第4回
辻褄合わせの概念と真理 ②
~ブラックボックス化がもたらす弊害~
ブラックボックス化がもたらす弊害
物理選別プロセスの各工程においては、様々な曖昧さが存在する。各装置は相応の秩序や原理に基づいて理解されているが、非現実的な条件下における単一粒子の挙動や、それに基づく推定に留まるものが多く、本当はどうなっているかわからないことが多い。体系的な理論化がなされていないため、演算によって結果を予測することはできず、一例ずつ実験的に因果関係を求め、経験則の積み増しを繰り返している。例えば、選別工程おける比重選別機や磁選機などの選別機を例にしてみる。細かく見れば例外も存在するが、ここでは問題の本質を分かりやすくするため、関係性を単純化して説明する。
図1.1.2は、粉砕されサイズが揃えられた粒子群を、選別機に投入し、選別産物を回収する状況を示している。研究室にて、とある粒子群(整粒後の粉砕産物)が、どの程度選別できるかを実験する状況と考えていただきたい。実験の実施者は、選別機の装置構造や原理くらいは理解していたとしても、選別機内で各粒子がどのように運動し、どのように選別されるかを計算によって求めることはできない。つまり、選別機がブラックボックス化しており、実験してみないと何が起きるかを予測することができないのである。これは、比重選別機、磁選機などと称される選別機であっても、装置(機種)毎の選別機構によって、粒子に作用する力の種類や、境界条件となる力のバランスが異なるためである。選別機内で粒子は確率的な運動をする装置が多く、確率を支配する因子を全て網羅しきれないために、球形・単一素材のモデル粒子といった非現実的な理想系ですら、粒子運動を厳密に予測することはできない。さらに試料情報についても、ふるい分けや分析装置で得られた試料の粒度分布や、XRFやICP等で分析した元素の組成情報などだけでは、選別結果の予測には全く不十分である。仮に、選別理論が完璧に備わっていたとしても、粉砕された実際の粒子群に対して、選別結果を予測するのに十分な粒子物性を分析する方法は、未だ確立されていない。したがって、現状では、選別実験を行い、試料や選別の条件と選別結果との因果関係から、その状態に限定した選別の傾向を掴むことしかできない。ブラックボックスのインプット情報とアプトプット情報、すなわち、目に見える観察結果が得られる情報の全てであるため、実験結果が理論に照らし合わせて正しいといえるかどうかを知る術がない。
図1.1.2 ブラックボックス化がもたらす弊害
このような状況下でまとめられた研究成果は、基本的には事例集となる。各事例に対する結果を考察する際にも、結果を裏付ける根拠情報がほとんどないため、ブラックボックス内で起きていることを推定(想像)するに留まる。これには、過去の論文で書かれた通説(そのように考えても大きな矛盾はないという理由)があてがわれることが多い。しかも、対象の粒子群は全く同一のものは存在せず、選別条件との組み合わせも無数にあるため、完全に同一の条件下で結果を再現することができない。観察結果との細かな矛盾や再現性の乏しさは、選別試料の不均一性・多様性(不確実性)から黙認も止むを得ないと解釈されるため、いくら事例が増えてもブラックボックスの核心を捉えることができず、選別技術の根本的な向上に繋がらないことが多いのである。