フィンランド出張報告: 2003.03.24
- 写真・文:宮城磯治 (産総研・国際部門・国際地質協力室)※
- 出張者:笹田政克&宮城磯治
- 作成日:平成15年4月22日(火)
- 修正日:平成16年6月16日(水)
- デザイン変更:2008年2月5日火曜日
※産業技術総合研究所→活断層・火山研究部門→マグマ活動研究グループ:主任研究員
- 8日目 ポシバ社を訪問
目次
概要:
3月24日 月
- AM/PM 移動 ヘルシンキ→オルキルオト
- 見学 ポシバ社と,オルキルオト処分施設の見学.
- 移動 オルキルオト→ヘルシンキ
得られた資料
- Spent nuclear fuel management in Finland. by Posiva, 2002, -.
※ポシバ社による, 使用済核燃料の処理に関するパンフレットである.7ページ. 英語. - 無題. by Posiva (Veli-Matti A:mma:la:), -, -.
※エンマラ氏が使用したプレゼンテーションの ハンドアウト(一部).17画面. - Environmental impact assessment report/ General summary/ The final disposal facility for spent nuclear fuel. by Posiba, 1999, -.
※ポシバ社による, 使用済核燃料の処理に関するパンフレットである.19ページ. 英語. - Nuclear waste management of the Olkiluoto and Loviisa power plants. by Posiva, 200Annual Review 2001, -.
※ ポシバ社による,研究年報.この報告書の表紙には フィンランド国会(議席)の写真があり,裏表紙には説明として, 「On the front cover: In May, the Finnish Parliament ratified the Decision in Principle concerning the construction of a final disposal facility.」とある.英語.29ページ. - Annual Report 2001. by TVO, 2002, -.
※ TVO (Teollisuuden Voima Oy; ポシバに出資している電力会社)の 年報である.各種の統計が記載されている.英語.48ページ. - Environmental Report 2001/ Environment and Society. by TVO, -, -.
※ TVOの事業全体が解説されている年報である.英語.30ページ. - Nuclear waste management at Olkiluoto. by TVO, 2000, -, -.
※ TVOによる.オルキルオト発電所から出る 低レベル放射性廃棄物の処分と, 使用済燃料の保管について解説したパンフレットである. 英語.14ページ. - Energy for life. by TVO, -, -.
※ TVOによる.発電の必要性,原発の原理,安全性, ウラン鉱石→燃料→地層処分までの説明,, などを解説したパンフレットである.英語.19ページ. - Annual Review/ January-December 2002, by TVO, -, -.
※ TVOによる.オルキルオト原発の稼働率などが掲載されている. A4両面3枚分,観音開きのパンフレットである.英語. - Construction of the nuclear power plant unit at Loviisa or Olkiluoto. by TVO, 2000, -.
※ TVOによる.オルキルオトとロヴィーサ原発の必要性や構造, そして低レベル放射性廃棄物処分場について解説した パンフレットである.英語.18ページ. - Annual Report 2001. by Posiva, -, -.
※ ポシバ社の事業全体を概説している.予算統計あり. 英語.20ページ. - Into Olkiluoto bedrock/ Final disposal of spent nuclear fuel in Finland. by Posiva, -, -.
※ オルキルオト最終処分地に関するポシバ社の取組みを紹介した パンフレットである.英語.30ページ. - Posiva Flow Log/ Characterisation of Groundwater Flow. by Posiva, -, -.
※ ポシバ社が開発したボーリング孔内の地下水の流動計測器の パンフレットである.英語.A4両面3枚の分量. - Eurajoki. by -, -, -.
※ オルキルオトのある「エウラヨキ地方」のパンフレットである. 6ページ.フィンランド語. - Ytimeka:s/ Geologia, by TVO, 2001, 2001/6.
※ TVOが発行している,地質解説パンフレットである. オルキルオトの地質,その歴史(GTKのSeppo Paulama:ki氏が一部執筆), そして地質以外の話題も含まれている.27ページ.フィンランド語.
ポシバ社まで
5:00 起床.タイCCOP出席確認を問うメールを石原室長にだす.
5:45 ホテルを出発.ヘルシンキ駅まで徒歩で移動.
6:10 駅のバスターミナルから,空港へ向かうバスが発車.
6:45 ヘルシンキ(ヴァンター)空港に到着.
空港内で,プレイステーションと,自転車ともスケボーともつかないような乗りものをみかけた.
ヘルシンキ空港からポリ空港まではプロペラ機でゆく.
7:30 国内線離陸.一番後の,右側窓側にすわる
ポリまでの風景.
フィンランド南部を,北西にむかって飛ぶ.視線は北の方を見ている.
8:10 ポリに着陸
8:25 タクシーに乗る.BMWのステーションワゴン.
ポリ空港からポシバ社までは車で40分ぐらい.
ビジターセンター
9:15 ポシバ社のビジターセンターに到着.Veli-Matti A:mma:la:氏に面会.笹田氏がGSJ/AISTの活動内容を紹介.AIST紹介,国内の電力源の変遷,核燃サイクルの紹介.
--
9:45 ごろからPosivaビジターセンターの展示物をみる.
左と中は展示室.右はビジターセンターの外観.
A:mma:la:氏が解説.展示によれば,フィンランドの電力源のうち日本にないものは,パルプかす(11.4%;全電力に占める割合),泥炭(6.9%),そして輸入(12%)であった.原子力は27%を占め,これは日本とほど同程度である.フィンランドの電力輸入は,スエーデンから(海底ケーブル使用)とのこと.
フィンランドの電力料金は課金方法がおもしろい.電力発生にかかる費用と,送電にかかる費用を,それぞれ半々負担するシステムである.個人レベルで電力会社を選択できる.このシステムは非常に巧妙である.消費地に近くかつ安い電力を発生させる電力会社は最も有利になる.遠い電力会社は送電費用が増大する分ハンデがあるが,非常に安ければ送電の分を補って余るので,電気を買ってもらえることになる.すなわち,逆にいうと非常に安い電力が市場を独占してしまうようなことはない.電力会社を潰すことなくかつ競走を促されているという意味で,たいへん賢いシステムといえよう.電力会社は「温水」も提供している(※あたたかい煙突←参考).一般的な広さの家屋の場合,暖房用の温水の使用料金は20ユーロ/月程度とのこと.電気代も安く,たったの0.01ユーロ/キロワット時とのこと.
--
A:mma:la:氏のSAABに乗って別の建物に移動.
原発とポシバ社の役割
10:08 A:mma:la:氏によるフィンランドの原発に関する紹介.
オルキルオト原発はスエーデンの技術で1980年生まれ,想定寿命は60年.ロビーサ原発は旧ソ連の技術で1978年に生まれ,想定寿命は50年.フィンランドは,スエーデンやノルウエーとはパスポートなしで行き来できるが,ロシアとは比較的困難.オルキルオト原発を地図をみせながら紹介.
Q オルキルオトは「島」のはずだが,橋はどこにある(答えは,今朝来るときに橋に気付きましたか(宮城:いいえ.だから橋の位置を質問したのです).橋はここにあります(地図を差しながら)が,海が凍っていたので,橋だとわからなかったのでしょう).そもそもオルキルオトを地図で見つけるのは大変でしょう(ラウマやエウラヨキ,ポリにくらべて知名度はオルキルオトのほうがずっと上なのにかかわらず).エンマラ氏が言うには,彼はラウマに住んでいるが,ラウマがどこか知っている人はほとんどいないという.ところがオルキルオトで働いていると言えば,皆は彼の職場を理解してくれるとのこと.
ポシバ社はTVO (Teollisuuden Volma)社からの出資6割と,Fortum Power & Heat 社の出資4割からなる合弁会社である.現在100人以上の技術者が,Posiva傘下で働いている(例えば,Fintact, Paavo Ristola).政府はTVO とFortumにライセンスを与え,通産省はポシバを規制し,STUKはポシバ傘下の研究所を監督する,とのこと.
放射性廃棄物の地層処分候補地の選択過程や,プロセス関係図を説明.Lovisa原発はソ連のものなので,燃料もソ連のもの.したがってロビーサで発生した使用済燃料もソ連の所有物だという考えが一般的であり,ソ連に返却するはずだった.だから,フィンランドは,ロビーサにおいては放射性廃棄物の問題は考えなくてもよかった.しかしその後,法律の見直しがあったため,使用済み燃料を自国(フィンランド)で処分することになった.1994年は,放射性廃棄物をロシアに送付することを断念することを考えはじめた年である.1996年は,ロビーサの使用済燃料を全てフィンランド国内で処分することを決めた年である.
オルキルオト原発を運営していたTVOは,1970年後半には,使用済み燃料の処分方法についての考察を開始しはじめ,考察結果を通産省に提出した.そして1983年には,地層処分のタイムテーブルが,フィンランド政府によって定められた.当時,処分作業の委託先はTVOだった.数百あった放射性廃棄物地層処分候補地は2000年になると4個所に絞られた.エウラヨキ(オルキルオト)もこれに含まれた.候補地は,STUKの基準を全て満たしていた.エウラヨキとロビーサは,ほぼ同じ割合(約60%)の支持率で受入賛成派が過半数をしめ,二者択一になった.フィンランド議会は2001年5月18日に,エウラヨキ(オルキルオト)を使用済燃料の最終処分場として進めてゆくことを,承認した.エウラヨキ(オルキルオト)が選ばれた理由は,ロビーサよりもオルキルオトのほうが,安定な地質ブロックが広かったことによるとのこと.オルキルオトの処分場の名称は,「ONKALO」とされた.
情報公開の考えかた
ひととおり説明しおわったので,質問.Q ポシバと研究契約をむすんでいる研究所が研究成果を発表してもいのか(答えは,どんどん発表してもらうが,ポシバがそのレポートに対して責任を負わないという但し書きがつく).Qポシバはそれらの研究所に研究費を払っているが,ポシバにとって都合のわるい研究結果だったとしても構わないのか(答えは,そもそも原発がなかったら地層処分の研究も必要なかったのだから,ポシバがお金を払うのは当然の責任である.住民と企業(ポシバ)との信頼関係がもっとも重要である.たとえば,もしも何かのレポートを隠したとしたら,ポシバの信頼感は一夜にして失墜するだろう.だから,何も隠してはいけないのだそうだ.
さすがリナックスを産んだ国.非常にオープンである.逆に,日本では原発の支持率がすごく低いと聞いているが大丈夫なのか?,と聞きかえされてしまった,,.ネットワークで世界中の情報が瞬時にやりとりできる時代,日本での原発不信感はフィンランドにも影響しかねないので,ポシバは関心をもっていた.
ポシバ社とエウラヨキの人々の信頼関係も良好のようだ.エンマラ氏によれば,エウラヨキの人たちは原発のことなど話題にしない(面白くない話題だから)が,そこいらを歩いている人をつかまえて原発について意見を聞けば誰だって自分の考え(必要だ)をもっている,という.フィンランドでは,電力料金の中に高レベル放射性廃棄物の処分研究費が含まれており,電力会社はそれを使って安全性などの研究をする.だから研究の責任は電力会社にある(結局はそれを監督している通産省が責任をもつが).ポシバ社のパンフレットにはCEOの顔写真まで載っていて,「誰が」責任者なのかというイメージをつかみやすい.日本でも,電力料金の中に研究費が含まれているが,それは一旦政府に収められ,政府が研究を指示する.だから研究の責任は政府にある.〜11:20
センスのいい椅子.
11:30 ポシバの研究紹介ビデオをみるために,部屋を移動.〜11:50
昼食
12:00 ごろ,ポシバの社員食堂の特別室で,A:mma:l:氏,笹田,宮城が会食.話題は,アメリカによるイラク攻撃の話,アジアで流行している肺炎の話,等々.
クルクルパ!
食事もおわり,施設を見学するにあたって「クルクルパ」をつけてほしい,と言われた.なんだそりゃ,本当にくるくるぱなのだろうか,と,耳をうたがう.しかし実際それを配布してもらった場所の,金属探知器らしきゲートの頭上には,「Kulkulvat」と大きく書いてあったから,本当である.エンマラ氏によれば,「Kulkulvat」とは胸につける認証用のバッジのことで,パスポートの意味だとのこと.後日辞書を調べると,その語ずばりの単語は発見できなかったが,kulkuは「行く事・行き・歩み」の意味だと分った.-vatは,三人称複数のときの語尾かもしれない.また英語からの逆引きでは,パスポートは「passi」という単語があった.
オルキルオト原発.「Kulkulvat」を装着.他にも,日本語みたいなフィンランド語が色々あることを,エンマラ氏が教えてくれた.たとえば,プータロは「木造家屋」のこと.「みないほうがええ(見ない方が良い)」に聞こえるのは「私の名前はヴェリマティエンマラです」の早口(このフィンランド語はMinun nimi on Veli-Matti A:mma:la:).さらに,「おやすみなさい」,に聞こえるのは「川の岸の斜面で女の人とXXXしたい(このフィンランド語は不明)」という,とんでもない意味だそうで,,.
ボアホール
13:40 オルキルオトに掘られたボアホールを見学.ボアホールには[KR-なにがし]という名前がつけられている.KRはフィンランド語でボアホールの意味とのこと.
エンマラ氏によれば,この付近はmoose(大きな鹿)が多く,ムースは人間に直接危害をくわえないが,道路脇から突然ジャンプして自動車事故をひきおこすので,結果として危険なのだそうだ.そこで,時期になると,ムースは撃ち殺されてしまう.エンマラ氏によれば,我々(ポシバ?)は10頭分の「殺しのライセンス」を与えられているとのこと.エンマラ氏はふたたび強調した.いいかい「殺し」の「ライセンス」だよ,ムースにとってはひどい話だよね.ところで,そういう名前の映画を知っているかい?,,などとおしゃべりしているうちに,次の現場に到着.
ボアホールを見学.
処分地風景
この付近は使用済燃料の最終処分上のほぼ真上にあたる.
苔
氷河による擦傷.調査されたトレンチ(※参考:処分地周辺の形成史GTK二日目の講義)のひとつを訪問した.
軍隊.この付近は演習場になっている.
稼働中の処分サイト
14:00 オルキルオト処分サイト(低&中レベル放射性廃棄物)の中に入る
稼働中の処分サイトの中へは,宮城が所持していた大きなカメラは持ち込めなかったので,文章のみで報告する.サイト内は空調が効いている.地下の運搬用トンネルは,車が2台すれ違える程度の幅&広さで,内壁はほとんどむき出しで,ごく一部モルタル(?)を吹きつけてあり,地質に興味がある者なら一日中散歩していても飽きないだろう.基本的に壁はよく乾いており,破砕帯のみ湿っている.搬送用トンネルの終点に,低&中レベル放射性廃棄物の処分部屋があり,体育館ほどの広さがある.ここに使用済み燃料(高レベル放射性廃棄物)を入れるためのキャニスターが展示されていた.無酸素銅製で1個10 thousand euro (約150万円)もするため,地層処分にかかる費用の大部分を占めるという.
ボーリングコア
14:40 コアの置いてある部屋をみせてもらう.これらはすべて,一般に公開される予定である.
帰路
15:15 ポシバを去る
16:05 ポリ空港に着く.チェックインカウンターの上に様々な「紋章」が飾ってあった.一番上の段,左から3番目がオルキルオト原発のある「エウラヨキ」のものである.
ポリからヘルシンキまでの風景.フィンランド南部を,南東にむかって飛ぶ.視線は南の方を向いており,遠方に海岸線が確認できる.右の写真中央は,Nuuksion湖と思われる.
17:35 ヘルシンキ空港に着陸.
到着後すぐフィンランド航空とルフトハンザ航空のカウンターで,明日の国際便の運行状況を聞いた.これまでのところイラク戦争の影響はないとのこと.
--
19:00 ホテルにて,日本からの電子メイルを受信.宮城のバンコク行きはなくなったとのこと,,.