フィンランド出張報告: 2003.03.20
- 写真・文:宮城磯治 (産総研・国際部門・国際地質協力室)※
- 出張者:笹田政克&宮城磯治
- 作成日:平成15年4月22日(火)
- 修正日:平成16年6月16日(水)
- デザイン変更:2008年2月4日月曜日
※産業技術総合研究所→活断層・火山研究部門→マグマ活動研究グループ:主任研究員
- 4日目 VTT process を訪問
目次
概要:
3月20日 木
AM/PM 見学 VTT Process (エスポーにある)
- transport of radionuclides
- hydrogeology
- safety
得られた資料
- A quadtree/octree based adaptive mesh generator for modelling groundwater flow in fractured bedrock. by Ferenc and Lo:fman, 2002, 4th International Conference on CALIBRATION AND RELIABILITY IN GROUNDWATER MODELLING.
※学会のアブストラクト(A4 2ページ)である. 2002年プラハで開催. - VTT nuclear/ R&D for safe and productive nuclear energy. by VTT, -, -.
※ VTT nuclearのパンフレット.英語. - Annual Report 2001. by VTT, 2001, -.
※VTTの年報である.35ページ.英語. - Nuclear Energy in Finland. by Energy Department. 2002, -.
※ フィンランド通産省エネルギー課によるパンフレット. 24ページ.英語.GTKでもらったものと同じ. - Safety assessment of spent fuel disposal in Ha:stholmen, Kivetty, Olkiluoto and Romuvaara TILA-99 and near-field phenomena (Posiva 99-07). by Henrik Nordman, -, -.
※ パワーポイントのハンドアウトである.25画面.英語. - TILA-99, COMPLETE SA RESULTS (Posiva 99-07). by Henrik Nordman, -, -.
※ パワーポイントのハンドアウトである.20画面.英語. - Radionuclide migration in geosphere. by Henrik Nordman, -, -.
※ パワーポイントのハンドアウトである.8画面.英語. - The Posiva/VTT approach to simplification of geosphere-transport models, and the role and assessment of conservatism. by Vieno et al., 1999, Workshop on confidence in models of radionuclide transport for site-specific assessment/ Carlsbad New Mexico 14-17 June 1999 pp119-128.
※ ワークショップのプロシーディングスである.8ページ.英語. - Radionuclide migration in crystalline rock fractures. by Pirkko Ho:ltta:, 2002, Report Series in Radiochemistry 20/2002.
※ 45ページの本文と,5つの学術論文をたばねたもので, ヘルシンキ大学でもいただいた. - Nuclear waste management in Finland/ Final report of public sector's research programme JYT 2001 (1997-2001), by Kari Rashilainen (Editor), 2002, Ministry of Trade and Industry Finland/ Studies and Reports 15/2002.
※ フィンランド通産省エネルギー課のまとめたものである. 258ページ.英語.GTKでいただいたものと同じである. - Safety analysis of disposal of spent nuclear fuel. by Timo Vieno, 1994, VTT publications 177.
※ VTTがとりまとめたもの.256ページ.英語. - VTTのwebページ
- Finnish research programme on nuclear waste management (KYT), by Kari Rasilainen, -, -.
※ Rasilainen氏によるプレゼンテーションのハンドアウト
VTTまで
9:00 GTKのEero KuronenとPaavo Vuorelaが車で我々をVTTまで連れていってくれた(感謝).
9:25 VTTに到着.VTTのセキュリティチェックは産総研同様か,それ以上.建物はすべて電子錠がかかっており,また外来者は札をつけなければならない.とはいえ塀や柵はないので敷地内に入るのは簡単だ.また,建物はヘルシンキ工科大学と一部共有されているなど,セキュリティーの強化と公共への解放が上手に使い分けられており,日本の研究機関も見習うべきところがあろう.建物の中の重要部分に入るには,さらに電子ロックと守衛を通過しなけれならない.建物内の撮影は禁止.そのため,宮城の重いカメラが無駄になった(ロッカーにあずけた).
Rasilainen氏とCarlson氏,笹田,宮城が,セミナー室(数100インチのテレビがある)に集合した.先方が切り出した最初の話題は,アメリカによるイラク攻撃のこと(君達,帰りの飛行機は大丈夫なのか?と).
廃棄物処分の概要
9:48 Rasilainen氏による,高レベル放射性廃棄物処分に関する話題.OlukiouotoとLovisaが選定された経緯,選定〜処分開始までのタイムテーブル(1983→2020)紹介.ちなみにVTTが当該研究を開始したのは1977年とのこと.2001年5月18日に「Discision in Principle」が下され,Eurajoki(Olukiouotoに一番近い町の名前)地区となった.オルキルオトの処分施設の名称は「ONKALO(略称)」である.ONKALON(末尾のNはONKALOの格変化による)の構造紹介.地下400mにメインシャフト,地下500mが高レベル放射性廃棄物の置き場.キャニスター周辺の構造を紹介.「Main actors」の紹介.政府,Posiva社,通産省,STUK,地方自治体,研究機関(VTT, GTK, 大学など)の関係を紹介.通産省が全責任をおう.STUKは規制側としての責任を負う.Posivaは推進側としての責任を負う.環境に与える影響の予測 (Environmental Impact Assessment)はPosivaが担当し,1999年にレポートが提出された.「Discision in Principle」の決定過程の仕事はSTUK(NuclearEnergy Agency)が単相し,2001年にレポートが提出された.
VTTの紹介
10:14 ひきつづきRasilainen氏による,VTTの活動紹介.VTTはGovernment owned Research Institutesである.放射性廃棄物に関する研究は1977年からおこなわれており,現在は30人年のスタッフがかかわっている.(現在は)廃棄物処分場の水文地質学的な研究がおこなわれており,実験&理論的な手法を用いて,地下水流動やのキャラクタリゼーションをおこなう.処分場の「Performance assessment」については1979年から研究がつみあげられており,VTTだけがやっている.最新のレポートは「TILA-99」である.処分場の温度環境についても研究している.放射性廃棄物の放射壊変にともなう発熱量の理論的な算出はVTT-processがおこなっている.この結果をもとに,廃棄物処分場の三次元的な構造が設計される.キャニスターや封止構造(encapsulation plant)の設計もVTTがやっている.そのほか,使用済燃料の輸送の際の安全性評価や,放射性廃棄物処分サイトの運営方針,運営コスト,マネージメントについても,VTTが研究をしている.
ニアフィールドケミストリー
10:25 Torbjo:rn Carlsson氏による,ニアフィールドケミストリーに関する研究の紹介.ニアフィールドケミストリー研究に含まれるものは,放射性廃棄物,ベントナイト,周囲の岩石,ほか,である.「Process Influence Diagram (PID)」の紹介.OHPでみせたのはごく一部で,全体は2m^2もあるような,非常にこみいったものである,とのこと.この研究の目的は,キャニスター周辺(ニアフィールド)の環境が真水→海水へ変化が以下にあたえる影響についてである(ph,eh,そしてAm,Nb,Puなどの溶解度,UO2の溶解/沈殿,ベントナイトの変質(ポアサイズの増大)).
この課題の問題のひとつは,核種の水への溶解度の信頼性が低いことである.地下水によって運ばれる放射性各種の量を推定するためには,信頼できる放射性各種の地下水への溶解度データが必要である.それなしには,どんなに緻密なコンピュータシミュレーションを行なったとしても,シミュレーション結果は説得力をもたない.溶解度データの信頼性が低い原因は,溶解度を決めるための実験データが少ないこと,実験手法上の問題点,実験の条件が現実的でないこと,その他にある.Rasilainen氏はここで,「そういうのは guesstimate だ」(測定精度不足等なら「estimate」と言えるけど)とコメントした.だから,実験データを新たに生産する必要がある(これが実験の意義づけ).
彼(carlsson)の実験は,MX-80というベントナイトを使用し,これをPEEK(プラスチックの一種で強度があり化学的不活性)製の容器に入れ(金属は使用不可),圧力を2-3MPa(swelling pressureから推定)かけ,定期的にEh, pH, Cl濃度を測定するというもの.塩水に漬けるlong-term(2001年〜2011年)実験のケースでは,9ヶ月の時点で1mmのコロージョンがおきたという.電極はAgCl, Au.2フェーズにわけた実験も紹介.1段階目には0.1M NaClに2〜3ヶ月ひたす.2段階目はその他の溶液に3〜12ヶ月ひたすという.
11:00 彼の実験室をみせてもらう.PEEKの実物をみせてもらう.灰色で,堅く丈夫そうな塊だった.
地下水流動シミュレーション
11:15 Lasse Koskinen氏が,コンピュータシミュレーションを用いた地下水流の解析に関する研究を紹介.使用コードはFEFTRAというもの.母岩のモデルには,破砕帯の位置や,水柱頭などを入力.これを有限要素法で解いてゆく.EC model→実際の破砕は非常に複雑な形状をしているので,空間的に平均化する.DP(dual porosity) model→両端の開いた「水が流れる」亀裂と,一端の閉じた「水が流れない」亀裂をかんがえる.オルキルオト地域の破砕帯分布と,水頭の分布をみせた.Qコードは入手できるか,言語は何か(答えは,入手できるかよくわからないがhogehoge.vtt.fi/ene/ye/feftraにあるかもしれない.言語はたぶんFORTRAN).境界条件は,より大きな(粗い)スケールの結果を,より小さな(詳細な)スケールの境界条件に与えた.さらに大きなスケール境界条件は,なるべく現実的になるように,仮定した.計算によって得られた,オルキルオトのsalinityの変化を示した.また,Espo(スエーデン)について行なった同様の計算結果を示した.講義のあと,コンピューターのある居室にゆき,色々な結果をみせてもらった.
我々に様々な計算結果(画像)を表示しするために使用されたコンピューターはシリコングラフィックス製で,UNIX系のOSが稼働しており,ウィンドウマネージャーはMotifと思われる.画像の表示に使用されたソフトはxvと,GMTファイル用のビューワー(?)らしきものだった.フィンランドではリナックスを産んだ国である.リナックスマシンを多数見ることを期待していたが,我々が訪問したすべての研究機関をつうじてただの一度も,それらしきマシンをみかけることはなかった.
昼食
--昼食にでかける.銅板の外壁をもつレストランまで歩いてゆく.非常に空気が冷たく,喉がいたかった.
昼食後,VTT敷地内で撮影.
パフォーマンスアセスメント
13:40 Henrik Nordman氏による,Performance assessmentに関する研究.亀裂(幅W,厚み2b,長さl)の中を放射性物質のとけこんだ水が流れた際に,出口の水の放射線元素の含有量と被曝量がどうなるかを,色々な条件(亀裂の幅,長さ,壁の状態,亀裂を流れる水の速さ)について計算.TILA-99(前出)のモデルを使用した.near fieldのモデルはREPCOM (Nordman and Vieno 1994).もしもキャニスターがひとつ損壊したら,どのような放射性元素が出口にあらわれるか.結果は,C,Cl, Se, Sr, Tcの順で減少(CがClの5倍多く,あとはちょびちょび).基本的には,一番最初に地表にでてくる核種が,一番放射線を出すことになるとのこと.考えられているシナリオとして,氷河のとけた直後の地下水系が変動した場合など,条件を与えていた.
この研究はパフォーマンスアセスメント(処分場が,期待した通りの機能を果たすかどうかの考察)である.したがって極端な場合についても計算している.たとえば,もしもうめた直後に全ての容器が破壊されたとすると,ある条件のもとでは,出口の放射能は環境基準限度ぎりぎりにまで上昇することになる.流量が時間変化する場合についても考察している.たとえば,地下水の流れが一定でなく,ゆっくりと流れたあとに,急にはやくなった場合には,たまった分がスパイク状に多くでてくる.それ以外では,十分低いレベル(宮城には直感的には意外だった).Nordman氏は,この手法の弱点について(実際の岩石中の亀裂の幅,長さ,形状,数,配置を正確に知ることは不可能なので,仮定せざるをえないこと)も,隠すことなく教えてくれた.これらの未知数をどう扱うか考えることも,研究課題のなかに含まれている.
パブリックリサーチプログラム
14:44 Kari RasilainenによるPublic research programに関する研究紹介.この話題でのactorは,KVT, STUK, Posiva).Finnish Resesarch Program(for) Nuclear Waste (KYT)が2002年4月2日からスタートし,2005年までつづく.予算規模は1ミリオンユーロ/年.スポーンサーは,KVT (Min.Trad. Indust),STUK, Posiva(15mil. Euro/Yr),Fortum, TVO (TedliSueeden Voima), Tekes(Nat. Tec. Agency).KYTのchairmanはAnneVa:a:ta:inenという人.
日本の紹介
15:10 笹田氏による,日本の紹介.AISTの紹介,その予算.GSJの紹介,各部門の研究紹介.日本の発電の内訳.核燃料サイクル.処分場のコンセプト.NUMO,METIの説明.処分場選択基準.NUMO,ANRE,NISA,GSJ,DGERCの関係を紹介.
総合討論
15:45 ディスカッション.フィンランドは放射性廃棄物のretrivialの可能性を残したという.地下のことは完全にはわかっていないので,この場所への処分が100%安全だとはいいきれない.だから,いざという時は廃棄物をほり出して移動できるようにしておくという.その方法の詳細は聞かなかったが,帰国後に調べたところ,ポシバ社のページ(http://www.posiva.fi/englanti/loppusijoitus/palautus.html)にその概要をみつけた.olkiluoto, lovisaの関係について言及.両者は処分地になることを自ら望んで,競合したほど.フィンランドでは原子力の反対デモはおきなかった(寒くて,とてもやってられないからね,とジョーク).
帰路
GTKのEero Kronen氏が我々を迎えにきてくれた.そればかりか,今日はホテルに直行せずに,ヘルシンキの観光スポットに寄ってあげるという(感謝).言葉に甘えることにした.
ヘルシンキ南港にて.バイキングラインが見える.
港をのぞむ位置にある役所(県庁 or 市役所? どれだったか失念).
元老院広場(Senaatintori)にて,大聖堂(Tuomiokirokko)をバックに記念撮影.
17:05 ホテル着.
洗浄器 ※おまけ
洗浄器
昨日,やっとこれを使った.ヘルシンキ大学の男子トイレでこれと同じものをみかけた際,これがが何であるか確信できた.これは洋式トイレのすぐ近傍に設置してあり,手洗い用の蛇口と配管を共有している(左).手洗いの水を出し(中),かつ,洗浄器のノブを押したときのみ,洗浄器から水が出る(右).温度は,手洗いの蛇口で調節する.使ってみると非常に快適であった.