ロボットによるスピニング加工

本研究では,スピニング加工に力フィードバック制御などのロボット制御技術の適用を試みる.それにより加工のフレキシブル化・インテリジェント化をはかり,ロボット制御技術の新たな応用分野開拓を目指す.

スピニング加工

 スピニング加工とは,回転する成形型(マンドレル)に板状や管状の素材(ブランク)を加工ローラやへらで押し付けて成形する塑性加工の一手法である.金属を材料とするシェル状の製品の成形加工法として,家庭用容器,装飾工芸品,照明器具,通信(パラボラアンテナなど),ボイラ,タンク,ノズル,エンジン部品,タイヤホイールなどの部品・製品の製造に広く用いられている.この加工法は熟練作業者による高度なものづくりの技能としても近年注目され,例えばH2ロケットの先端カバーなどがこうした手作業(へら絞り)によって製作されたことが広く知られている.


スピニング加工

 スピニング加工の特長として,
  a. プレス成形と比べ複雑な形状の製品が成形可能.
  b. 成形型が1個のみのため加工の準備が容易.
  c. 加工力が小さいため設備がコンパクト.
  d. 切削加工などと比べ材料が節減できる.
  e. 加工精度が高く,製品の表面性状も良好.
などが挙げられる.すなわち,ラピッドプロトタイピング(b.)やネットシェイプ(d.)といった加工技術における最近の動向と合致する.また,塑性加工において近年注目を集めている逐次成形法(インクリメンタルフォーミング)の一種として位置づけることもできる.

 しかし,その自動化に関しては塑性加工分野の中でも遅れが目立つ.比較的簡単な形状の製品についてはNC自動機(スピニングマシン)による量産化が実現しているが,その教示作業は現在でも熟練作業者の技能に強く依存する.その研究についても他の加工法と比較してかなり停滞しており,国内外ともに大学・研究機関では研究者層が薄い.これは変形機構が三次元的で非常に複雑なためFEMシミュレーション等で十分扱えないこと,制御パラメータが多く機器開発を要することなどが原因と思われる.したがって変形原理も未解明の点が多く,特に絞りスピニングと呼ばれる手法では加工手順も理論的には確立していない.そのため実際の加工では熟練作業者の経験に頼っているのが実状である.

ロボットと製造業

 一方で,ロボット研究分野においては,大学・研究機関の研究者の非製造業分野への進出志向により,製造業における産業応用の研究には一種の空洞化が生じているという現状がある.そのために産業用ロボットの用途はハンドリング・組立・溶接・塗装など旧来のレパートリーからそれほど広がっていない.こうした用途にのみ目が向けられるために,産業用ロボットは既に成熟した古い技術であるとの見方さえある.

 現在の産業用ロボットは,主に熟練を要しないライン作業者の代替に相当する,付加価値の低い単純繰り返し作業に用いられ,高速化による量産能力と低価格化によりようやく採算性を維持している.しかし,製造業における別の生産形態として,経験を積んだ熟練作業者にしかできない,少量でも付加価値が非常に高いものづくりが様々な現場で行われている.こうした分野に,もっぱらアカデミックなロボット研究として蓄積された感覚フィードバック制御などの技術を活用して進出し,高機能のロボットでも採算の取れる高付加価値の応用作業を実現することができれば,ロボット技術の新たなマーケットが大きく開ける可能性がある.

ロボット技術によるスピニング加工

 ロボット工学においてはロボットアームの力制御が長年にわたり研究され,位置/力ハイブリッド制御・インピーダンス制御などに関する多くの理論的・技術的な蓄積を有する.しかし,ロボット研究者の製造業離れとも相まって,実用化されているのは組立・研削などわずかな種類の作業にすぎず,付加価値性の高い有効な応用については未だに模索の状態にある.

 手作業によるスピニング加工では作業者の感覚,特にローラを介して伝わる力の感覚が重要な役割を果たすと言われている.またスピニング加工は局所変形による加工のため,他の塑性加工と比べて加工力がはるかに小さい.制御パラメータが多く加工の自由度が高い点でもロボットに適した作業である.手作業による生産が製造業として成立していることからもわかるように,多品種少量生産かつ高付加価値の加工法であり,力制御ロボットの採算性は高い.

 そこで,本研究ではスピニング加工に力制御などのロボット制御技術を導入することにより,加工のフレキシブル化・インテリジェント化をはかる.具体的には加工状態のフィードバックに基づき実時間で加工条件を調整することにより,欠陥の発生を未然に防ぎ,熟練作業者に匹敵する高品質の製品の成形を目指す.またロボット特有の多自由度性を活用して,従来の自動機では実現できなかった複雑な形状の製品の成形を試みる.従来のロボットの作業が「ものを運ぶ」ことを主体としているのに対し,本研究では「ものを変形する」という新たな要素が要求される.したがって,これまでのロボット技術の蓄積を利用しつつも,挑戦的な研究課題の展開が期待できる.


実験装置


加工実験の様子

ビデオ(4.38MB)

資料

発展テーマ

  力制御を用いたスピニング加工
  ・スピニング加工に位置/力ハイブリッド制御を導入

  非軸対称形状のスピニング加工
  ・力制御で非軸対称形状を成形

  リニアモータを用いた力制御スピニング加工機
  ・リニアモータ駆動で異形形状成形を高速化

  リニアモータ駆動の実用機プロトタイプ
  ・プロトタイプを企業と共同開発


論文等 (和文)  (英文)


リンク

 スピニング加工・へら絞り リンク集


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