新しい地質図

2023.1.26 更新

成果発信の変化

 野外地質学の最大の成果物である地質図。2011年の東日本大震災を契機として、その地質図が大きく変わってきました。その要因は、大きく分けて次の3つです。

  • IT技術の進歩:データ通信速度や地図のウェブ配信技術が進化し、快適に利用できるようになりました。
  • オープンデータ:必要な時にいつでも使えるとともに、データを二次利用する動きが広がりました。
  • 社会的な要望の高まり:防災やツーリズムの面で、地質に対する社会的な関心が高くなってきました。

 以下では地質図の便利な利用方法についてご紹介します。

地質図の多様化

 19世紀から出版されてきたGSJの地質図も、印刷物のほかにCD / DVD出版やウェブからの配信が進められています。これにより、ウェブで閲覧し、気に入ったもの・必要なものを印刷物やCD / DVDで購入するというパターンが定着しました。また、利用ガイドラインも改訂され、2013年10月にCCライセンスを採用したのに続き、2016年10月には「政府標準利用規約(第2.0版)」に準拠しました。このため、二次利用をより手軽に行えるようになりました。以下には、各利用シーンに適したGSJのウェブサービスを順に記します。

地質図の閲覧

 出版された地質図をウェブで閲覧するのには、地質図Naviまたは地質図カタログをお使いください。

 地質図Naviは位置情報を基に地質図やデータを表示する機能をもつウェブGISと呼ばれるサービスです。下の図は地質図Naviで表示した1/5万地質図幅「生野」の例です。断面図とその断面線位置 (平面図上の青い太線) も表示されます (画像クリックで拡大表示)。

1/5万地質図幅「生野」
地質図Naviで表示した1/5万地質図幅「生野」の例。出典:産総研地質調査総合センター1/5万地質図幅「生野」 (吉川ほか, 2005)

 地質図カタログはツリー形式のメニューやインデックスマップを使って見たい地質図の情報を表示したりダウンロードしたりできるサービスです。印刷物のスキャンデータが主体なので、印刷物の情報をそのまま閲覧するのに便利です。

ダウンロード

 現在、地質調査総合センターのウェブサイトでは、ファイルの準備ができた地質図からダウンロードが可能になっています。利用できるファイルの種類は以下の通りです。
  • ラスターデータ (JPEG, GeoTIFF, KML / 200dpi)
  • ベクトルデータ (Shapefile, KML)
  • 説明書 (PDF)

 ラスターデータで採用されている200 dpiという解像度は、図郭の南北方向が2900 pixel以上になります。下の例でご確認ください (画像クリックで拡大)。また、ラスターデータ、ベクトルデータともkmzファイルが用意されていますので、Google Earthを使うと3D表示の地質図を見ることができます。

1/5万地質図幅「宇都宮」
1/5万地質図幅「宇都宮」の200 dpiのJPEGファイルの解像度。出典:産総研地質調査総合センター1/5万地質図幅「宇都宮」 (吉川ほか, 2010)

 地質図データのダウンロードは以下からどうぞ。

地質図の購入

 気に入った地質図を手元に置いておきたい場合、委託販売先から購入することができます。在庫の状況や価格は地質図カタログで確認できます。購入の方法は地質図類購入案内のページでご確認ください。

配信サービス

 1/20万日本シームレス地質図のようにデータが随時更新されているものは、ダウンロードよりも配信サービスを利用するのが便利です。また、ネットワーク環境が整っていれば、全国版のサービスであってもディスク容量を圧迫しないメリットがあります。地質調査総合センターの配信サービスは、以下のページで確認することができます。

 配信サービスのページにあるプレビュー用アプリケーション「EasyWMSView」を使って、すべてのサービスを閲覧することができます (画像クリックで拡大表示)。GSJの全サービスと、各種ベースマップをプリセットしたビューアは以下のアドレスになります。ブラウザでブックマークしたり、デスクトップにショートカットを作成したりしておけば、地質図ブラウザとしてもお使いになれます。

EasyWMSViewの表示例
EasyWMSViewの表示例。出典:産総研地質調査総合センター20万分の1日本シームレス地質図 WMSおよび国土地理院 標準地図

 なお、「EasyWMSView」自体もオープンソースソフトウェアとしてご利用いただけます。詳しくはこちらのページをご覧ください。

二次利用サービス

 配信サービスを利用して、地質図を基図に表示しながら他の情報と組み合わせて使う、便利な二次利用サービスも増えてきています。下記はその一例です (リンク先は外部サイトとなります)。

プリセット

 現在、いくつかのソフトウェアやアプリケーションでは、地質図へアクセスするための設定がプリセットされています。

  • カシミール (Windows)
  • FieldAccess2 (iOS)
  • 野外調査地図 (Android):設定方法がこちらのページ (外部サイト) にあります

 下の図はカシミールで表示した1/20万日本シームレス地質図の例です (地理院地図とオーバーレイ表示しています)。この地質図は「タイルマッププラグイン」にプリセットで入っています (画像クリックで拡大表示)。

「カシミール」で表示した1/20万日本シームレス地質図
フリーソフト「カシミール」で表示した1/20万日本シームレス地質図WMTSの例。出典:産総研地質調査総合センター20万分の1日本シームレス地質図データベースおよび国土地理院 標準地図

 1/20万日本シームレス地質図の凡例はこちらにありますので、別のウインドウ / タブで表示させるなどしてご利用ください。

 プリセットがなくても、新規に追加できる場合もあると思います。お使いのソフトウェアやアプリケーションの例も調べてみてはいかがでしょうか。例えば、カシミールではJSON形式の設定ファイルを作成することで、タイル地図を新たに表示させることができます。下の図は富士山火山地質図WMTSを読み込んだ例です (画像クリックで拡大表示)。

奥日光の地形図
カシミールで富士山火山地質図WMTSを表示した例。出典:産総研地質調査総合センター富士山火山地質図 第2版

 残念ながら凡例情報を直接見ることはできないので、必要なときは別途EasyWMSView等で確認してください。また、カシミール用の設定ファイルも以下に置いておきます。

表現の自由

 そして、重要なことに、結果としてユーザーの自由度が大きく増えました。かつて、ユーザーが利用できたのは紙に印刷された表現形態ひとつだけでした。研究者も、限られた紙面にできるだけ多くの情報を詰め込もうとしていました。しかし、オープンデータの流れにより各機関から標準化されたデータが提供され、データの分離が進んだこと、またソフトウェアやアプリケーションの機能が向上したことにより、ユーザーは好みのデータを自由に選択し、自由に組み合わせられるようになってきているのです。

 例えば、GISソフトを使うと、誰でも好みの地図を作ることができるようになります。

 下の図は、QGISで奥日光付近の国土地理院の標準地図を読み込み、表示させたところです (画像クリックで拡大表示)。

奥日光の地形図
奥日光の地形図。出典:国土地理院 標準地図

 下の図は、上と同じ地域について、1/20万日本シームレス地質図 (基本版) WMSを読み込み、重ね合わせ表示させたものです。レイヤ表示を切り替えることで、地図としても地質図としても便利に使うことができます (画像クリックで拡大表示)。

奥日光の地質図
奥日光の地質図。出典:産総研地質調査総合センター20万分の1日本シームレス地質図 WMSおよび国土地理院 標準地図

 このように、ツールとデータをうまく利用することで、既にユーザーが自由に地質図をカスタマイズし、表現できるようになっています。すなわち、これからはユーザーが主役の時代なのです。

 以下のページでは、GISを利用した地質図の表示例・利用例をもう少し具体的にご紹介します。

CC BY 4.0 国際