珠洲岬,能登飯田及び宝立山地域の地質

産総研
last updated 2024.10.17

 能登半島の最先端に相当する珠洲岬,能登飯田及び宝立山地域では1992~1999年の期間に調査を行い、地質図幅は2002年に出版されました。地域内に分布する古第三紀~新第三紀の火山岩・堆積岩および第四系の調査と全体の取りまとめを担当しました。
 当時はバブル経済がはじけるとともに、地域にとっては原子力発電所の建設を受け入れるか、能登空港を建設するかなど、重要なターニングポイントとなるテーマが幾つもありました。それらが落ち着いたところに、2024年1月1日の大地震、そして2024年9月の豪雨が来ることになろうとは想像もできませんでした。今となっては古い成果ですが、今後の研究・復興のお役に立てれば幸いです。

5万分の1地質図「珠洲岬,能登飯田及び宝立山」
5万分の1地質図「珠洲岬,能登飯田及び宝立山」。画像をクリックすると、産総研地質調査総合センターのページにある5万分の1地質図「珠洲岬,能登飯田及び宝立山」の高精細画像 (200 dpi) が開きます。

 珠洲岬,能登飯田及び宝立山地域の地質は、古第三紀より新しい時代の地層・岩石からできています。

  • 岩相の上からは、下部が陸成の火山岩類、上部が海成の堆積岩類、最上部に第四系の堆積物と重なっています。
  • 地質構造からは地域の中央部を東西に横切る白米坂断層を境に、南部のほぼ傾動していない地域と、北部の変形・変動の激しい地域とに分けられます。

「珠洲岬,能登飯田及び宝立山」地域の地質構造 (説明書の第47図)
「珠洲岬,能登飯田及び宝立山」地域の地質構造 (説明書の第47図)。画像をクリックすると拡大画像が開きます。
古第三紀~
新第三紀の火山岩類

 古第三系~新第三系の下部は、主に陸成の火山岩類から構成されています。これらは日本がまだ大陸の一部であった時代から、日本海の形成が始まり、やがて湖や浅海になってゆく時期に活動した火山の噴出物および貫入岩です。この時期には正断層活動が続いていました。

新第三紀の堆積岩類

 新第三系の上部は、主に海成の堆積岩類から構成されています。時代とともに、はじめは浅海を示す化石を多く含む砂や泥から始まり、その後石灰質のシルト岩、珪質のシルト岩・珪藻質シルト岩の卓越するより深い海の堆積物に変わっていきます。最上部は砂質シルト岩で、再び浅い海に環境が変わって最後は陸化したと考えられます。なお、下~中部には海緑石砂岩が地域のほぼ全域に渡って見られます。

第四紀の地形・地質

 能登は段丘地形の発達した地域です。ただし、堆積物が観察できる場所はあまりなく、主に地形に基づいて地層区分を行いました。また、特に北部地域では地すべりが非常に多いことも特徴です。

写真集

 1990年代のものですが、調査中に撮影した写真を掲載します。5万分の1地質図「珠洲岬,能登飯田及び宝立山」の説明書に掲載している写真のカラー版です。

高洲山層の安山岩溶岩。<br>
          自破砕の進んだ溶岩の断面です。少し鮮やかな赤褐色の部分は淘汰の悪い凝灰質砂岩で、溶岩流の境界部に相当します。<br>
          <br>
          Locality : 能登町中斉<br> 高洲山層の安山岩シル。<br>
          写真上部の礫岩に、写真下部の塊状の輝石安山岩が貫入しています。両者の境界部は明瞭かつほぼ平滑です。<br>
          <br>
          Locality : 能登町北河内北方<br> 合鹿層の火砕流堆積物。<br>
          デイサイト火砕流堆積物の断面です。下部は溶結しており、柱状節理・板状節理ができています。上部になるほど溶結が弱くなり、最上部は非溶結の軽石火山礫凝灰岩です。<br>
          <br>
          Locality : 能登町鈴ヶ嶺南方<br> 合鹿層の溶結火山礫凝灰岩。<br>
          デイサイト火砕流堆積物の強溶結部の拡大断面です。軽石がつぶれてできた扁平なガラスレンズが目立つ緻密な岩石です。<br>
          <br>
          Locality : 能登町合鹿南方<br> 神和住層の無斑晶安山岩ブロック溶岩<br>
          ブロック溶岩は塊状部 (写真右上側) と火山角礫岩部 (写真左下側) から構成されます。この露頭では色と礫/基質の量比により火山角礫岩が2層あることがわかり、ハンマーの部分を境に下側は下位の溶岩の最上部、上側は上位の溶岩の最下部に相当します。<br>
          <br>
          Locality : 能登町黒川<br> 神和住層の角礫岩<br>
          露頭の下半分に相当するのが角礫岩で、上半分は礫岩からなっていますが、両者は礫種が異なり、一連ではありません。角礫岩は、その産状から崖錐性の角礫岩と考えられ、近くに断層の存在が推定されています。<br>
          <br>
          Locality : 能登町四ッ谷南方<br> 馬緤層の安山岩溶岩 (2枚のアア溶岩の境界部)<br>
          最下部に見えるやや細かい角礫岩が下位の溶岩の表面に相当します。それを覆う粗い角礫岩は上位の溶岩流の下部流動角礫岩で、更に上の塊状部に連続しています。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市馬緤町大崎<br> 馬緤層の水底安山岩溶岩のジグソー割れ目<br>
          塊状部から火山角礫岩に漸移する部分で、ジグソー割れ目が発達し、岩塊がバラバラになりかかっている様子が読み取れます。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市馬緤町赤神海岸<br> 馬緤層の水底安山岩溶岩 (1/2)<br>
          最下部に流動角礫岩があるほかは、厚い塊状部からなる溶岩で、流理とそれに垂直な柱状節理が形成されています。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市珠洲岬能登双見<br> 馬緤層の水底安山岩溶岩 (2/2):下部流動角礫岩<br>
          大形で角張った角礫が密集する下部流動角礫岩は、上位の塊状部に漸移し、その間にはジグソー割れ目が形成されています。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市珠洲岬能登双見<br> 宝立山層の火砕流堆積物基底部の様子<br>
          厚さ10 m以上におよぶ火砕流堆積物が、ハンマーの部分を境界として凝灰質砂岩を覆っています。基底部の1.5~2 mには斜交層理が見られるとともに多数の炭化木が含まれており、グラウンドサージ堆積物と考えられます。<br>
          <br>
          Locality : 能登町寺分<br> 宝立山層の火砕流堆積物の脱ガス構造<br>
          周囲よりも粗粒かつ密度の大きな火山礫の濃集した部分が、円筒状の断面を呈するほか、とぎれながらも右上に続いています。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市宝立町泥ノ木南方<br> 宝立山層の火砕堆積物<br>
          写真のほぼ下半分を占める層理・葉理の明瞭な堆積物は火砕サージ起源、上半分の無層理塊状の堆積物は火砕流起源と考えられます。最上部の色の濃い部分 (層厚10 cm程度) は淘汰が良く、降下堆積物と考えられます。<br>
          <br>
          Locality : 能登町恋路<br> 宝立山層の輝石流紋岩<br>
          デイサイト凝灰角礫岩に貫入する輝石流紋岩 (左側の暗色部)。凝灰角礫岩にも同質の輝石流紋岩岩塊が含まれるとともに、境界は不規則に変形していて、両者が一連の火山活動で形成されたことが示唆されます。<br>
          <br>
          Locality : 能登町布浦赤崎<br> 合鹿層のデイサイト凝灰岩に貫入するドレライト岩脈<br>
          ドレライト岩脈の外形は、不規則な形態を示しています。デイサイト凝灰岩の層理は上方へ湾曲しており、ドレライトが上向きに貫入してきたことを示唆しています。<br>
          <br>
          Locality : 能登町合鹿<br> 東印内層の礫岩<br>
          大型の円礫を多数含む塊状の礫岩です。風化してクサリ礫になっています。<br>
          <br>
          Locality : 能登町大箱北方<br> 法住寺層の石灰質シルト岩および珪質シルト岩。<br>
          ハンマーの位置で、下部の石灰質シルト岩から上部の珪質シルト岩へと急に移り変わります。石灰質シルト岩がより青っぽい色を呈する以外、見かけはよく似ています。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市三崎町大屋西方<br> 粟蔵層の流紋岩火山礫凝灰岩。<br>
          水底火砕流堆積物の基底部に相当し、ほぼ塊状を呈するとともに、主に粗粒な石質岩片と軽石片から構成されています。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市真浦町北方<br> 粟蔵層の流紋岩軽石火山礫凝灰岩。<br>
          水底火砕流堆積物の上部に相当し、顕著な成層構造を呈します。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市真浦町北方<br> 粟蔵層の成層した流紋岩軽石火山礫凝灰岩。<br>
          やや円摩を受けた大形の軽石を含んでいます。<br>
          <br>
          Locality : 輪島市町野町大久保南方<br> 粟蔵層の流紋岩凝灰岩。<br>
          中央の淡黄色の地層が凝灰岩で、上下を珪質シルト岩に挟まれています。厚さは約2 mです。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市折戸町南方<br> 粟蔵層の黒雲母流紋岩。<br>
          水平方向の流理構造と垂直方向の柱状節理が組み合わさったところに風化を受けて部分的に丸みを帯びた結果、「千体地蔵」と呼ばれる独特の造形ができました。<br>
          <br>
          Locality : 輪島市町野町曽々木<br> 飯田層の海緑石砂岩。<br>
          露頭下半部にある緑褐色の地層が海緑石の濃集層。ハンマーより上位は飯塚層の珪質シルト岩<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市清水町<br> 飯田層の海緑石砂岩の拡大写真。<br>
          海緑石の濃集層には、一般に著しい生物擾乱が見られます。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市三崎町伏見西方<br> 飯塚層の流紋岩凝灰岩。<br>
          幾つかのレイヤーからなり、下~中部には著しいコンボルート葉理が見られます。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市正院町岡田<br> 飯塚層の流紋岩凝灰岩。<br>
          底面は荷重痕により不規則な形状を示し、中~上部には取り込まれた珪藻質シルト岩の偽礫が含まれています。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市正院町岡田<br> 飯塚層の砂質シルト岩。<br>
          塊状の砂質シルト岩に、多数の生痕化石が見られます。<br>
          <br>
          Locality : 輪島市日崎<br> 地すべり地形につくられた棚田。<br>
          海に面した傾斜地に多数の棚田が築かれ、千枚田と呼ばれています。<br>
          <br>
          Locality : 輪島市白米町<br> 砂丘の断面に観察される砂丘堆積物。<br>
          海側に傾斜した層理が見られます。崖の高さは約8 m。<br>
          <br>
          Locality : 輪島市町野町大川<br> 白米坂断層北側の地層の変形。<br>
          白米坂断層の北側約150 mに位置する露頭。粟蔵層の流紋岩凝灰岩・珪質シルト岩互層の成層構造がたわんでおり、一部では傾斜が逆転しています。崖の高さは約8 m。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市白米坂北方の林道<br> 西海断層北側の地層の変形。<br>
          露頭の左の方に小断層があり、その右側では粟蔵層 (淡黄色)、飯田層 (緑褐色)、飯塚層 (淡褐白色)が右側上位に重なっていますが、傾斜が逆転しています。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市猫ヶ岳北方の林道<br> 宝立山層のデイサイト火砕岩を切る正断層。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市宝立町泥ノ木<br> 宝立山層のデイサイト火砕岩に見られる小正断層群。露頭の高さは約4.5 m。<br>
          <br>
          Locality : 珠洲市川浦町南方<br>

参考資料

 5万分の1「珠洲岬,能登飯田及び宝立山」図幅のファイルダウンロードはこちらです。ぜひ次の研究に生かしてください。

CC BY 4.0 国際