいわゆる「細かい砂」です.

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  • 5.超音波洗浄(3)で出た上澄みは保存し,長時間の静置後乾燥させ,エックス線回折分析用(変質鉱物等の同定ができる)の試料になります.

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  • 6.乾燥した試料(粉末)にエポキシ樹脂(液体)を浸潤させ,

直径2.4cmの円形ガラス板のうえに薄く塗り広げ, 小型ホットプレートの上で70℃から130℃まで ゆっくり加熱します(埃よけのためビーカーを逆さまにかぶせています). 加熱により樹脂は固化します.十分固化したら作業おわりです.

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  • 7.実体顕微鏡をデジカメで覗いて撮影(コリメート方式)しました.ボールペンの先がスケールです.この時点で試料のみかけは「サンドペーパーならぬサンドガラス板」という感じです.

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  • 8.樹脂と試料が塗られた面を#400の耐水ペーパーで粗削りした後,自動研摩機にかけます.研摩機のステンレス製のホルダーには試料片とほぼ同じ大きさのくぼみがあり,これに嵌め込みます.有珠2000年噴出物の時は自動研磨しましたが,三宅2000年噴出物は手擦りしました.

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  • 9.自動研摩機で研摩しているところです.1000番の耐水ペーパーで数分研磨し,さらに8000番ので数時間研摩し,最後に1/4μmのダイアモンド粒子を染込ませた布で琢磨します(有珠2000年の試料のとき).三宅2000年噴火の試料を磨いた際にはまず1000の耐水ペーパーで磨き,マイクロメータという測定器を使用しながら頻繁に厚み(μmオーダー)を測定し,粒のちょうど中心部分がむらなく露出するように工夫しました.また,三宅の試料では琢磨布は使用せず,「研磨粉をフィルム上に接着した物」を用いることにより,とても平面性のよい磨きができました.
    磨き具合いを光学顕微鏡(反射)にて頻繁に確認しながら作業を進めます.私は研磨作業の専門家ではありませんから,失敗しないよう何度も立ち止まって考えながら凝った作業を繰り返すので,三宅の研磨片は半日かかってしまいました(2枚つくったのでまる一日).
    この時点で試料のみかけは「鏡」のようです.特に,埋め込んだ試料が時間と手間をかけたものである場合,それは宝石以上に美しく貴重に感じます.

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  • 10.この写真は,作成した研磨片を炭素蒸着装置に入れたところです.
    ※EPMAでは真空中においた試料に細かく絞った電子ビームを照射しますが,多くの鉱物は電気を通さないので,そのままでは試料が帯電してしまいます.そこで,試料表面にごく薄い炭素の膜をつくり,この膜を通して電気を逃がします.


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  • 11.これがEPMAです.画面左の垂直な筒に電子銃と電子光学系が入っていて,装置の中は真空になっています.試料はこの筒の真下(画面なかほどの高さ)に置かれ,細く絞った電子線を試料表面にあてた際に発生するエックス線や二次電子等を,検出器で測定します.テレビと同じように電子線を振る(走査する)か,または,逆にステージを動かすことによって,試料表面の二次元的な組成分布がわかります.画面右は装置を制御するコンピュータやモニタ等です.

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  • 12.やっと分析,,と思ったら,,電子線の発生源(フィラメント)が切れてしまいました.フィラメント交換のため筒の一部を大気圧にし,開きました.筒の中に埃がはいらないよう,すぐにアルミ箔をかぶせます.画面中央の上部にはフィラメントを納めた金具が見えています.
    (※私はそうではありませんが,自分の番に限ってフィラメントが切れる人,がこの世には存在するようです:-)
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