野外地質学の未来

産総研
last updated 2023.9.22

これまで野外地質を仕事としてきました。野外地質を通じていろいろなことを経験することができました。その感謝の気持ちも込めて、将来への継承も考えたいと思います。

野外地質学という仕事

 私の場合、地質学に志したのは中学・高校生の頃だったと思います。一部ではあっても地球を自分の手で調べ、そのシステムを理解するプロセスに魅力を感じました。現実の仕事に野外地質学の道を選んだ理由はその延長上にあり、自分の興味・好奇心からでした。あくまでも自然と自分、世のため人のためなどと思ったことはありませんでした。

 転機は就職から数年後にやって来ました。1995年7月、集中豪雨により長野県小谷村を中心とする地域に大規模な土砂災害が発生しました。偶然なのですが、その災害復旧のさなかに、地質図の調査に入ることになりました。そこで見聞きしたことは、それまでの考えを見直すきっかけとなりました。以来、本当の自然とは何か、人にとっての理想的な自然とは何か、野外地質学と人との関係とは何かを、より考えるようになりました。

壊れた砂防ダム

 この答えが簡単に出せるとは思っていません。日々、新たな経験も蓄積され、自分なりの考えと態度も少しずつ変化していますし、社会の情勢も変化を続けています。ただ、自然と自分では完結し得ない世の中のことも考え続けることを忘れずにいたいと思います。

野外地質学と社会

 現在、野外地質学は人材不足に直面しています。その理由はいろいろあるのでしょう。野外地質学そのものの意義は変わらない、つまりこの学問分野にはまだ解明されるべき課題が数多く残されていると思います。しかし、就職口の多様化、社会環境の変化、地学履修率の低下などによって、人を惹きつける力が相対的に低下したことは否めません。特に、成果主義が世にはばかるようになって、野外地質学をはじめとする地道な基礎研究は、脚光を浴びにくくなっています。

 しかし、社会環境・状況の変化は、新たな可能性をもたらしました。野外地質学の成果である地質図は、かつては見ることも簡単ではありませんでしたが、IT技術の進歩により今や普通にウェブ配信することが可能になりました。オープンデータの流れにより、専門分野を超えてのデータ利用 (重ね合わせなど) が容易にできるようにもなってきました。また、3.11の災害以降、一般の方の地質や地盤への関心は高くなっています。

三四郎島

野外地質学の未来

 したがって、いま研究成果を発信することが不可欠です。それもわかりやすいかたちで伝える必要があります。そのための工夫と努力は多岐に渡りますが、少しずつ実を結びつつあると感じます。近い将来、必要とする情報が容易に手に入り、なおかつその内容を正しく理解できるような社会をきっと実現していきたいと思います。

 地球を研究する自然科学は、今や細分された専門分野の集合です。ただ、それらはみな関連し合っています。ときには予想もしなかったところで関連していることもあります。その因果関係を発見したときの新鮮な驚きと喜びを、専門家だけでなく広く共有したいものです。サイエンスはみんなのものです。

 地球にはまだまだわからないことがたくさんあります。その一部でも解き明かすことにやりがいを感じるなら、地球の現場である野外へ行きましょう。そして自分の頭で考えてみましょう。

フィールドにて

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