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大木研究室
第41回

バルク選別の不確実性 ①

 

~不確実性をもたらす要因のおさらい~

不確実性をもたらす要因のおさらい

これまで、バルク選別装置を、対象物に合わせて最適条件で運転することの難しさを述べてきた。今回は、過去のコラムを振り返りながら、今一度、バルク選別装置が持つ根本的な課題について、まとめておさらいしたいと思う。

物理選別は1つずつ様相の異なる粒子を選り分ける操作のため、均一な系を扱うことが多い化学プロセスと異なり、選別の度に異なる各種の条件を網羅的に把握することが難しい。「単体分離」、「場のムラ」、「外形のバラつき」などの情報を十分に得ることが困難であるために、選別装置がブラックボックス化してしまい、実験してみないと結果が分からないという「バルク選別の不確実性」を生み出す。対象の粒子群は全く同一のものは存在しないから、完全に同一の条件下で結果を再現することもできない。仮に同じ試験試料を繰り返し用いても、選別機内での粒子運動のバラつきから、結果は完全には同じにはならない。このことから、第4回で述べたように、リサイクルや鉱山の選別においては、長きにわたり、実験によるインプット情報とアウトプット情報の関係から、起きていることの推定(想像)を行ってきた。しかし、細かな矛盾や再現性の乏しさは、選別試料の不均一性から止むを得ないと解釈されるため、いくら検討事例が増えてもブラックボックスの核心を捉えられぬまま今日に至っている。

物性差が大きい粒子など、理論上は分離効率100%の到達が可能な選別において、分離効率の低下をもたらす「バルク選別の不確実性」の主な要因を図6.1.1にまとめた。第12回第22回で述べたように、まず、① 単体分離していなければ、選別装置の精度に関わらず高度な選別は成し得ない。また、これまであまり述べてこなかったが、単体分離していたとしても、② 選別装置内で異種粒子が凝集(ヘテロ凝集という)していると、片刃粒子を選別しているのと同じことになってしまう。細粒の乾式選別は粒子の飛散や凝集が起きやすいため、そもそも実施しないことが多いが、細粒の湿式選別においても、粒子がヘテロ凝集せずに分散状態にあるかを容易に確かめる術がないため、不確実性の要素となる。一方、仮に破砕工程で単体分離を成し得て、選別装置内でヘテロ凝集が起きない状態であっても、③ 第4回で述べたように、選別装置内の粒子は確率的な運動をする場合が多く、確率を支配する因子を全て把握しきれないため、単純な系ですら粒子運動を厳密に予測することはできない。例えば、全てが同サイズの球形粒子であっても、選別装置内に存在する「場のムラ」のため完全な選別は困難であることが多く、全粒子の厳密な運動を計算で求めることもできない。④ さらに、その影響を助長しているのが粒子の「外形のバラつき」である。第28回では、素材種と直接関係のない「外形のバラつき」が粒子運動に影響を及ぼすことを述べた。バラつきが大きい場合、この影響とは、選別基準物性での選別精度を低下させることが多い。つまり、球形の同サイズ粒子であっても、「場のムラ」のため必ずしも分離効率100%とはならないが、さらに「外形のバラつき」により、予測し得ない分離効率の低下が起きる。加えて、⑤ 選別装置内での粒子の「滞留時間」も、計算による選別結果予測を困難にする。装置の機構によって事情が異なるが、第30回で述べたように、端的に言えば、無限大の時間を掛ければいつかは「場の秩序」に従った粒子の移動が完了するが、多くの選別機では、粒子の移動が完了する前に不完全な状態(非定常段階)で選別が終了してしまう。つまり、設定された粒子の滞留時間が非定常のどの段階なのかによって、得られる分離効率が変わってしまう。

図6.1.1 バルク選別に不確実性をもたらす主な要素

このうち、「単体分離」と「外形のバラつき」は粒子自体の性質であるから、選別装置に投入する前に対処しなければならない。「ヘテロ凝集」については、選別装置自体の機械的な問題ではないものの、選別環境に依存する因子であり、選別装置内で配慮すべき課題である。「場のムラ」については、筆者は過去に、断面風速を均一にした気流選別機や、マトリックスの磁気力(BΔB)を均一にした高勾配磁選機を開発しているが、このような思想で装置を開発している例はあまり見られない。装置原理の弱点を見出して改良する必要があり、容易に成し得ることが難しいため、通常は、既存装置の「場のムラ」を受け入れるしかない。「滞留時間」は、現場においても、精度と処理量の関係からおよその最適化は図られているかと思う。しかし、結果として得られる選別速度を語ることはあっても、選別速度に基づく選別の不完全さを事前に定量的に把握して、分離効率を予測する例はほとんど見られない。①~⑤の要因は、対象物や装置によって異なる個別事象であるため、状況によってはほとんど影響しない因子も存在する。まずは、バルク選別には、このような不確実性が伴うことを理解し、全てを改善できないにせよ、どこに改善の余地があるかという視点で検討することが重要となる。

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