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大木研究室
第5回

辻褄合わせの概念と真理 ③

 

~通説は本当に正しいのか~

通説は本当に正しいのか

他の学問も同じと思うが、選鉱学においては、「AとBの関係はC」「CならばDと言える」「DならばEに展開できる…」と発展してきた。しかし、他の学問と異なるのは、DやEを立証する術が乏しいことである。筆者は、20世紀中頃までに築かれた「C」という通説がそもそも正しいのかという点に疑問を抱いている。多くは、実際の装置内で起きている複雑な現象を、単純な理想系での実験結果から想像した仮説である。これに大きな矛盾がないと、仮説はいつしか通説になる。通説は、教科書に書かれると「理論」という普遍的事実として普及する。それを大学で学んだ後は、実験結果は常に試料の不確実性を伴うので、理論と結果の不一致に疑問を持たなくなる。むしろ、この「理論」が正しいことを前提に、更に細かな条件を付け足し、より厳密に支持しようとする研究が増える。しかし、教科書の「理論」にもし間違いがあれば、その上に積み重ねた理屈はすべて 虚像ということにもなりかねない。

些か皮肉めいた言い方になるが、筆者は、この選鉱学と似た構造の学問を見たことがある(図1.1.3)。およそ1800年前に提唱されたプトレマイオスの天文学、いわゆる天動説である。人類が地上から星を見る限り、天球の星が回転運動していると解釈するのは、極めて妥当である。また、地球が高速で運動しているとは、普通考えにくい。このような観測結果に基づけば、地球を中心にして天体が回転しているという構造にたどりつき、細かな点を除けばほとんど矛盾しない。惑星の運動に関する矛盾は、恒星より回転が遅いのが原因、あるいは、火星の運動は円軌道ではないなどの理由で解決してしまう。つまり、実際にはブラックボックスであっても、先人達の通説に基づき、あらかじめ用意された考察をあてがうことで、一見、辻褄が合ってしまう。人類がこの通説はおかしいと気づくのは、16世紀のコペルニクスが地動説を唱えるまで、実に1300年以上の歳月を要した。ガリレオがそれを証明するのは17世紀。ローマ法王がガリレオの地動説を初めて認め、彼に謝罪したのは2009年のことである。

図1.1.3  選鉱学の理論は古典的宇宙観と類似してないか

幸い、選鉱学に宗教的なかかわりはないが、一度、通説になったことを覆すのは容易ではない。筆者の経験で言えば、欧米で構築された旧来の選鉱学に関して、根本的な間違いを指摘した論文が、欧米の専門誌に採択されることは難しく、査読すらしてもらえない例が少なくない。逆に言えば、本誌の着想に新たな真実が潜在するならば、フラットな視点から、世界に先駆けて「真・物理選別学」を実践できるものと期待している。

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