足元の化学

last update 2003.04.08

産業技術総合研究所
地質調査総合センター
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第2回:何を分析すればよいのか

2.1. 何を分析するのか?:

地表の物質のうち、分析対象となる代表的な物質と、それぞれの長短所を挙げてみましょう

試料 特徴
岩石(岩) 地表に分布する元素の最大の供給源であるが、場所による不均質性が大きく、風化などにより化学組成が大きく変化する。また、人為的な汚染に関する情報を保持していない。
河川堆積物
(川の石や砂)
採取地点の流域に分布する岩石・土壌の混合試料と考えられるため、数少ない試料で広範囲の面積を代表することができる。ただし、特定の重鉱物が濃集する傾向がある。
土壌(土) 農業・工業・生活環境からの著しい影響を受けているため、人為的汚染の評価に最適。ただし、その情報は極めて局所的であり、広域の元素濃度分布を調べるには向いていない。
湖沼堆積物
(湖や沼の砂・泥)
周囲の河川を通じて運び込まれた堆積物から構成されるため地域代表性はあるが、その分布域が限られているのが欠点。また、続成作用によって元素の移動などの別の要因も加わる。
氷河堆積物
(氷河が運んだ石・砂・泥)
優れた地域代表性・試料均質性を持つが、分布が極地方に限られる。
河川水(川の水) 人為汚染を受けやすいが、水量の変化などによる元素濃度の変動が 非常に大きい。

このなかで一番良く用いられているのは、河川堆積物です。河川堆積物は他の試料に比べ飛び抜けて優れた点はありませんが、平均的に優れていると言えます。

  1. 土地所有権の問題がない:河川や河川敷は国家または地方自治体の所有物なので、個人や企業の所有地を含む土壌と違って、試料を集めるときにいちいち許可を取る必要がありません。
  2. 地域代表性が良い:川の砂は、流域と呼ばれるその川の流れに沿った一帯の地域から岩石、土壌、植物などを広く集めてきます。
  3. 均質性がある:岩石や土壌と違って、川によって砂が運ばれる途中によく混ぜられます(自然のミキサー)。
  4. 分析の手間が省ける:細かい砂だけを集めれば、そのまま分解できます。これに対して例えば岩石はハンマーなどで細かく砕く必要があります。
  5. 人為的汚染の評価が可能:土壌ほどではありませんが、流域に人間が住んでいれば、そこから人為的な汚染物質が川の砂に入ってくると考えられます。
  6. どこでも取れる:日本は山がちで雨量が多いことから、河川が網の目のように発達しています。そのため、全国くまなく試料を集めることができますし、必要に応じて密に取ったり、粗く取ったりもできます。
 

2.2. 川砂の取り方:

さて、川はどこにでもあるわけですが、むやみやたらに取っても後々苦労するだけです。そこであるルールの下で砂を集めます。

ルール1:基本的に支流の砂を取る。本流の砂は、支流がほとんどないとき又は間隔が大きくあいてしまった場合に取る。

支流の砂を取る場合

この川でアルファベット a-e までの5つの川砂を集めると、色の付いた範囲のデータを得たことになります。この場合5個のデータで地表の元素濃度を表すことができるので、地球化学図としては、精度が上がります。

本流の砂を取る場合

もし、川の本流だけで試料を取ると、このようにさらに広い面積をたった一つの試料で表すことができます。しかし、一つのデータしかないので、支流の砂を取る場合に比べて、精度が悪くなります。

ルール2:180um以下の細かい砂だけを集める。

川砂の分解方法については次に説明しますが、あまり大きな砂粒ですと、溶け残ってしまいます。岩石もそうですが、通常はすり鉢で細かくすりつぶして分解し易いようにします。しかし、180um以下の細かいサイズならば、すり鉢ですりつぶさなくても十分分解することができるのです。現地でふるいをふるう場合もありますし、とりあえず1-2kgの川砂を集めてきて、研究室でふるいを掛ける場合もあります。また、分析する元素の中には、水銀やヒ素のように、ちょっと高い温度をかけると揮発してしまう(空気中に飛んでいってしまうこと)ことがありますので、川砂は室温でじっくりと時間をかけて乾燥します。さらに、磁石を使って砂鉄をあらかじめ取り除いておきます。

2.3. 川砂の中の元素濃度の調べ方:

川砂の分析の手順として、まず川の砂を分解する必要があります。私たちの研究室では、膨大な量の試料を効率よく分解するために、フッ酸-硝酸-過塩素酸をもちいて分解します。通常の化学の授業ではあまり使用しないかもしれませんが、岩石や土壌の分析に良く用いられています。それぞれの役割を簡単に説明しますと、

となります。この3つの酸を使って120℃の温度をかけると、2-3時間程度で川砂のほとんどが分解できます。しかし、このままでは、フッ化水素酸が保存容器や分析装置のガラスを溶かしてしまいます。そこで一度すべての酸を蒸発させてから、硝酸だけを加えて、再び溶かした溶液を分析に使います。

現在私たちの研究室で測定対象としているのは、周期律表に黄色で示した次の53元素です。皆さんはいくつの元素までご存じですか?

1
(1A)
2
(2A)
3
(3A)
4
(4A)
5
(5A)
6
(6A)
7
(7A)
8
(8)
9
(8)
10
(8)
11
(1B)
12
(2B)
13
(3B)
14
(4B)
15
(5B)
16
(6B)
17
(7B)
18
(0)
1 H He
2 Li Be B C N O F Ne
3 Na Mg Al Si P S Cl Ar
4 K Ca Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Kr
5 Rb Sr Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I Xe
6 Cs Sr L* Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb BI Po At Rn
7 Fr Ra A*
L* La Ce Pr Nd Pm Sm Eu Gd Tb Dy Ho Er Tm Yb Lu
A* Ac Th Pa U Np Pu Am Cm Bk Cf Es Fm Md No Lr