next up previous 次へ: おわりに 上へ: cnjps5 戻る: 電気伝導の実験

カーボンナノチューブ接合系

ナノチューブ接合系とは異なる円周のナノチューブが連続的につながった系である. このような構造を持つ系は, アーク放電等によるナノチューブの生成時に混在する. 透過型電子顕微鏡により観察されたナノチューブ接合系を図7に示す.
図 7: 上図はナノチューブ接合系の電子顕微鏡写真. Aで示した位置に一つの5員環, Bで示した位置に一つの7員環を持つ. 下図はその模式図であり, $R_5$で示した位置に5員環, $R_7$で示した位置に7員環を持ち, 太い方のナノチューブの周長が$L_5$, 細い方が$L_7$である.
\begin{figure}\epsfxsize =80mm
{\hfill \epsfbox{ijm93.eps}\hfill}
{\hfill \epsfbox{cn1jcins.eps}\hfill}
\end{figure}
矢印で示した位置に, 一つの5員環(A)と7員環(B)が配置したと考えると, ダングリングボンドや大きな格子定数のひずみを導入せずに円周の違うナノチューブを連続的につなぐ構造を取れる.

そのことを理解するために, グラファイト面の蜂の巣格子を考える. それは, 6員環の中心について6回対称になっているので, 6つの同等な部分に分ける. そのうち一つの部分を取り除いて, 残りの部分を $sp^2$ 結合を保ってつなぎ合わせると中央に5員環があり, グラファイト面は正の曲率を持つ. 同様に蜂の巣格子に7員環を導入すると負の曲率を持つ. 一組の5員環と7員環の組は蜂の巣格子中の$-60$度の回位となる. したがって, この種の欠陥は, 多角形欠陥, トポロジカルな欠陥と呼ばれる.[34] 5員環と7員環を様々に配置すると, 他にも多様な構造をとりうる. 例えば, 図7の右端に見られるようなナノチューブの先端が閉じたキャップ構造は5員環を6個含む. ${\rm C}_{60}$ 等のフラーレン族も5員環を含み同様に閉じた構造をもつ.[34,35]

ここでは, そのうち最も単純なナノチューブ接合系を考える. トポロジカルな欠陥は不純物欠陥と違ってその効果がスカラーポテンシャルとして表せないが, 電子散乱の原因になり得る. この系の輸送現象についての最初の理論的取り組みとして, 接合部のトンネルコンダクタンスの計算がある.[36] また, 金属-半導体-金属接合を考えるとトンネル電流が流れるのでナノスケールのデバイスとしての可能性が提案されている.[37]

磁場がないとき, 格子模型にランダウアー公式を用いた数値計算により, コンダクタンスは接合の詳細にほとんどよらないことが明らかになった.[38,39] 肘掛け椅子型とジグザグ型のナノチューブについて円周を変えながら $\epsilon\!=\!0$でのコンダクタンスを計算した結果を図 8に点で示す.

図 8: ナノチューブ接合系のコンダクタンス. $L_5$は太い, $L_7$は細いナノチューブの円周の長さである.
\begin{figure}\epsfxsize =100mm
{\hfill \epsfbox{383r.eps}\hfill}
\end{figure}
コンダクタンスは両端のナノチューブの円周の比$L_5/L_7$だけにより決まりナノチューブのカイラル角や円周の長さ自身には依らない. ここで, $L_5$は太いナノチューブの円周, $L_7$は細いナノチューブの円周であり, 接合部の長さは $(L_5\!-\!L_7)\sqrt{3}/2$である. また十分長い, つまり円周の比が小さい接合系ではコンダクタンスは接合の長さの3乗に反比例して減少する.

図8中に, 有効質量方程式を用いフェルミ準位を横切らないバンドを無視した2モード近似の結果も示した.[40] それは格子模型の計算と非常によく一致している. また十分長い接合系では波動関数の振幅は長さ($y$座標)の一乗で減衰しており, 波動関数の2乗を円周方向に積分すると, コンダクタンスが円周の比の3乗に比例して減少することが理解された. 有効質量近似で長さのスケールを考えると, $\epsilon\!=\!0$ でフェルミ波長が無限大であるため, この接合系の場合は$L_5$, $L_7$の2つしか存在しないので, $\epsilon\!=\!0$ でのコンダクタンスが円周の比でスケールされるのは当然である.

しかしながら, ナノチューブの軸に垂直に磁場をかけるともう一つの長さの単位として磁気長が加わるので, 少し複雑になる. ナノチューブの軸に垂直な磁場をかけた場合について, ランダウアー公式を用いた数値計算により調べた.[41] それによると短い接合の場合は正の磁気抵抗が, 長い接合の場合は負の磁気抵抗が現れる. しかしいずれの場合も, 伝導度の大きさは磁場の5員環7員環方向の成分だけの関数で決まる. 残念ながらこの特異な振舞の説明はまだ無い. さらに, 前述の少数の原子を抜いた模型の場合も同様に磁場の欠陥方向の成分だけの関数としてコンダクタンスが決まり共通する特有の振舞が示された.[22]



next up previous 著者のホームページ
T. Nakanishi 平成16年3月19日