last update 2018.10.02
地質調査総合センターでは、汚染判別等の環境評価の基準図とすべく、陸海域にまたがる広域元素濃度分布図の作成を行ってきた(全国地球化学図、海域地球化学図)。地球化学図のさらなる利活用を目指して、名古屋大学と共同で、農作物・食品や考古学資料(土器・骨など)の産地・起源解析を目的として、陸域の広域Sr同位体比(87Sr/86Sr)図の作成に取り組んでいる。
四国地方・紀伊半島で採取した河川堆積物を用いて、広域Sr同位体比分布図を作成した。その結果、河川堆積物の母材となる岩相の違いに応じて、系統的なSr同位体比の変動が認められた(Jomori et al., 2013. Geochem. J., 47, 321–)。特に、西日本外帯の三波川帯、秩父帯、北部四万十帯、南部四万十帯の順に系統的にSr同位体比が増加し、若い島弧地殻だけでなく、古い大陸地殻で形成された岩石から砕屑物の供給があったことが明らかとなった。その結果、広域Sr同位体比分布図は農作物・食品・考古学資料の産地・起源解析だけでなく、母岩の地質学的環境の推定にも活用できる可能性を示した。
花崗岩を主とする中部地域で、風化を受けていない花崗岩(母岩)と粒度別に分けた河川堆積物を用いて、風化過程におけるSr同位体比の変動を調べた(Minami et al. (2017) Geochem. J. 51, 469–)。以下のような結果が得られ、日本の地球化学図で使用している 180 μm 以下の細粒砂がSr同位体比図作成に最も適している試料であることが明らかとなった。
花崗岩、堆積岩、安山岩、変成岩など様々な岩種が出現する松山地方重信川水系において、河川水・湧水や粒度別に分けた河川堆積物試料を対象として、背景地質の影響、粒径効果、可溶性成分と溶存性成分のSr同位体比の関係などについて統計学的に詳細な検討を行った(Jomori et al., 2017. Appl. Geochem., 86, 70–)。以下のような結果が得られ、日本の地球化学図で使用している細粒の河川砂が、母岩に応じたSr同位体比変動を忠実に反映していること、水に溶けているSrが生体組織に取り込まれることから、交換態Sr同位体比が動植物組織(特に農作物)の起源推定に有効である事が明らかとなった。