電気伝導の実験
最近, ナノチューブの電気伝導が観測されるようになった. 先駆的な試みとして, 多層ナノチューブ束の磁気抵抗が観測されている.[26] 十分低温では弱磁場領域で負の磁気抵抗効果が観測され, 磁場が強くなると抵抗は大きな正の磁気抵抗を示す. 観測された正の磁気抵抗はほぼに比例し, その大きさは短距離型ポテンシャルを持つ不純物を仮定し谷間散乱を無視した計算と定量的によく一致している.[27]一本の多層ナノチューブの電気伝導も測定されている.[28,29] この実験では磁場の広い範囲にわたって弱い負の磁気抵抗と揺らぎと考えられる不規則な磁気振動が観測された. この様な強い磁場ではナノチューブの電子状態が大きく変化するために理論的には大きな正の磁気抵抗が期待されるが, 実験結果には正の磁気抵抗は観測されていない. この不一致の原因は現在のところ不明である.
最近になって一本の単層ナノチューブの電気伝導が測定され始めた.[30,31] ナノチューブと電極の接触抵抗が巨大なため, または測定の都合でナノチューブが折れ曲がるため, 実験結果は帯電効果にともなうクーロン振動を示す. クーロン振動については, 文献[32]等に明解な解説があるので説明を省略するが, 本質的には物質によらない現象であり, それにはナノチューブの特徴がほとんど現れない.
電極の問題を克服しナノチューブ自身の電気伝導を観測する試みとして, ナノチューブのアーク放電による生成時の電極をそのまま片方の電極として, また液体金属を他方の電極に用いた実験が報告された.[33] そこでは, 室温でコンダクタンスの量子化が観測された. 後方散乱の消失という理論的予測と密接に関係した結果であるが, 理論的予測のちょうど半分の値に量子化されることや予期せぬステップなど未解明の現象も報告されている. 後方散乱の消失を実験的に証明するためには, 正の磁気抵抗についての検証が望まれる.