足元の化学

last update 2005.05.10

産業技術総合研究所
地質調査総合センター
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第4回:川砂の元素濃度は何に支配されているのか

4.1. 元素濃度に大きな影響を与える要因:

川の砂の元素濃度に大きな影響を与える物として次のような物が主に考えられます。

地質(地表に分布する岩石) 川の砂を生み出す元。風化作用(岩石が細かくなったり、別の物質になったりすること)によって、岩石から川砂が生み出されます。
植物 私たちの測定対象としている元素を多く含むことは少ないのですが、炭素、窒素などの元素の主な支配要因です。
温泉・鉱泉 温泉は温度が高く、地下の岩石と反応してたくさんの元素を溶かし込んでいます。湯ノ花は温度が下がって溶けきれなくなった物質が沈殿した物です。
鉱床(鉱山) 亜鉛や鉛といった重金属元素を多く含みます。鉱石として、または鉱石から元素が溶け出したもの川砂に吸着(砂に吸い付けられる作用)・沈殿します。
人為汚染 1.水からの汚染。工場・生活排水などから水に溶けて放出された物質が川砂に吸着(砂に吸い付けられる作用)・沈殿します。
2.気体からの汚染。煤煙や車の排気ガスなどから放出された物質が川砂に紛れ込みます。
3.固体からの汚染。廃棄物(ゴミ)などとして川砂に紛れ込みます。

温泉・鉱泉、鉱床(鉱山)が自然の要因と人為的汚染の両方に入っているのは、例えば、温泉は自然に噴き出している物もありますが、人の手によって、掘り出されている物がほとんどです。また、鉱山も鉱石は地球活動によってその場所に元々存在しますが、人が掘り返すことによって川砂への重金属元素の影響は大きくなったりするからです。

では次に主に地球化学図の測定対象にしている元素について、それぞれどのような要因があるか見ていきましょう。

4.2. 地質(岩石)が元素濃度に及ぼす影響:

地表の元素濃度を支配する一番大きな要因が地質、すなわち地表(地表近く)に現れた岩石です。 もう少し正確に言うと、下の模式図のように、岩石を構成している鉱物や岩片が川砂の元素濃度を支配しています。つまり、岩石が風雨にさらされて、ぼろぼろになって細かな砂(岩片や鉱物)や泥(細かい鉱物や粘土鉱物)になっていき、これが川へ運ばれて川砂となり、最後は海まで流されていきます。

地球上には実にたくさんの種類の岩石が見られますが、ここでは日本によく見られる代表的な岩石と元素濃度の関係を説明していきましょう。実際には狭い地域にいろいろな種類の岩石が入り乱れるので、地球化学図の解釈は大変なのです。

岩石の種類

多く含まれる元素

1.堆積岩(礫、砂、泥などが固まってできた岩石)

礫岩、砂岩(岩や砂がかたまってできた岩石) 岩や砂を生み出す元となった岩石の種類によって異なる
泥岩(粘土が固まったてできた岩石) Li, Be, K, Rb, Cs, Tl など
石灰岩(珊瑚などが固まってできた岩石) Ca, Sr など
チャート(ほとんどシリカからできた堅い岩石) Si

2.火山岩(噴火活動によってできた岩石)

流紋岩・デイサイト(雲仙普賢岳などの様な派手な噴火活動をする火山に見られる岩石) Li, Be, Na, K, As, Rb, Y, Zr, Sn, Sb, Cs, Ba, REE(希土類元素), Hf, Tl, Pb, Th, U など
安山岩・玄武岩(富士山や三宅島などのどろどろした溶岩を噴出する火山に見られる岩石) Mg, Al, P, Ca, Sc, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Sr など

3.深成岩(地下深くでマグマが固まってできた岩石)

花崗岩(墓石などによく使われます) Li, Be, Na, K, As, Rb, Y, Zr, Sn, Sb, Cs, Ba, REE(希土類元素), Hf, Tl, Pb, Th, U など
閃緑岩(石材としてよく使われます) Mg, Al, P, Ca, Sc, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Srなど
超塩基性岩(マントルが陸地に乗り上げたもの) Mg, Cr, Co, Ni など

4.変成岩(地下深くで高い温度や強い圧力を受けて変質したり変形してしまった岩石)

広域変成岩(プレート運動の結果、高い温度や強い圧力をうけてできた岩石) 元となった岩石の種類によって異なる
接触変成岩(近くに入り込んできたマグマの熱に焼かれた岩石) 元となった岩石の種類によって異なる

 

4.3. 鉱床が元素濃度に及ぼす影響:

次に鉱床が大きな原因の場合について見ていきましょう。日本は大陸地域の国々と異なり、大規模な鉱床がほとんどありません。また、日本は地形が非常に険しいので、いつも大量の川砂が川に供給されます。そのため、鉱床が分布する地域に銅や亜鉛などの元素が高濃度検出されても、そのすぐ下流では、鉱床がない地域から大量の川砂が運び込まれるので、あっという間に濃度が下がってしまいます。地球化学図で鉱床の影響を見いだすのは思ったよりも大変です。

さて、鉱床の種類によって、どの元素が多いかは異なりますが、大きく分けて

鉱床の種類

多く含まれる元素

正マグマ鉱床
(マグマが冷えて固まるときにできる鉱床)
超塩基性岩(マグネシウムやクロムが非常に多い地下深く(マントル)でできた岩石) Cr, Ni, Pt(白金)
ペグマタイト(花崗岩の仲間で大きな鉱物の結晶がみられます) Li, Be, Rb, Nb, Mo, Sn, Cs, W, REE(希土類元素), Ta, Th, U
熱水鉱床
(熱水から重金属元素が硫化物として沈殿してできた鉱床)
鉱脈鉱床(熱水が岩石の割れ目に入って冷えて固まってできたもの) Mn, Fe, Cu, Zn, As, Mo, Ag, Cd, Sn, Sb, W, Au, Hg, Pb, Bi
塊状鉱床(海の中の熱水活動によってできたもの) Cu, Zn, Cd, Ba, Pb
スカルン鉱床(熱水が石灰岩に触れて反応してできたもの) Fe, Cu, Zn, As, Mo, Cd, Sn, Sb, W, Pb, Bi
堆積鉱床
(岩石が風化する(岩石が次第にぼろぼろになること)過程でできる鉱床)
堆積性鉱床 Si, Cr, Ti, Mn, Fe, Cu, Zn, Zr, Sn, REE(希土類元素), Hf, W, Pt(白金), Au, Th, U
風化残留鉱床(ボーキサイト、ラテライトなど) Al

 

4.4. 温泉・鉱泉が元素濃度に及ぼす影響:

特に火山が関係した温泉は、実に多くの元素を溶かし込んでおり、まさにそこで鉱床が作られていると言い換えてもいいほどです。温泉が地表に噴出することで温度が下がり、溶けきれなくなった無機物が沈殿します。これが湯ノ花などと呼ばれるもので、専門的には「スケール」と呼ばれています。スケールは主にシリカ(Si)、カルシウム(Ca)などからできています。その中に鉄、銅、亜鉛、鉛などが多く含まれることもあります。

 

4.5. 人為的な影響が元素濃度に及ぼす影響:

人為的な影響として最も影響が大きくかつ汚染源の特定が可能なのは、鉱山や精錬所です。近年はほとんどの鉱山が閉山したり、鉱滓の処理技術の向上などしたことによって、深刻な影響はほとんど見られなくなりました。人為的影響は挙げだしたらきりがないので、3例ほど挙げてみました。現在のところ、地球化学図に認められた人為的汚染は、溶け残った肥料が原因と考えられるリン(P)の濃集だけです。

  1. 田畑に散布された肥料:K, P など

  2. 精錬所、工場活動による排出:Cr, Mn, Fe, Ni, Co, Cu, Zn, As, Mo, Cd, Sn, Sb, Hg, Pb, Bi など

  3. 石炭、石油の燃焼(発電所、暖房、自動車など)による放出:V, Pb など