フィンランド出張報告: 2003.03.19
- 写真・文:宮城磯治 (国際地質協力室 リサーチャー)※
- 出張者:笹田政克・宮城磯治
- 作成日:平成15年4月22日(火)
- 修正日:平成16年6月16日(水)
- デザイン変更:2008年2月4日月曜日
※産業技術総合研究所→活断層・火山研究部門→マグマ活動研究グループ:主任研究員
- 3日目 ヘルシンキ大学の放射性化学研究室を訪問
目次
概要:
3月19日 水
AM/PM ヘルシンキ大学の放射性化学研究室を訪問.
- visit to the laboratory of radiochemistry
- transport of radionuclides, retardation etc.
得られた資料
- Natural uranium as a tracer in radionuclide geosphere transport studies. by Juhani Suksi, 2001, Report Series in Rediochemistry 16/2001.
※ 44ページの本文と,9つの学術論文をたばねたものである. - Radionuclide migration in crystalline rock fractures/ Laboratory study of matrix diffusion. by Pirkko Ho:ltta:, 2002, Report Series in Rediochemistry 20/2002.
※ 45ページの本文と,5つの学術論文をたばねたもので, VTTでもいただいた. - Release of uranium from rock matrix - a record of glacial meltwater intrusions?. by Kari Rasilainen et al., 2003, Journal of Contaminant Hydrology 61 235-246.
※ 論文別刷.第二著者がヘルシンキ大学のJuhani Suksi氏である. - Interpretation of out-diffusion experiments on crystalline rocks using random walk modeling. by Paul Sardini et al., 2003, Journal of Contaminant Hydrology 61 339-350.
※ 論文別刷.第五著者がヘルシンキ大学のEsa Oila氏である. - Migration of radioactive waster nuclides in the geosphere. by Martti Hakanen, 2003, -.
※ Hakanen教授が使用したOHPの一部ハンドアウトである. - Ion exchange research for nuclear waste management. by Risto Harjula, 2003, -.
※ Harjula氏が使用したパワーポイントのハンドアウトである. - Use of natually occurring radioactivity in repository safety assessment. by Juhani Suksi, 2003, -.
※ Suksi氏が使用したパワーポイントのハンドアウトである. - Helsingin Yliopisto/ Matemaattis-luonnontieteellinen tiedekunta. by Helsinki University, 2001, -.
※ ヘルシンキ大学のパンフレット;フィンランド語である. - Department of Chemistry/ University of Helsinki, by Department of Chemistry/ University of Helsinki, 1997, -.
※ ヘルシンキ大学化学教室のパンフレット.英語. - Annual Report 2001, by Laboratory of Radiochemistry/ Department of Chemistry/ University of Helsinki, 2001, -.
※ ヘルシンキ大学放射性化学教室の年報. 同教室の研究成果が列挙されている.英語.</ol>
ヘルシンキ大学まで
9:20 GTKのPaavo Vuorela氏とEero Kuronen氏がホテルに迎えにきてくれた(感謝).
10:00 ヘルシンキ大学に到着.ガラスをふんだんにつかったモダンな感じの建物である.
放射性化学教室の紹介
セミナー室に関係者が集合.Prof. Olof Solin氏 (上の写真,一番手前で背中をみせている人.これは笹田氏による説明の様子.)によるヘルシンキ大学(化学)の概要を紹介.「University of Helsinki Department of Chemistry, Laboratory of Radiochemistry」の研究スタッフは約30人で,これに事務,教官,技官,研修生を入れると約50名.同ラボは,もともとは,廃棄物以外に化学全般の問題をとりあつかっていたが,最近(1978年以降)は放射性廃棄物に集中している.
10:15 Hakanen教授による講義.まず廃棄物処分場候補地の絞り込みの経緯(GTKでも聞いただろうけど,と言いながら).この研究室は何を研究対象にしているかを解説(Porous flow, very low water flow near equilibrium conditions, redox effect).研究対象試料は,はじめは土壌(clays, gravel, sand)だった.その後ドリルコア,コンクリート,水,などが加わった.実験産物の例(走査電子顕微鏡写真;水を0.2umのフィルターで濾した残留物)をみせてくれた.大きい粒々はSiO2で小さい粒子はFe3+化合物とのこと.後者はsample preparationの過程で生成したものと解釈できるので除外する云々.その他,U, Np, Pr, Am元素に関する化学的な考察を話したが,早口&宮城の未経験分野のため書きとれず.Q 常温の反応だから,実験するには非常に時間がかかるはず.アレニウスプロットを作成するために温度をかえた実験をしているか(答えは,そういう実験はしていない).
オートラジオグラフという技術について紹介.試料を放射性物質の溶液に浸して,研磨面をフィルムに密着させると,放射性廃棄物がしみこんだ部分だけ感光するので,亀裂の構造がわかる.研磨面への放射性元素の吸着例を示した.角閃石の場合,還元的な雰囲気では全体的に吸着するが,酸化的な場合は,角閃石中の炭酸塩包有物にくっつく.還元的な雰囲気で雲母への吸着例では,層間に取りこまれたりとりこまれなかったり(やや粗い筋状)していた.
実験時間1年にもおよぶ,水とNpの反応結果の紹介もあった.ここでの実験手法を分類すると,staticなものとdynamicなものがある.前者はbatch, thin section, rock cubeというカテゴリーの実験.後者はflow, fracture, crushedがある.
2002年から,ベントナイトに関する研究が開始された.膨潤に関する研究,亀裂の充填に関する研究,そして破砕部内の流体の流れに関する研究.
日本の紹介
11:00 笹田氏がプレゼンテーション.内容はGTKでのものとほぼ同じ.aist全体の紹介,gsjの紹介,dgerg,active fault,.... わが国の電源事情,廃棄物処分のコンセプト,処分場のコンセプト,NUMO, METIの紹介,処分地選択のコンセプト,NUMOとGSJの関係,日本のテクトニックセッテイング,DGERGが何を研究するか,等.Q もっと安定な国に処分してはどうか(答えは,廃棄物の輸出入に問題があるので,国内での処分を考えている).東濃のセンターとの共同研究はあるのか(答えは,東濃JNCはNUMO(実施側)と研究契約しているので,深部地質環境研究センター(規制側)とは共同研究できない).
〜11:28
廃液処理技術
11:29 Risto Harjula氏が研究紹介「Inorganic ion-exchanges and waste treatment(廃液処理)」.これはTi-Sb化合物を使用し,廃液中の特定イオンを除去する方法である.Ogranic elementをつかうと色々問題がある.廃液中の目的元素濃度は低いので,選択的なイオン交換能力が重要である.Ti-Sb比を変化させ,吸着サイトのイオン半径を調整することにより,複数のイオンに対して選択的なイオン交換能力をもたせることができる.廃液の処理例の紹介,100-300K Bq/L相当のCs-137がとけこんだ廃液900m3以上(濃度は聞きとれず)を,112リットルの「Cs-treat」で処理(こちらも濃度不明).処理能力は12.2m3/kgだった(除去能力が高いらしい).
除去作業のしやすさ(工学的な視点)についても考慮がなされている.廃液を「Cs-treat」と「Sr-treat」の二段カラムに通せばCsもSrも吸着されるので,使用後はカラムごと鉛の容器に入れ,処分できるとのこと.なお,廃液のpHは調整する必要があるそうだ.pHが低いときは,水酸化ナトリウムを用いて調整し7ぐらいにする.というのは,除去効率(Conc. in / Conc. out = DF)はpHに大きく依存し,低pH側では効率がさがるため.
元素の拡散
11:48 Esa Oila氏が,オートラジオグラフィー法と数値計算をもちいた研究を紹介「岩石中の元素拡散に対するpore geometry of Granite, surface areaへの効果について」.試料は,Palamottu R384/74.長さ15cmのボーリングコア試料.この研究の予算はSTUKによる(1990頃から).計算機を用いた拡散シミュレーションでは,拡散係数のことなる領域やfast pathのある2次元の系.fast pathの拡散係数は,はじめ純水中のものを仮定し,そしてくりかえし計算をおこない,実験結果にあうように拡散係数を変化させてゆくとのこと.
ナチュラルアナログ
12:07 午前中の最後は,Juhani Suksiによる研究紹介.天然の放射性鉱物鉱床を用いて水文学的な研究をおこなった.この研究のポイントは,Uの水に対する溶解度が酸化還元状態により大きく変化することである.約1万年前に氷河がとけたことによって,酸素の多く溶解した水が地下に入るようになり,その結果天然放射性鉱床のUが溶解/移動したが,現在は植生などにより酸素の少ない水が地下に入ったので,Uが動けなくなったという(Uの移動/沈積により,二次的なウラン鉱床ができる).一方,Thは酸素分圧にかかわらず動きにくい元素である.このような,元素毎の特性を利用し,U234/238,Th230/U234,Ra226/Th230,Po231/U235,Th228/Th232らの元素比を測定することにより,彼は水文学的/地球化学的なシナリオを構築している.
昼食
12:40 昼食のためキャンパスをでる.Martti Hakannen 教授が運転し,Juhani Suksi氏, 笹田氏,宮城がのる.大学から車で5分ぐらいのところにレストランがあった.Suksi氏は釜石の実験場にきたことがあるとのこと.
ヘルシンキ大学の職員用駐車場には給電スタンド.プラグを車に差し込み,電気でエンジンのオイルパンをあたためる.
実験室
13:50〜 同教室の実験室をみせてもらう.
放射性化学教室の廊下にて.建物外壁だけでなく,内部もガラス張りである.
まずMarja Siitari-Kauppi氏の実験室(オートラジオグラフ).彼女は,午前中発表した,Esa Oila氏の指導教官である.12Cに放射線をあてて14Cをつくり,この樹脂を岩石にしみこませる.トリチウムを使うこともある.しみこませる前には,岩石のすき間を完全に乾燥させることが重要で,真空中,150℃にて1ヶ月もかけて乾燥させる.日本人の Kunio Ota氏もおなじような技術をもっているとのこと.放射性物質を岩石にしみこませる時間も長く,1〜2ヶ月かかる.午前中の拡散計算について,長時間はなした.
14:55 Jarkko Kyllo:nen氏による実験をみせてもらう.Cs溶液を,人工的につくった「岩石のすきま」に流動させる実験である.この実験も何年も(!)かかる.
15:10 最後に,Esa Puukko氏による実験をみせてもらう.鉱物表面(石英)へのユーロピウム吸着を研究しており,現在の実験対象はpHのちがいによる吸着量の変化,とのこと.ぐるぐる回る実験装置を使用しており,話終わった時には目が回った.
総合討論
15:30 ふたたびセミナー室に全員集合.雑多な質疑応答.笹田氏が予算などについて質問.予算は基本的にSTUKからきている.STUKは処分候補地選択基準を決定するための役目を負っており,ヘルシンキ大学はそれに必要なデータやモデルを生産するのが仕事とのこと.とはいえ,色々なケースがあり,たとえばU-Thの研究は100%STUKによる出資だが,Posiva社によるサポートを受けている研究もあるそうだ.また,STUKがポシバ社に対して,研究方針に関する助言をもとめるケースもある.EUのプロジェクトというかたちで進行している研究もある(例:ベントナイト).スエーデンとの共同研究もある(キャニスターが似ているので).Q その場合の共同とは,Task sharing or cost sharing?(答えは,コストだ).
なお,最終処分場が決定したとたん,研究予算額は激減(以前の4分の1)したとのこと.今後,独立した研究はなくなってゆく方向だが,現在のモデルと異なるモデルを作成するような場合には,独立的な研究が発足する(∵社会的な要請があるから).Q初期段階になかったオルキルオトがどうして選ばれた(答えは,原発に近いから).宮城がこの素朴な質問をしたところ,Juhani Suksiは笑いを殺すのに苦労している様子で,これにはサイエンス以外の社会的な理由があるらしい.
帰路
記念撮影
Martti Hakanen 教授が車で送ってくれた.ウスペンスキ寺院.
16:30 ホテルに到着.
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- おまけ:
18:50 フィンランド料理店(ラッピ)で夕食.ファーストフード的な夕食が続いていたので,生き返った気分である.メンバーはVuorela, Paulama:ki, Sasada, Miyagi,少し遅れてGaa'l氏が合流.宮城はとなかい肉ステーキを試してみる.フィレ肉だったためか,やわらかく,味は牛肉と鶏肉の中間的な感じ.claudberry-lakkaという橙色のベリーがある.これはとても硬いタネが入っているので慎重に食べる.イラク攻撃前夜なので,話題にあがった.領土問題の話題もあった.日本もフィンランドも,ロシアとの領土問題をかかえている.