「千里の道も一歩から」。地質学が発展してきたのは、長年にわたる地道な野外調査の積み重ねがあったからです。
- 野外地質学~Field Geology~とは
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具体的に野外地質学という分野があるわけではありませんが、そもそも地質学は野外での観察を基本として発展してきました。現在でも真の地質情報は、実際に現地で観察した人の手によって生み出され、その善し悪しは観察者の能力にかかっているのです。
- 汗をかき、
推理する学問 -
野外地質学に従事する研究者をField Geologist、くだけた呼び方では地質屋といいます。その仕事の基本は、野外での石や地層の観察と推理です。
地質にはさまざまな情報が詰まっています。その石や地層の種類・性質はもちろん、時代や当時の環境などを知ることができるのです。野外でこれらの「証拠」を丹念に集め、時には分析し、また野外へ戻るといった作業を繰り返しながら研究成果をまとめてゆきます。一方で、最新の理論を学び、幅広い分野の知識を身につける必要があります。 - 野外調査
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野外地質学をはじめ、研究目的であっても野外で行う観察は、一般に「野外調査」と呼ばれます。野外調査は、もちろん自然が相手です。天気には常に気を遣いますし、季節・気候の変化は文字通り肌で感じます。また、野外調査にはそれなりの体力は必要です。藪こぎ、沢登り、その他しばしばきつい労働も伴います。観察の必要な現場が、そのような場所にも存在しているのです。
しかし、どんな仕事でも結局はそうであるように、野外調査もまた人が相手でもあります。なぜなら、野外を歩くということは、自分を人の目にさらすことであり、さまざまな人に出会うことであり、いろいろな人の行為を目にすることだからです。
ですから、どんなに自然が好きでも、人と接するのが嫌いでは野外地質学はできません。でも、不特定多数の人と出会い、自分の知らなかったことを見聞きすることで、確実に自分の糧にはなります。その意味では、野外地質学には外国語とよく似たところがあり、実際にその場所で経験したことが、最も大きな財産になるのです。 - 敬遠される学問
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Field Geologist はときにさまざまな能力を試されます。険しい山や沢登りのための体力が必要となることもありますし、熊やマムシとの遭遇など危険も伴います。
野外地質学の中でも、ある地域の地質を明らかにする分野は「地域地質 (areal geology または regional geology)」と呼ばれています。地域地質では、自然が作り出した変化に富む地質を幅広く相手にしなくてはなりません。このため、限られた証拠から真理を推理する能力、応用できる能力とある程度の経験が求められます。こうしてひとつの地域を調べ上げると、そこに分布する地質が三次元的に理解できるだけでなく、その地域が経てきた地質学的な歴史、「地史」も知ることができます。
ある地域の地質が一朝一夕にしてできるのではないのと同じく、野外地質学、特に地域地質の成果は簡単にはものになりません。成果主義が幅をきかせる今日では、現実には大学での指導者も減少しています。高校での地学の授業も限られている現在、若い世代が野外地質学の本当の魅力に接する機会というのはなかなかないのかも知れません。 - 楽在其中
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山や地球や石に興味があり、これから仕事を決めようとしている皆さん、Field Geologist なる選択肢もありますよ。確かに決して楽な仕事ではありませんが、野外地質学は人が中心の学問です。自分で見聞きし、考え、判断し、解釈するのです。「楽しみはその中にあり」ます。