Behnke-Thullen「多変数複素関数の理論」序文


BehnkeとThullenの

Theorie der funktionen mehrerer komplexer veränderlichen
(多変数複素関数の理論)

は1934年に出版され、岡博士の研究のよりどころとなった本です。当時までの研究成果がまとめられたものです。 関数論の本としては薄い本ですが、その中で射影空間の導入から始まりドイツの書籍らしくしっかり書かれています。 本書の中で未解決問題がいくつか提示されており、それがどのように書かれているかは興味があるところです。 正則領域に関しては、局所的に擬凸である曲面に対してそれを自然境界とする正則関数が局所的に存在するという定理が示された後、 このことは大域的にも成り立つかどうかは未解決問題である、として問題が示されています。
 この書に何が書かれているかを見るために序文を見てみましょう。参考のため以下に日本語訳を記します。 六つの章に分かれていて第一章では射影空間が導入され、第二章でその幾何学的基礎が議論されています。 第三章ではべき級数により正則関数が考察され、第四章でHartogとLeviによる連続性定理へと進みます。 第五章ではWeierstrassの予備定理により極と零点について議論し, いよいよ第六章では正則領域と正則包が主題となります。 第七章では写像理論について解説されています。

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Vorwort

 多変数複素関数論は、近年多くの国で数学の研究対象となっている。 この分野の研究論文は非常に多く、ここ数年間の論文数は過去数十年より多いほどであり、この分野に関心をもった研究者が 特定の文献にあたって自分の課題を見つけようとしても難しくなっている。さらに、出発点と前提、 特に暗黙の了解事項は著者により多少とも異なっている。そこで、編集者は我々に領域全体についての総合報告の執筆を依頼してきた。

 ここで、全体を俯瞰するようなよく知られた文献がいくつかあることに注意しなければならない。 最も古い文献は次のものである。A. R. FORSYTH:『二複素変数の関数』(Functions of Two Complex Variables) (Cambridge University Press, 1914)、 その後、1922年に完成したBIEBERBACH による百科事典の論説がある。数年後(1924年, 第二版1929)に、OSGOODによる著作が出版された:『関数論』 (Lehrbuch der Funktionentheorie)(B. G. Teubner) 第II1巻。おそらく我々のほとんどが関数論への 入門においてこの書のお世話になったであろう。最後に、1931年にF. SEVERIは研究の急速な発展をまとめた報告書を著した。

 本書は、教科書と百科事典的な報告書の中間に位置するものである。
 新しい著作により、基礎となる仮定を明確にして統一された報告となるように努めた。この目的のためには、 本書の構成を歴史的側面に基づいて構築することはできなかった。むしろ、最初の章として関数の古典的な理論におけるリーマン面の類似として、 n 複素変数の空間上の新しい理論を構成する必要があると考えた。多変数関数の理論はその特殊性により、 最近の理論によれば、まず単純な領域の一般理論の主要部分を構築するためにも、基本的にその後基礎を議論し直すことが必要である。

 第二章では幾何学的な基礎を紹介する。第三章(初等級数を取り扱う)において関数自体の研究が始まる。 第四章では、HARTOGSと E. E. LEVIによって証明された特異点のある多様体の連続性定理とその結果を扱う。 第五章の中心はWEIERSTRASSの予備定理である。これより解析関数の零点と本質的ではない特異点の分布が従う。 第六章(正則領域の理論)では、正則包の概念と同時連続性についての主定理が本質的である。 最後の章では写像理論を議論する。 ここは主としてH. CARTANによる研究によるが、CARATHEODORYについては最後に言及する。 しかしながら、後者の理論は歴史的には最初に言及すべきであり、写像理論の発展に大きな刺激を与えており前の章と深く関係している。 BERGMANNの写像理論はこの章の補遺にまとめた。

 我々は三つの一般的要件を満たすように努めた。それらは解析関数の本質に対応しているが、 文献においては必ずしも守られているものではない。
1. 複素変数 z1, z2, …, zn 空間において有限だけ離れた点は無限遠点と区別されないため、 無限遠点の例外的な配置は可能な限り除くべきである。
2. 複素関数の理論は複雑であるため実部と虚部に分けることは避ける。
3. 様々な変数 z1, z2, …, zn は同等である、そのため、個々の変数に応じて分解し、 古典的関数論を援用して段階的に問題を構成することはできる限り避けるべきである。 このような分解を常用すると容易に古典理論の純粋に形式的な移行になってしまう。

 本書の最初に設定された範囲(課題と分量)は、我々に厳しい制限を課している。そのため、特殊関数(代数関数、周期関数、 保型関数、整関数)については述べることができない。それでも、 多くの命題の詳しい証明は本書の分量を増やさずには記述することができない。しかしながら、最も重要な点に関しては証明の過程を記述し、 訓練された読者ならば証明の主要部分を理解できるようにした。我々が考えた構想が文献にはない場合もあった。 文献にある時は出版された文献を参照した。 我々はまた、上に挙げた文献に詳しく書かれている事柄については(特にOSGOODの教科書) 可能な限り簡潔に述べるようにした。n 複素変数の関数について記述する際に、二変数 w と z の関数の理論を考えるか、 n 変数 z1, z2, … , zn の理論として書くかは難しい選択であった。 疑いなく変数 z1, z2, … , zn を使うと表現が技術的に複雑になりすぎ、 我々が真摯に奮闘してきた彫像が失われてしまう危険がある。 一方、変数 w と z のみを使うと、ここでは常に多変数の関数を扱っているという仮定の下ではあるが、 数学の細部にこだわる人には良心の呵責となる。解決策として妥協案を選択した。n 変数関数の空間上の表示式達が関数 f(w, z) に対する式に 比べ大幅に複雑でない限り(これは本書の大部分に当てはまる)、関数 f(z1, z2, … , zn) を扱う。 そうでないところでは、変数を w と z に限定する。これは特に円形状または特殊な領域など幾何学的要素が役割を 果たす場合に当てはまる。実際には難しいので個々の場合にこのことを行う。その時にはこのことを強調する。

 本書の構成は、多くの同僚や若い数学者に間接的に負っている。我々の年長者は、数年前にこの分野についての講義を行い その後定期的にセミナーを行って以来、若い仲間の学生達が我々の仕事に興味を持ち実り豊かな応答を示してくれている。 我々の仲間の何人かとは、準備された原稿を読んだ後及びミュンスターでの客員講義の後に議論とやりとりを行い、 ここで取り上げた多くの疑問を明確にすることができた。次の方々に感謝する。 ST. BERGMANN, CARATHEODORY, H. CARTAN, L. FANTAPPIE, HARTOGS, KNESER, TOEPLITZ, WELKE. シュトラスブルグのH. CARTAN教授, グライフスヴァルトおよびEccの H. KNESER教授には特に感謝しなければならない。 ローマのSEVERI教授には原稿を詳細に読み、いくつかの改善点を薦めていただき感謝する。 我々はまた、私講師のG. KÖTHE博士とミュンスターのPESCHIL博士およびローマのEICHELBRENNER氏には、 校正を読むのを助けていただいた意欲と努力に感謝する。

ヴェストファーレン州ミュンスターにて, 1933年10月
H. BEHNKE, P. THULLEN 








 
 
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