足元の化学

last update 2002.06.24

産業技術総合研究所
地質調査総合センター
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第1回:序論

私たちが生活をしている地面。地面の様子を表した地図といわれて真っ先に思いつくのは、国土地理院が発行している地面の高低を表した「地形図」ではないでしょうか。しかし、地面は基本的に岩石、砂、粘土などからできています。地面にどのような岩石や土が分布しているかは、地質調査総合センターなどで発行している「地質図」というもので調べることができます。また、地面のどこにどのような種類の植物が生えているかを調べた「植生図」というものもまであります。都道府県・市町村の領域や鉄道・道路・建物・市街地といった情報もまた地面の様子と見なせば、「行政区分図」や「土地利用図」などの地図もあります。このように地面の様子を表す地図には目的に応じていろいろな種類があります。簡単にまとめてみますと、

  1. 地形図、重力図:物理情報(地表の高低、地下の物質の密度)

  2. 地質図:地質情報(地質、火山、資源の分布。地滑り・活断層などの災害マップも含む)

  3. 植生図:生物情報

  4. 行政区分図・土地利用図:行政情報

となります。

さて、上記の区分を見てあれ?と思われた方がいるかもしれません。行政情報はともかくとして、物理・地質・生物の地図があるのに、なぜ化学の地図が見あたらないのでしょうか。これは、地表の化学組成の変動が著しく大きいことや、試料の採取・分析量が莫大なものとなり、作成が非常に困難であったためです。

最近、土壌を汚染した事業者は、売買の前にきちんと浄化する必要を迫った法律が検討されるなど、「環境汚染」という言葉が再び重要なキーワードになっています。しかし、日本の地面の岩石や土壌は様々な種類から成り立っているため、地域によっては大きく化学組成が変化することがあります。たとえば、鉛がどの程度まで濃集していれば、自然の濃度に対して明らかに汚染と見なしてよいのでしょうか?これに対する答えをすぐに出せる人はそういないのではないでしょうか。人間活動によって引き起こされた汚染を正しく評価するためにも、元々そこにあった岩石や土の化学組成、つまり「足下の化学組成」を知る必要があるのではないでしょうか?

近年の分析技術の発展などから、地表の化学分析をする際に当たっての問題が無くなってきました。そこで現在、私たちの研究室では足下の化学組成を知るために、川の砂、土壌、海の泥をとって元素の分析をしています。海の話は別の機会にするとして、足下の化学組成はどのような要因によって変化するのか、そしてそれを知るにはどうしたらよいかご紹介しましょう。