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大木研究室
第22回

単体分離と選別結果の関係 ⑤

 

~都市鉱山特有の解決法~

都市鉱山特有の解決法

これまで述べてきた理屈は、天然鉱山における選鉱学の考え方を発展させたものである。天然鉱山は、人間の資源利用の都合に合わせてできている訳でないから、対象物の状態や物性を分析し、これに物理選別工程を適合させて最適化していくことが必要である。リサイクルにおいても、素材の再生利用を想定していない製品に対して、消費後の状態や物性に応じて物理選別工程を適合させる点では、天然鉱山と類似している。

一方で、消費者が廃棄時に行う、いわゆる「分別」については、メーカが一定の配慮を行っているケースもある。例えば、ペットボトルのラベルを剥がすという行為は、リサイクル工場入荷前に、消費者が行う単体分離および選別作業という見方もできる。ペットボトルとラベルが一体化した状態は「片刃粒子」であり、ラベルを剥がす行為は「単体分離」、ペットボトルとラベルを別の袋に仕分ける操作は「選別」と見なせる。これに対してメーカは、ミシン目を入れたり、剥がし始めるポイントを作ったりして、ラベルを剥がしやすく(単体分離しやすく)する工夫をしている。第16回において、「破砕による単体分離の促進は、集合体としての不均一性を犠牲にしながら、個別粒子の不均一化を達成させる操作」と説明した。これは、天然鉱山のように、対象物全体を粉砕(破砕)することでしか単体分離を成し得ることができず、かつ、理想的な選択粉砕を達成することが容易でないという状況を想定したものである。一方で、ペットボトルのラベルを単体分離させるのに、やみくもにボトルごと粉砕する人はいないであろう。これは自然界には存在しない、単体分離を促す特異的な物性を人工的に作っているためである。

実は、このように意図して作りこんだ構造でなくとも、人工物である製品や部品は、自然界には存在しない特異な物性を有しており、これを利用することで単体分離や選別を有利に実施できることがある。天然鉱山の場合、図3.1.6のAのように、回収したい鉱物は、通常、周囲を他の鉱物で囲まれ、3次元的に閉じ込められた状態にある。したがって、単体分離させるには、閉じ込められた状態の鉱物を解放してあげる必要がある。片刃粒子(Locked)を単体分離させることを英語でLiberationというのは、このような状況からつけられたものと推定される。一方、例えば、プリント基板上に実装された電子素子は、図3.1.6のBのように、基板と一面しか接触していない。場合によってはリード線を介して点でしか繋がっていないこともある。 接触していない面は、初めから解放されているので、全体を破壊せずとも、「剥がす」という行為で単体分離できる可能性が高い。つまり、接合面だけを解放すればよいので、全体のサイズを小さくする必然性がない。このため、天然鉱山では考えられない、基板や各部品のサイズのまま単体分離するということも理論上可能である。実際、このような破壊機構を実現する破砕機が幾つか見出されている。

図3.1.6 都市鉱山における片刃粒子の特異性

しかしながら、人工物が有している単体分離や選別に有利な特異物性は、製品や部品の数だけ存在するため、これを網羅的に把握することは難しい。このような特異物性は、意図して作られたものでないため、製品や部品の設計者ですら、リサイクルする上で有利な特性に気付いていないことがほとんどである。また、このような設計をメーカが意図的に仕込んだとしても、消費者が手作業で行う場合と異なり、リサイクル工場の機械がその物性の利用に対応しているとは限らない。さらに、多くの製品は混在して回収されるため、現状、この特異物性を利用できるケースは限定されるであろう。リサイクル工場における物理選別などをし易くする製品設計を、筆者らは「資源配慮設計(DfR)」と呼んでいるが、その導入には、それを利用するための装置と対に考えていくことが肝要である。将来、このような設計思想が確立し、多くの製品や部品に導入されれば、都市鉱山が、天然鉱山と比べても生産性に優れた資源となることが期待できる。

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