野外調査と地質図

産総研
last updated 2023.9.22

野外調査とその成果物である地質図に関係する話をご紹介します。

野外調査と地質図

 地質図をご存じでしょうか。地質図とは、ある場所の植生や表土、人工物を取り払ったとき、どのような種類の石や地層がどのように分布しているかを示した地図です。地質図の制作は、野外地質学の最も重要な仕事のひとつで、私がこの職に就いた頃(バブル期直前)には、「まともな地質図が書けて初めて一人前の地質屋」と言われました。

地質図の表現

 地質図は、地面の下の見えないもの(地質)を見えるように描いた地図です。しかし、いかに精細に調査しても、地質のすべてを見ることはできないのですから、地質図とは断片的な事実に基づく解釈図です。新たな事実が発見されれば、解釈を変えることもあります。そうすると、地質図も変えなければなりません。つまり、地質図をつくる仕事には、終わりがないのです。

 解釈図である以上、同じデータに基づいていても、地質図は作者によって変わります。多くの場合、地層や岩石が地下深く(高い温度、高い圧力)に存在したことと、長い時間を経過してきたことをいかに理解するかによります。より正確な理解のために、最新の知見を学び、自分なりに解釈することを継続していかなければなりません。かつて自分で描いた地質図でさえも、時代とともに解釈を変え、描き直すことは普通に起こり得ます。「百聞は一見にしかず」ですが、一見だけでは決して成り立たないのです。

 解釈図である以上、地質図はその時代の学問の水準を示す歴史でもあります。古い地質図を見るときには、その当時の学問の水準を知る必要もあり、場合によっては最新の知見に基づいて再解釈することになります。

地質図からわかるもの

 その昔、なぜ山に登るのかと尋ねられて、「そこに山があるから」と答えた登山家がいたそうです。では、なぜそこに山があるのでしょう。その答えを見つける大きなヒントが、地質図には必ずあります。

山のでき方を地質図から知ることができる例。
山のでき方を地質図から知ることができる例。出典:産総研地質調査総合センター栃木県シームレス地質図 WMSおよび地理院タイル陰影起伏図

 例えば上の図では、左奥の山地と平地の間に活断層があり、山地が断層活動のために盛り上がったらしいこと、右側の山地は第四紀火山の石や地層でできているため、他よりも新しい山であることを読み取ることができます。

 もったいないことに、かつては地質図を知らないことは普通でしたし、実際に知る機会もあまりなかったのが現実でした。

 しかし、状況は変わりました。IT技術の進歩とデータの整備により、地質図はインターネットで見ることができます。また、データによってはGISで表示したり、加工することもできます。

 一方で、学問の最新の知見も提供していくことが必要です。ときに地質図は、自分自身で解釈することが必要になるからです。これは今まで親しんできた地図の使い方とは、やや異なるかも知れません。しかし、そうすることで地質図からは実に多くの情報を読み取ることができるということを実感してもらえると思います。

 今や古い話 (2005年) になりますが、このような知見を解説するために「シームレス地質図サポートページ」なるウェブページを立ち上げました (吉川, 2006:口絵本文)。このページは「地質図のホームページ」へと引き継がれ、現在のGSJウェブサイト「地質を学ぶ、地球を知る」の一部になっています。地質の理解の一助としてお役立てください。

CC BY 4.0 国際