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大木研究室
第34回

選別機の運転条件 ③

 

~相対運動選別機の場合~

相対運動選別機の場合

第24回で記したように、集合選別機は、磁場、遠心場などの「特殊な場」を提供し、目的とする選別の境界条件に基づいて、粒子が自発的に運動をすることを利用した装置である。粒子が一定速度以上で一定距離以上を移動することを以て、選り・分ける工程が同時になされるが、基本的には、「特殊な場」の秩序に基づいて、運動を始める粒子と、運動しない粒子の2種類に選別される。言い換えれば、選別機の運転条件の決定を以て、粒子の投入段階で選別の境界条件が確定する(ここでは、「境界条件確定型」と呼ぶ)。

一方、集合選別機のうち、共存する異種粒子群との相対運動差に基づく「相対運動選別機(ジグ,エアテーブル)」では、粒子の運動に分布が発生し、原理上、選別が完了する直前に、仕切り板等の調整で境界条件を決めることができる(「境界条件後決め型」と呼ぶ)。第32回で示した図4.2.1の「A,B粒子条件3」のようなケースにおいて、「境界条件確定型」では、横軸のどこか(例えば赤い点線)1つを境界に選別されるが、ジグでは①「Aの高純度産物」、②「Bの高純度産物」を、エアテーブルでは①②に加え③「A/Bが混在する中間産物」や自由な境界で多産物を同時に回収することができる(図4.2.3,ケースA参照)。③は再びフィードに戻せば、その分、処理速度は落ちるが、回収産物の純度を上げられる可能性がある。

図4.2.3 境界条件後決め型選別機の回収産物

これについては、少し詳しく説明する必要がある。まず、第32回で示した図(ケースA)の意味は、バルク物性X(例えば比重)に基づく粒子運動に本質的な違いがある場合である。つまり、③となる粒子は、外形のバラつきが大きいために、比重では粒子運動に差を生じさせることができない粒子群という意味であった。③の領域(境界条件)を変更することで、第30回の精選・清掃選で記したように、回収率を犠牲にして純度を高めたり、純度を犠牲にして回収率を高めることはできるが、③を再び投入しても①や②にはならない点は、「境界条件後決め型」であっても同じである。

一方、この図が示しているのは、バルク物性Xに基づく理論上の粒子運動であるが、実際の選別機では、装置の選別精度の影響を受ける。つまり、ケースBのように理論上は完全に選別できる場合でも、選別精度が完璧でないため、実際にはケースAの③のような中間産物が生じてしまう。これを「境界条件確定型」で解消するには、形式的には①を回収後、②を回収し、残渣の③をフィードに戻すという清掃選を繰り返すことになる。ただし、これら「絶対運動選別機」では、抱き込み等の粒子位置による選別不正は解消できても、選別機固有の場(境界条件)のムラ自体は解消できないので、③を再投入しても①、②に完璧に選別することは難しい。一方、「相対運動選別機」の場合、そのムラは、選別機固有の場ではなく、粒子A/B間の局所的(偶発的)な運動差によってもたらされるので、次回の選別では③は解消される可能性が高い。ジグの場合は、一定量の③が水槽内に存在し、回収された①、②の量だけ新たにフィードすれば、常に①②のみが回収される。エアテーブルの場合は、①②③が別々に回収されるので③のみフィードに戻す。なお、湿式テーブルも型式的には「境界条件後決め型」であり、エアテーブルと同様に①②③が別々に回収される。③を再フィードしやすいというメリットはあるが、「絶対運動選別機」のため、境界条件のムラが解消されないことは他の「境界条件確定型」と同じである。

以上、実際には様々な事象が影響するので、全てのケースでこの通りの結果が期待できる訳ではないが、「境界条件後決め型」相対運動選別機の利点を生かすと、処理速度を犠牲にして、高度な選別ができる場合があることは認識していただきたい。

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