ヒップのページ

by Isoji MIYAGI @ Geological Survey of Japan, AIST

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HIP: Hot Isostatic Press

図1:2000気圧1500℃が発生できるHIP

このページでは,マグマの実験岩石学をおこなううえで強力なツールのひとつである HIP(Hot Isostatic Press; 高温 静水圧 加圧装置) について紹介させていただきます.


図1に示した装置は東京工業大学地球惑星科学科高橋研究室のガス圧装置です.この装置は圧力媒体としてアルゴンガスを使用し,ポンプを用いてガスを高圧容器に圧入し,さらに電気ヒーターで加熱することによって,天然のマグマだまりと同様な温度・圧力を再現することができます.

この装置の中に,直径数ミリの貴金属パイプの中に溶接封入したマグマの素(岩石粉末と水など)を入れ,マグマだまりの圧力(2000気圧位)温度(1000度位)にします.すると,小さいながらもマグマと同様の条件で,結晶を晶出させたり,含水珪酸メルトをつくることができます.いわばミニマグマ溜りです.


マグマの温度を再現した状態で晶出した結晶や,メルト(ガラス)の組成等を電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)二次イオン質量分析計(SIMS)などを用いて化学分析することにより,どのような温度圧力条件のときにどのような組成になるかが分ります.逆に,天然の,火山噴出物の結晶やガラスをそれらの装置で分析すると,それらの噴出物が経験した温度圧力条件が推定できるというわけです.実験できなかった温度圧力の部分は熱力学的解釈で補えます.


図2:下蓋のパッキン交換作業
図3:圧力容器の保護カバーを開き,圧力容器の上蓋を取り除いたところ.

宮城や東宮氏(ふたりとも現在地質調査所職員)が博士論文の高温高圧実験を行なう際に,この装置を使用しました.現在地質調査所には東宮氏によって同様の装置(減圧装置を付加予定)が導入されています.時々,図2のような作業をします.これはパッキン交換のためで,もし怠ると圧力がうまく保持できなくなって実験に支障がでます.あおむけでスパナを握っているのが宮城で,覗き込んでいるのが東宮氏(1994年6月10日,撮影は奥地氏(現在名古屋大)による).

図3は圧力容器の上蓋を取り除いたところです.圧力容器全景(右の左)と,電気炉の発熱体(右の右). 発熱体として,金属モリブデン線を使用しています.


図4:落下急冷メカニズム

高温・高圧下で再現されたミニマグマ溜まりを実際に観察するためには,圧力容器を常温常圧にして試料を取り出す必要がありますが,普通にヒーターの電源を切っただけではうまくゆかないことがあります.温度の下りかたがゆっくりであると,その間に「マイクロ(?)マグマ溜り」のなかで結晶が成長したり,その他様々な不具合がおこってしまい,実験で再現されていたであろう化学組成や組織が保たれません.特に,これからの火山学で重要になるであろう,揮発性成分(主に水)を含む試料では,この傾向が顕著です.そこでこの装置では,高温高圧実験終了時に,試料を非常に速く冷却できるような工夫がされています.

この装置の電気炉には,試料を高圧をかけたまま「急冷」するための工夫(東工大,高橋栄一教授による設計)がなされています(図4).圧力容器内の温度分布,すなわち実験の際に炉内は上ほど熱くなることを利用します.

試料は容器の上のほうに細いモリブデンワイヤーでつるしていて,この部分(左図左の断面図のA点)がたとえば1000度のとき,炉の下のほう(B点)はたったの70℃しかありません.そこで実験終了のときにワイヤーに電流を流してこれを溶断し,試料を炉の下にポトンと落下させます.この機構は簡単ですが非常に効果的で,その時の試料冷却速度は200℃/秒ぐらいあります.

図4の右がわには同時期(この装置設置直後の1992年;お互い独自発案)にAmerican Mineralogist誌に掲載された装置.落下して急冷させるという案はそう新しいものではなくて,たとえばGeochem.Cosmochim.Acta誌のSekine et al., (1979)などにもありますので,なにも1992年に論文にするほどのことはないと思いますが...



以上,東京工業大学・地球惑星科学科・高橋研究室のヒップでした. 同型のヒップ(但し,圧力を微妙にコントロールしながら減圧実験ができる) が(旧)地質調査所に設置された時の記録はこちらです→ 地調のヒップ設置作業風景

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