last update 2005.05.10
さて、日本中の川から集めた川砂の化学分析が終わりました。次は得られたデータからどのようにして地球化学図を作るのかを説明します。
ここで、次のような分析結果が得られたとします。
試料番号 | カルシウム濃度(%) | |
a | 4% | |
b | 6% | |
c | 8% | |
d | 10% | |
e | 12% |
このように得られたデータをどうやって図化するか?表示方法としては次のような方法があります(イメージ)。3Dマップ以外について、説明していきます。
ポイント(点)マップ 川砂の採取点に、元素濃度の多少に応じてシンボル(だいたい丸)を変化させて表示。 |
ポリゴン(多角形)マップ 各流域をポリゴン化し(多角形の形で表し)、元素濃度の変化に応じて色分けをして表示。 |
メッシュ(格子模様)マップ 調査地域をセルと呼ばれる格子で区切り、元素濃度の変化に応じてセルを色分けをして表示。 |
3D(三次元)マップ 3D(三次元)地形データに平面ポリゴンマップやメッシュマップデータを貼り付けて表示。 |
作成中 |
まず、ポイントマップから見ていきましょう。この図は、地球化学図としてもっとも基本的なものです。図には採取された地点とその元素濃度を表しています。そのため上記4つの図のうち、分析結果をもっとも忠実に反映しています。ただし、川砂を取った位置が互いに近いと、図のようにシンボルが重なり合って見えにくくなる欠点があります。
次に、ポリゴンマップについて説明しましょう。川砂は流域から岩石、土壌、植物などを集め、ほどよく混ぜてできたものです。実際には元素の濃度は一つの流域内でもかなりばらつきがあるはずです。しかし、川砂を分析することによって流域の平均的な化学組成を知ることができます。カルシウム濃度ごとに色分けしてみましょう。
いかがでしょうか。この図は、先ほどの点としての情報から面としての情報へと変換したものです。これで元素濃度の分布がかなりわかりやすくなりました。しかし、これでは隙間が多いとか、流域の境界で色が突然変わるといった問題があります。もちろんこのままでもよろしいのですが、日本中の河川をくまなく集めても、どうしても隙間ができてしまいます。この隙間を何とか埋めることはできないのでしょうか?
まずは、調査地域を格子で区切ります。一つ一つの格子を「セル」と呼びます。それぞれのセルに値を入れて、地図を作ります。このような形式の地図をメッシュマップと呼びます。格子の間隔は、自分の好きなように設定できます。
1.代入 セルA:セルがすっぽりと一つの流域の中にあるので、流域のカルシウム濃度をそのまま入力します。ここでは6%となります。 |
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2.平滑化 セルB:このセルはc, d という2つの流域(3.1.の図を参照)にまたがっています。セルBに占める両者の流域の面積比はだいたい c : :d = 4:6 ぐらいです。従って、このセルのカルシウム濃度は {(4×8% ) + (6×10%)} / 10 = 9.2% となります。このように、流域の境界は複数の流域の化学組成の中間の値を取ります。この操作を「平滑化」と呼びます。 |
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3.補間 セルC:このセルにはどの流域も入っていません。そこで、セルCの周りの流域のデータを参考にしながら、このセルの化学組成を計算します。ここでは、簡略化して説明します。空白のセルの濃度は、近いセルの濃度をより強く反映していると考えます。そのため、距離を重みとして使用します。 |
文章だけではわかりにくいので、実際に計算式を示して説明しましょう。
ここで、セルの大きさを縦横1 kmとすると、中央の空白セルから上下左右のセルまでの距離は1 km,斜めのセルまでの距離は1.414 km (√2 km),として、中央の空白セルを取り囲む8点のデータから、空白セルの濃度を計算してみましょう。
<計算式>
この式で、1または/2の2乗で濃度を割っていますが、これを重みと呼びます。 実際には、黄色で示した式を含めて重みと呼びます。この場合、斜めのセルは上下左右セルの2分の1しか影響がないと考えて計算します。
これらの作業の結果つぎのようなメッシュマップができあがります。私たちの研究室では地球化学図としてこのタイプの図を用いています。
地球化学図は大変色鮮やかですが、勝手に色分けをしているわけではありません。あるルールに基づいて色分けを行っています。代表的な色分け方式について具体例を挙げて説明していきましょう。
方式 | 等間隔方式 | 標準偏差方式 | 等量方式 | パーセンタイル方式 |
方法 | 最大値と最小値の差を”区分数−1”で割った値で区切る方式 | 区分に標準偏差(データのばらつきを表す量)を用いる。 | データを濃度が低い方から順に並べ、区分数に応じた数(又は割合)ずつ並べる。 | 等量方式の改良版。濃度が低い方から順に、0%, 5%, 10%, 25%, 50%, 75%, 90%, 95%, 100%で区切る。 |
使用データ例 | 最大値 2.61%; 最小値 0.15%; 区分 0.35%の場合 | 平均値(av) 1.44%; 標準偏差(S) 0.37%; 区分 1標準偏差の場合 | データ数700個で区分数が7の時、等量(100個:14.3%)ずつ濃度が低い方からデータを並べる | データ数700個の場合、濃度が低い側から、35番目 (5%)、70番目 (10%) ・・・ 665番目 (95%)のデータの濃度を区分に用いる |
濃度 カラム |
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表示例 |
日本の地球化学図では、基本的に標準偏差方式を採用しています。海外では、等量方式の改良版であるパーセンタイル方式で区分しているところが多いようです。
濃度区分の次は、グラデーションにどのような色を使うかについて簡単に説明します。私たちの研究室では、通常は赤-黄-緑-青のグラデーションを使います。微妙な色合いの変化が分かり易く、見た目も非常にきれいに仕上がるのが特徴です。また、カラー印刷ができない時のために、白黒で表現することもありますが、微妙な濃度変化が分かり難いことと、今ひとつ迫力に欠ける事が欠点です。ただし、何でもカラーにすればよい訳ではなく、右下図のように、連続性のない色を用いるとかえって濃度の変化が分かり難くくなることもあります。