フィンランド出張報告: 2003.03.18

by Isoji MIYAGI @ Geological Survey of Japan, AIST

フィンランド出張報告2003

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写真・文:宮城磯治 (産総研・国際部門・国際地質協力室)※
出張者:笹田政克&宮城磯治
作成日:平成15年4月22日(火)
修正日:平成16年6月16日(水)
デザイン変更:2008年2月4日月曜日


※産業技術総合研究所→活断層・火山研究部門→マグマ活動研究グループ:主任研究員

2日目 GTK(フィンランド地質調査所);訪問2日目


目次

概要:

3月18日(火曜日)

AM/PM 見学 GTK(エスポー)を訪問

  • discussions of site investigations
  • hydrogeochemistry,
  • analog studies


得られた資料

GTKまで

8:50 ホテルの前に迎えの車がくる.運転者は昨日名前をききとれなかった,あの人.フィンランド語まじりで「Yesterday I could not get yourname. Voisitoko kirjottaa tahan sina nimi;昨日は名前をききとれなかったので,ここに名前を書いていただけますか?」と言うと,ちゃんと通じた(^_^)//.Eero Kuronenさんだということがわかった.※フィンランド語はで「r」は独特の巻舌で発音する.

ヘルシンキのホテルからGTKのあるエスポーまでは,約7km.途中,車は海をわたる長い橋を二度とおる.携帯型GPS(GARMIN eMap)も持参したが,フィンランド付近の地図データ精度は低く,カーナビ代わりに使えるほどではなかった.昨日アレキサンダー通りの書店で購入した地図を用いて現在位置を確認.この付近の地名はLauttasariとHanassariという具合に「sari」がつく.Erro氏によれば「sari」はフィンランド語で「島」という意味とのことで,納得.

9:50 GTKに到着.Paavo Vuorelaさんがでむかえ.宮城は自分の名札をホテルに置いてきたことにきづいて,受付嬢に報告&わびるが,笑顔にて問題なしとのこと.

日本の紹介

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今日の面会者はSeppo Paulamaki(地質学;放射性廃棄物&環境地質)氏と,Markku Paananen(同)氏.部屋は昨日と同じ,本館6階の会議室(地質調査総合センター本館AV室の四分の一程度の広さ).テーブルを時計まわりに,OHP, Sasada, Miyagi, Vuorela, Paananen, Paulamaki.

初対面の彼らをまえに,まず笹田さんによるGSJの研究を紹介.昨日のOHPを使用.内容は,日本の発電内訳の変遷,日本における地層処分のコンセプト,administrative systemの紹介,処分地選択のコンセプト,GSJ ,NUMO, 電力会社,経済産業省の関係の説明,深部地質環境研究センターの説明,日本の地質学的環境の説明,プレートと火山の説明,火山位置(200万年〜現在) の変遷の説明,地震(活断層の分布)紹介,A,B,C活断層の定義紹介.これに対する先方の質問は,日本の原発の数について(答えは20地域).この答えに対するコメントは,反応炉はもっと沢山あるんだろうね?(そのとおりと答えた).

候補地の絞り込み

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10:17 Vuorela氏によるプレゼンテーション.

話題は,候補地の絞りこみについて.昨日の話題とややオーバーラップするが,より具体的.微化石や南極氷の酸素同位体比(δ18O)の時間変動の図をみせた.これはフィンランドには氷河の加重が周期的にかかるという話.1980年からの,処分地選びのタイムテーブル紹介.断層帯と処分地の位置関係を紹介.候補地の絞りこみは以下のステップによった:動いていないとみなせる地塊を327選択→162地塊に絞りこみ→ 67地塊に絞りこみ(1984年)→134の処分候補地を選出→ 101候補地に絞りこみ→85候補地に絞りこみ(1986年).これらの絞りこみ作業の評価は「STUK」が行なう.地塊間で相対的な動きはない(ラップランドでの実測→測定限界以下).氷河がとけた直後は10cm/yrぐらいで隆起していたと予想されるが,現在はほとんど動いていない.Qラパキビ花崗岩を他の花崗岩と区別するのは何故か(答えは,とくに理由はないが,比較的新しいから(といっても約150,000万年も前)).

候補地の地質調査

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10:46 Seppo Paulamaki氏によるプレゼンテーション.

話題は,Romuvaara, Kivett, Olkiluoto, Hasthomen地域について行なわれた地質調査について.1987-92に,予察的なボーリング調査がおこなわれた.ボーリングの深さは300-1000mで,本数は20以上.これに加え,地質マッピング,地球物理学的な調査,水文学的な調査がおこなわれた.これらのデータを用いて,モデル作成をしている.なお,フィンランドでは露頭がほとんどないので(オルキルオト周辺の露出率=4%;全土=3%),幅数m長さ数百mにわたり表土をはいて人工的に露頭を造り,調査した個所もあるとのこと.※宮城には,日本よりずっと露出が良いと思えたが.1993-2000には,さらに詳細な候補地の調査をした(ボーリング穴の水文学的調査;水の採取など).Qオルキルオトとロビーサがあとで追加されたのはなぜか(答えは,原発からの距離がちかいから).Q判断の基準はなにか(答えは,特にない.相対的なもの.;塩水とキャニスターの反応などについては,データがある).Q GTKは頻繁にエアボーン調査をしているが,ひょっとして研究所専用の飛行機をもっているのか(答えは,二機ある(ただしリース)).

地球物理調査

11:14 ひきつづき,Marrku Paananen氏による,地球物理学的な調査に関するプレゼンテーション.Qフィンランドの磁気のdipは何度(答えは,78度).地下水の流動について研究.「ポシバ流量計」という器具を使用.Qそれはどんな構造・原理か(答えは,月曜にオルキルオト見学をしたときに展示してあるのでそれを見てくださいとのこと).1993年からおこなわれているオルキルオトの詳細な調査に関する解説.磁気異常図(エアボーン)と,その解釈図によれば,オルキルオト周辺には北西南東の破砕帯が何本かとおっている.地表で測定された磁気異常図は,上空からの測定よりも詳細で,やはり北西南東の構造が認められた.つぎにVSP(Vertical Seismic Profile)に関する紹介.「SAMPO」と呼ばれる電磁波を用いた電気伝導度の上下方向探査によれば,500m以浅は3500Ωmと高比抵抗だが,それ以深は71Ωmとなる.これは塩水(それはクラックで連結されている)によるとのこと.実際,坑内計測データでは,450mぐらいのところに,低比抵抗帯(高塩濃度)がみつかっている.Q この手法で低比抵抗がみえているが,典型的なクラックの間隔について,制限をあたえる情報はあるか(答えは,わからないが間隔は少なくともmサイズよりは大きいと考えている).もうひとつの坑内計測手法として,22MHzの電磁波を使用するものがあり,これはある間隔をおいた送信器/受信器を用いて,反射の場所を特定するとのこと.その他,人工地震と坑内ハイドロフォンの組み合わせの話や,坑内カメラの撮影データを用いた,亀裂の走向傾斜測定の話もあった.

昼食

この日の昼食は所内食堂の特別室にて.大きなテーブルを囲んで時計まわりに出席者は,gaal, sasada, miyagi, vuorela, paulamaki, paanakenの順に着席.会食&歓談ののち,gaalさんはちょっとだけ早めに退席.この部屋の雰囲気はレストランの個室という感じである.きわめて上品な内装.料理もレストラン並み.GTK職員の「普通の食堂」も上品な感じであり,産総研の食堂はこれらの足元にも及ばない.ところでこの部屋の天井から垂れている真鍮製の電球傘は,以前どこかで見た記憶があった.フィンランド航空の中で読んだ「キートス」という雑誌に載っていた電球傘と恐らく同じものだった.その雑誌には「アルヴァ アールト」というフィンランドの有名なデザイナーの奥さん「アイノ」がデザインしたもの,とあった.

処分地周辺の形成史

昼食後,さきほどの会議室にもどった.Juha Kaija氏(地質学)が参入.時計まわりに,OHP, sasada, Miyagi, Paavo, Kaija, Paananen, Paulamakiが着席.

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13:15 Seppo Paulanaki氏がプレゼンテーション.オルキルオト処分地周辺の形成史について.エアボーンの磁気異常図を見せながら,オルキルオト 周辺の貫入関係を説明.泥質岩のミグマタイト(マイカナイス)に花崗岩が貫入しており,これらの構造をさらにダイアベースが切る.ダイアベースはアミグダル構造をもち,それは石英と炭酸塩鉱物で満たされており,熱水活動にともなうような鉱物はない.これらの地質構造は,先にのべたように,露頭が4%程度しかないので,あくまで「解釈図」という位置づけとのこと.地質構造の変形ステージは,D1-D5に分類(サブステージあり)されている.

つぎに,地表で観察される亀裂の観察結果を紹介.露頭の観察のほか,亀裂観察のためにトレンチを3個所作成した.長さ400m,幅2-3mの表土をはいだ.この露頭について,長さ1m以上の亀裂を約3600ケ観察.それらの走向傾斜,長さ,連続性,形状,亀裂種類(tight, open , filled),岩種,幅,充填鉱物,等を記録.ネット図とローズ図ではこれらの亀裂は,北東南西方向とそれに直交するものがほぼ同数あった.また,これらの中間的な走向をもつグループも,小数存在する.亀裂の平均間隔は0.7本/mぐらいである.ボーリングコア試料についても,亀裂の走向傾斜を紹介.亀裂を充填している鉱物についても触れた.充填鉱物はカルサイト-パイライト-粘度鉱物よりなり,形成年代は,Laitia rapakiviの貫入に関連したと思われる古いものと,橄欖石ダイアベースに関連したと思われる約1.0Ga(Rb-Sr)のものと,300,000年よりも若くモンモリロナイトよりなるものがあった.Q 若いものをどうやって年代測定したか(答えは,いまはわからないので,あとで連絡するとのこと).

これらGTKによる仕事はポシバ社がオーガナイズしている.一方GTKの仕事をevaluateするのはSTUK内のあるグループである.原理的にはグループにGTK職員も含まれうるが,しかし同じ研究者が推進/規制研究のをかけもつことを厳しく禁止しているので,現在のGTKの人員ではむづかしいとのこと.

ナチュラルアナログ

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13:45 Juha Kaija氏による,ナチュラルアナログの話題.この仕事はSTUKの予算による委託研究である.調査地域はフィンランド南部のPalmottuであり,ここの地下にはウラニライトUO2を70-80%も含む鉱床が存在する.この地域は約1万年前に氷河の被覆がとれ,それに伴ない地下水流動系も変化した.この研究の目的は,この鉱床から放射性物質が地下水によってどのように移動するかを理解することにある.そのために地下水流動系の理解や,岩石-水反応の理解,地下の酸化還元状態の理解,そして地下水による放射性各種の移動様式の理解が必要になる.

これまで当該地域で60-70のボーリングがほられた.地下水の採取結果,地表から地下深部にむけて,溶存塩はCa-HCO3, NaHCO3, NaSO4, NaClへと変化することがわかった.場所によっては地下水に1000ppm UO2の放射性核種が溶存している.地下水の酸化還元状態は,地下200m位までは酸化的で,それ以深は還元的である.これはその深さまで天水が侵入したためと解釈できる.この解釈は,酸素と水素の同位体データからも支持されている.CaHCO3およびNaHCO3タイプの地下水では,溶存ウラン濃度がたかかった.これらの地下水によって移動し再沈積したと思われる,二次的なウラン鉱床がある.

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ここで一時中断.月曜日の飛行機(ヘルシンキ⇔オルキルオト)のチケット代をGTKの事務がたてかえてくれているので,お金の支払ってチケットを受領した.宮城の支払い金額は305.25 Euroだが,領収書の金額欄にはペンで「kolmesataakuusi/25」と書かれてしまったため,これでは産総研の事務の方が理解できないと思い,アラビア数字でもおねがいした.


フィンランド語の数えかた
零:ノッラ
壱:ウュクシ
弐:カクシ
参:コルメ
四:ネリヤ
五:ヴィーシ
六:クーシ
七:セイッツェマン
八:カハデクサン
九:ウュフデクサン
拾:キュンメネン
拾○:○トイスタ
○拾:○キュメンタ
○百:○サタ
○千:○トゥハトウ

例 307 = kolmesataaseitsema:n コルメサターセイッツェマン

宮城が覚えたてのたどたどしいフィンランド語でミーナ オレン コルメキュメンタ クーシ ヴォティアス(わたしは36歳です)というと,事務のご夫人方は明るく笑い,いい感じになった.

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14:40 会議室に復帰.Qフィンランドの平均的な降水量はどのぐらいか(答えは,約600mm/yr.ラップランド地方ではほとんどが「雪」の形態をとる).Qその天水はどのぐらい深くまで入るのか(答えは,ボーリングでは,地下150mに氷河期の水(同位体比により結論)がパッチ状に入っていたことがある.地下250mでみつかったこともあるが,小さいポケット(すぐ置換された)だった).Q GTKが出版している「Nuclear Waste Disposal Research, Report YST-xxx」は入手できるか(答えは,レポートはあるが,フィンランド語でかかれている).Q ポシバとVTTとSTUKの役割はどうなっているのか(答えは,ポシバとVTTが実施がわで,STUKが規制がわ).Q 現在ポシバがGTKに発注している仕事は何か(答えは,オルキルオト処分候補地のモデリング.オルキルオト周辺の亀裂について).Q オルキルオトと同様の調査をロビーサについてもするのか(答えは,しない.ロビーサに処分されるのは中〜低レベル放射性廃棄物のみであり,高レベルのものはオルキルオトにあつめるから).

以上の質疑応答をもって,Kaija氏によるプレゼンテーションはおわった.

地質標本館

15:30(??) 会議のあと,GTKのミュージアムを見学させてもらった.ミュージアムはGTK本館の1階にあり,入口は厚い鉄の扉でとざされた,ひと部屋である.部屋の広さは,幅が7mぐらい,奥行きが20mぐらい.この展示の発端は,鉱物収集をしていた故○○さんのコレクションである.中にはフィンランド産の岩石/鉱物がひとおり展示されている.展示規模は産総研地質標本館の1階岩石展示室の3分の1ぐらいだが,大きな球果のはいったものや,ペグマタイトがたくさんあり,視覚的なインパクトは十分あった.また,放射性鉱物(本物!)や,自然金の塊(これはレプリカ)もあった.

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GTKの受付前にて,記念撮影.左写真は,左からパラマーキ氏,笹田氏,ヴオレラ氏.右写真は,左からパラマーキ氏,宮城,ヴオレラ氏.

GTKの立地環境

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GTK建物外観.

20030318232029ag.jpg 20030318232037ag.jpg GTKの立地環境.白樺と針葉樹の林の中にある.

帰路

16:30ごろEeroさんが車でおくってくれた.彼は親切にも我々のためにヘルシンキ市内の地図も用意してくれており,また「もし夜時間があったら市内を案内するから言ってほしい」とのこと.これまで会ったフィンランド人はみな,親切.

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車窓から.エスポーからヘルシンキにかけて.左&中は携帯電話で有名な「ノキア」のビル.これらの「ビル」をよく見ると(右の写真がわかりやすい),ビルのガラス窓の外にをぐるりと透明な板が覆っていることがわかる.ホテルに到着後,フィンランド語にまた挑戦.「ヘイ,コルメサタコルメ,ヤ,コルメサタヴィーシ」で,我々の鍵(303号室と305号室)がでて,ちょっと感動.

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午後6時49分のヘルシンキ市内.2月から3月にかけて急速に日が長くなる.※それと同期するように,フィンランド行きの航空運賃も高くなるそうです.

ホテルのIT環境

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ホテルの電話プラグ.

フィンランドはIT先進国だからひょっとするとホテルにtwisted pair 10/100などのモジュラージャック差込口があるかと期待した.しかし,待っていたのは見たこともない3口の電話端子だった.ホテルのスタッフに相談したところ,モジュラージャックへの変換器を貸してくれた.フィンランドからは電話回線とUUNETというサービスで,ネットに接続できた.ヘルシンキ市内にUUNET(NiftyServeが提携している)のAPがある.料金は,UUNETの使用料(10円/分)と,市内通話分が必要.UUNETのログイン名とパスワードはNiftyServeに準じていて,課金はNiftyServe経由(私費)でおこなわれる.

後日,もっと良い方法があることが判明した.それは「ホームラン」というワイヤレス接続サービスで,15ユーロで24時間ワイヤレスなブロードバンド環境が提供されるというもの.具体的には,ホテルのフロントでカードを購入し,スクラッチしてでてきたユーザー名とパスワードを使用して,ワイヤレスLANに接続する.ホテルの部屋には十分な強度の電波が届いていた.さすがIT先進国.もちろんワイヤレスLANのほうが,電話線よりはるかに高速&安定&快適である.たまたま,持参していたiBookには,AirMacという高速ワイヤレスLAN機能 (IEEE 802l.11b ともいうらしい)がついていたので,以後滞在中はずっとこのサービスを利用した.

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