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大木研究室
第28回

選別装置の選択 ⑥

 

~集合選別のための粒子キャラクタリゼーション~

集合選別のための粒子キャラクタリゼーション

前回、筆者が開発した計算ソフトウエア「AESS」について触れた。AESSは種類やサイズによって360分類した電子素子を、最大10機の集合選別機を連ねた選別プロセスに投入した時、各選別機の運転条件や回収する電子素子に応じ、網羅的に選別結果を推定するソフトウエアである。算出パターンは35恒河沙通り(3.5×10⁵⁴)に及び、計算された結果は実現し得る選別の理論限界と言える。導出された通りに選別機を運転すれば、実際にほぼ計算通りの選別を行えることが実証されている。AESSでの計算を可能とするにはいくつかの制約があるため、現在は電子素子にしか適用できないが、考え方の基本は他の粒子でも同じであり、将来はこれらに対しても拡張できるようにする予定である。

集合選別機を、冷蔵庫やエアコンのように電源を入れれば最適に機能する装置と勘違いしている方も多くみられる。筆者の感覚では、むしろ、バットやラケットのような存在であり、使い手によってその性能は如何様にも変わる。選別機の選択やその運転条件、粒子の状態により、選択肢は天文学的なパターン数が存在する。選別が容易な場合は、適当に選別しても目的が果たせるが、次世代の資源循環に向け、より難易度の高い対象物を高純度に回収する場合には、やみくもに選別試験をしても目的を達成できる見込みは低い。前回も述べたように、筆者が未知の粒子群を選別する前には、必ず、粒子のキャラクタリゼーションを実施する。その目的の半分は単体分離の状態を知ることであるが、一定の条件が整えば、AESSに準じた選別の詳細計算も可能である。このコラムでその全てを説明することはできないが、粒子性質に関連した推考の入り口となる考え方だけを紹介する。

前回の図の上段に説明を加えたものを図4.1.6に示す。「利用する粒子性質」の最上段を見ていただきたい。粒子の「外形」は、選別目的の金属・材料種とは、普遍的な因果関係が存在しない。単体分離などと同様に、対象物や粉砕条件によって決まる後天的な粒子性質である。そこで注目するのは、対象物に含まれる金属・材料種にサイズ依存性があるか?という点である。本来、ふるい分けは、高度な選別を行うための前処理に過ぎないが、1次粒子の特徴や粉砕の選択性などによって、特定の金属・材料種が特定の粒群に固まっているなどサイズ依存性が認められれば、適切なサイズ分けにより、この段階で1次濃縮が可能である。また、サイズ依存性がなくとも、特定の金属・材料種だけ特徴的な形状をしていれば、形状選別できる可能性がある。ただし、針状や球形など特異な形状を除き、精度良く形状選別できる装置が存在しないため、これが利用できるケースはあまりない。また、「外形」に基づく選別はサイズが大きいほど期待できるが、数10μmより小さい場合には、これによる1次濃縮効果は限定的となる。

図4.1.6 集合選別で利用する粒子性質の特徴

「バルク物性」は金属・材料種に固有の性質である。単体分離していたならば、これらのうち、最も違いが大きな物性を選択する。密度(比重)については、その違いで多段階に選別できることもあるが、磁性については磁性体/非磁性体、導電性については導体/不導体と、極端に性質の違うもの同士を選別するのが一般である。筆者は磁性体同士を磁化率差で選別する「弱磁力磁選機」という装置を開発したが、このような目的の装置開発はほとんど進んでいない。また、いずれの物性を利用する場合でも、粒子運動は「外形」に影響を受けるため、「外形」がなるべく同じであることが望ましい。ただし、どの範囲まで許容できるかを精度よく分析・算出する方法が存在しない。非常に単純な問題ではあるが、「外形」が集合選別の精度に及ぼす影響については未解明な点が多く、今後の研究が待たれるところである。

「表面性質」も、本来、金属・材料種に固有の性質であるが、バルク物性と違い、汚れや選別環境によって容易に変化してしまう。個々の粒子の表面性質をその場観察することも難しいため、選別環境の制御はもとより、選別機に供給するまでの工程の厳密な管理が求められることが多い。限定された対象物に対して、同じように管理し、選別できる場合には利用可能であるが、それが困難な場合には、安定した選別結果が得られ難い。古紙の脱インクのように、比較的選別が容易な場合には実用的な利用例もあるが、「外形」や「バルク物性」を利用した選別に比べると万能な(運転管理が容易な)選別法とは言えず、リサイクルでの利用に際しては、慎重を期す必要がある。

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