新しい地質図

成果発信の変化

 野外地質学の最大の成果物である地質図。現在、その地質図が変わりつつあります。その要因は、大きく分けて次の3つです。

  • IT技術の進歩:地図のウェブ配信技術が進化し、利用が一般化しています。
  • オープンデータ:データを二次利用する動きが広がっています。
  • 社会的な要望の高まり:3.11以降、社会的な関心が高くなっています。

地質図の多様化

 19世紀から出版されてきたGSJの地質図も、印刷物のほかにCD / DVD出版やウェブからの配信が進められています。また、利用ガイドラインも改訂され、2013年10月にCCライセンスを採用したのに続き、2016年10月には「政府標準利用規約(第2.0版)」に準拠しました。

 特に変わったのはウェブ発信です。利用できるフォーマットが増え、見る・ダウンロードする・買うといったサービスの選択肢も増えました。紙では絶版になっていた地質図も、ウェブから無料で閲覧・ダウンロードできるようになり、新たな利用が可能です。更に、利用の届出も不要なので、次第に二次利用例も増えてきています。

 下の図はカシミールで表示した1/20万日本シームレス地質図の例です (地理院地図とオーバーレイ表示しています)。この地質図は「タイルマッププラグイン」にプリセットで入っています (画像クリックで拡大表示)。

「カシミール」で表示した1/20万日本シームレス地質図
フリーソフト「カシミール」で表示した1/20万日本シームレス地質図WMTSの例。出典:産総研地質調査総合センター20万分の1日本シームレス地質図データベースおよび国土地理院 標準地図

 1/20万日本シームレス地質図の凡例はこちらにありますので、別のウインドウ / タブで表示させるなどしてご利用ください。

 下の図は地質図Naviで表示した1/5万地質図幅「生野」の例です。断面図とその断面線位置 (平面図上の青い太線) も表示されます (画像クリックで拡大表示)。

1/5万地質図幅「生野」
地質図Naviで表示した1/5万地質図幅「生野」の例。出典:産総研地質調査総合センター1/5万地質図幅「生野」 (吉川ほか, 2005)

ダウンロード

 現在、地質調査総合センターのウェブサイトでは、ファイルの準備ができた地質図からダウンロードが可能になっています。これまでに、1/5万地質図幅、1/20万地質図幅の整備が進められており、利用できるファイルの種類は以下の通りです。
  • ラスターデータ (JPEG, GeoTIFF, KML / 200dpi)
  • ベクトルデータ (Shapefile, KML)
  • 説明書 (PDF)

 ラスターデータで採用されている200 dpiという解像度は、図郭の南北方向が2900 pixel以上になります。下の例でご確認ください (画像クリックで拡大)。また、ラスターデータ、ベクトルデータともkmzファイルが用意されていますので、Google Earthを使うと3D表示の地質図を見ることができます。

1/5万地質図幅「宇都宮」
1/5万地質図幅「宇都宮」の200 dpiのJPEGファイルの解像度。出典:産総研地質調査総合センター1/5万地質図幅「宇都宮」 (吉川ほか, 2010)

 地質図データのダウンロードは以下からどうぞ。

配信サービス

 1/20万日本シームレス地質図のように、ファイルサイズが巨大なものはダウンロードよりも配信サービスを利用するのが便利です。また、ネットワーク環境が整っていれば、全国版のサービスであってもディスク容量を圧迫しないメリットがあります。地質調査総合センターの配信サービスは、以下のページで確認することができます。

 配信サービスのページにあるプレビュー用アプリケーション「EasyWMSView」を使って、すべてのサービスを閲覧することができます (画像クリックで拡大表示)。GSJの全サービスと、各種ベースマップをプリセットしたビューアは以下のアドレスになります。ブラウザでブックマークしたり、デスクトップにショートカットを作成したりしておけば、地質図ブラウザとしてもお使いになれます。

EasyWMSViewの表示例
EasyWMSViewの表示例。出典:産総研地質調査総合センター20万分の1日本シームレス地質図 WMSおよび国土地理院 標準地図

 なお、「EasyWMSView」自体もオープンソースソフトウェアとしてご利用いただけます。詳しくはこちらのページをご覧ください。

 また、地質図と他の情報と組み合わせて使う、便利な二次利用サービスも増えてきています。下記はその一例です (リンク先は外部サイトとなります)。

プリセット

 現在、いくつかのソフトウェアやアプリケーションでは、地質図へアクセスするための設定がプリセットされています。

  • カシミール (Windows)
  • FieldAccess2 (iOS)
  • 野外調査地図 (Android):設定方法がこちらのページ (外部サイト) にあります

 プリセットがなくても、新規に追加できる場合もあると思います。お使いのソフトウェアやアプリケーションの例も調べてみてはいかがでしょうか。例えば、カシミールではJSON形式の設定ファイルを作成することで、タイル地図を新たに表示させることができます。下の図は富士山火山地質図WMTSを読み込んだ例です (画像クリックで拡大表示)。

奥日光の地形図
カシミールで富士山火山地質図WMTSを表示した例。出典:産総研地質調査総合センター富士山火山地質図 第2版

 残念ながら凡例情報を直接見ることはできないので、必要なときは別途EasyWMSView等で確認してください。また、カシミール用の設定ファイルも以下に置いておきます。

表現の自由

 そして、重要なことに、結果としてユーザーの自由度が大きく増えました。かつて、ユーザーが利用できたのは紙に印刷された表現形態ひとつだけでした。研究者も、限られた紙面にできるだけ多くの情報を詰め込もうとしていました。しかし、オープンデータの流れにより各機関から標準化されたデータが提供され、データの分離が進んだこと、またソフトウェアやアプリケーションの機能が向上したことにより、ユーザーは好みのデータを自由に選択し、自由に組み合わせられるようになってきているのです。

例えば、GISソフトを使うと、誰でも好みの地図を作ることができるようになります。

 下の図は、QGISで奥日光付近の国土地理院の標準地図を読み込み、表示させたところです (画像クリックで拡大表示)。

奥日光の地形図
奥日光の地形図。出典:国土地理院 標準地図

 下の図は、上と同じ地域について、1/20万日本シームレス地質図 (基本版) WMSを読み込み、重ね合わせ表示させたものです。レイヤ表示を切り替えることで、地図としても地質図としても便利に使うことができます (画像クリックで拡大表示)。

奥日光の地質図
奥日光の地質図。出典:産総研地質調査総合センター20万分の1日本シームレス地質図 WMSおよび国土地理院 標準地図

 このように、ツールとデータをうまく利用することで、既にユーザーが自由に地質図をカスタマイズし、表現できるようになっています。すなわち、これからはユーザーが主役の時代なのです。

 以下では、GISを利用した地質図の表示例をもう少し具体的にご紹介します。

フリーソフトで

 GISにはフリーソフトもありますので、手軽に始めることができます。以下では代表的なフリーGISツールであるQGISを利用しています。

 ソフトがあってもデータがないと作業が始まりませんが、幸いQGISではWMS / WMTSを設定一つで表示させることができます。ここでは試しに「200万分の1日本地質図-20万分の1日本シームレス地質図(解像度切替版)」を表示してみましょう。QGISのメニューから[レイヤ]-[レイヤの追加]-[WMS/WMTSレイヤの追加]と進みます。新しいウインドウで[新規]をクリックし、名称とURLに以下のように入力したら、[OK]を押します (下の画像を参照;画像クリックで実寸大表示)。

  • 名称:200万分の1日本地質図-20万分の1日本シームレス地質図(解像度切替版)
  • URL:https://gbank.gsj.jp/ows/geologicmap_multiscale
新規WMS接続の作成

[接続]を押すと、利用できるレイヤー (このWMSの場合はポリゴンとラインとラベル) が表示されます。下図のように個々に追加しても良いですし、すべて選択して追加することもできます (画像クリックで拡大表示)。追加し終わったら、[閉じる]を押してウインドウを閉じてください。これで、GISソフト上で全国の地質図を見ることができるようになりました。拡大縮小や表示範囲の移動ができますので確認してみてください。

利用できるレイヤーの表示

WMSで利用できるレイヤーの表示の例。

 続いて、地図上から地質の情報を表示させてみましょう。[ビュー]-[地物情報表示]を選んでください。カーソルの形が変わります。そのまま、好きな場所でクリックしてみてください。左のウィンドウに説明が表示されます。ちなみに、富士山周辺に分布するピンク色の地質の場合、下図のような説明が出ました (画像クリックで拡大表示)。もし、うまく動作しないときは、ポリゴンのレイヤーが選択されているかを確認してください。一方、ラインの情報を表示したいときは、ラインのレイヤーを選択し、地図上で好みの線をクリックすればOKです。

凡例情報の表示
地質図の凡例情報の表示。出典:産総研地質調査総合センター200万分の1日本地質図-20万分の1日本シームレス地質図 (解像度切替版) WMS

 これまで地質図で難しかったのが、色と記号で分けられた地質区分を、数ある凡例の中から探し出す作業でした。デジタル地質図では、上記のように好みの場所でクリックするだけで良い場面が増えました。これは、ベクトルデータを使っている場合のメリットです。

レイヤーを重ねる

 GISでは、複数のデータを重ね合わせて利用することが簡単にできます。地質図だけでは位置を確認することが容易ではないので、国土地理院の配信している地理院タイルを重ねてみましょう。タイルレイヤプラグインを準備してあれば、QGISのメニューから[Web]-[タイルレイヤプラグイン]-[タイルレイヤを追加する]と進みます。選択肢の中から、GSIMapsの標準地図を選び、[追加]します。レイヤのパネル (小さいウインドウ) に標準地図が追加されます。この名前をドラッグして、一番上にドロップしてください。QGISでは上にあるレイヤが優先されるので、地質図が見えなくなってしまいました。

 そこで、レイヤ名を右クリックして[プロパティ]を選んでください (またはダブルクリックでもOK)。ここで、表示の設定を行うことができます。混合モードが選べるので、[乗算 (Multiply)] を選んで[OK]を押してください (下図参照;画像クリックで拡大表示)。すると、地理院地図と地質図とが合成された地図が表示されます。

レイヤーのプロパティ

 先の要領で、国土地理院の配信している色別標高図も重ねてみましょう。QGISのメニューから[Web]-[タイルレイヤプラグイン]-[タイルレイヤを追加する]と進み、GSIMapsの色別標高図を追加してください。こちらは色が濃いので、思い切って透過度を上げます。80くらいにしても大丈夫です (下図参照;画像クリックで拡大表示)。

重ね合わせ表示の例
地質図と地図を重ね合わせて表示した例。出典:産総研地質調査総合センター200万分の1日本地質図-20万分の1日本シームレス地質図 (解像度切替版) WMSおよび国土地理院 標準地図

 きれいに表示するには、右下の選択肢から空間参照システムを確認してみましょう。右下の「EPSG」と書いてある欄をクリックしてWGS 84 (EPSG: 4326) を選んでみてください.また,20万分の1シームレス地質図は、拡大に耐える位置精度がないため、あまり拡大すると表示されないようになっています。表示可能な縮尺は、最大で、1/50,000程度です。

標高レイヤーをつくる

 地質図と重ねるデータは、タイル画像で配信されている地図が手軽ですが、公開されているデータを使って自ら作ってみることもできます。国土地理院では基盤地図情報として各種のデータを提供していますので、データからオリジナルのレイヤーを作ってみたくなります。以下では数値標高モデルのデータから、地形彩段図や陰影図を作ってみます。

 まず、準備として以下の2つが必要です。

 準備ができたら、fgddemImporterプラグインを使って、数値標高モデルをGeoTIFFに変換します。zipファイルのまま読み込んで、待つだけなので変換作業はとても手軽です。ところが、できあがった地図は、どうやらzipファイル単位で分割されているようです (下図参照;画像クリックで拡大表示)。

DEMから生成されたGeoTIFFの例
数値標高モデルから変換した彩段図の例。zipファイル単位で分割されているので、このままでは使いにくいです。国土地理院 基盤地図情報 数値標高モデルを利用して作成。

 ここで、QGISの[ラスタ]メニューから、[その他] - [バーチャルラスタの構築(カタログ)]を選択します (この操作はこちらのページから教わりました)。入力ファイルと出力ファイルをそれぞれ指定して[OK]をクリックすると、今度は全体が統一された地図ができあがります。このとき、出力ファイル名には日本語や長い名前をつけないようにしましょう (ここで何度か失敗しました)。無事に一枚の地図になったら、好みのスタイルにすると、目的に応じたオリジナル地図として使えるようになります (下図参照;画像クリックで拡大表示)。

バーチャルラスタを利用して数値標高モデルから作成したオリジナル彩段図の例。国土地理院 基盤地図情報 数値標高モデルを利用して作成。

 QGISの[ラスタ]メニューには、DEMから傾斜図や陰影図を作成する機能もありますので、必要に応じて試してみるのも良いでしょう。

付録・おまけ

 上記ソフトの組み合わせで、これまでに作成した設定ファイルを置いておきます。どうぞご自由にお使いください。

CC BY 4.0 国際