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大木研究室
第32回

選別機の運転条件 ①

 

~粒子条件による選別困難度~

粒子条件による選別困難度

前回まで、選別装置の選択の考え方を解説してきた。今回は、選別装置を決めた後、それをどのように運転するか、選別条件の考え方について説明する。とはいえ実際の選別においては、対象物の様々な条件と、選択した装置の機構や特性に応じて、その条件は千差万別である。特に廃製品の破砕産物を選別する場合、真の理想条件を見出すことは非常に難しい。筆者は、その条件を複雑な計算によって自律制御することを目指しているが、ここではその基本的な概念だけを示す。

粒子A、Bの混合物を選別するため、まずは、比重や磁性など、両者の差が大きい物性を利用した選別装置を選択することになる。例えば、バルク物性Xを利用した何等かの選別装置を選択して選別することを考えたとき、粒子A,Bの物性(粒子条件)によって、選別条件の選択の仕方が変わってくる。代表的な例を(図4.2.1)に示す。

図4.2.1 粒子条件と選別条件の特徴

ここで、第28回で示した図4.1.6を思い出してほしい。対象粒子の物性には、金属種や素材種に固有のバルク物性や表面性質の他に、基本的にはこれらと無関係な大きさや形状が影響してくる。選別基準に比重を選択した場合にはその影響が顕著であるが、他の固有物性で選別する場合にも、何らかの形で粒子の大きさや形状が粒子運動に影響してくる。ほとんどのケースにおいて、大きさや形状のバラツキは、物性Xを利用した選別に悪影響を及ぼす。図4.2.1の「A、B粒子条件1」は、粒子群AとBがすべて同じ大きさと形状であり、選別基準の物性Xの差が大きいケースである。このケースでは、バルク物性Xがどの境界条件(図の横軸)であっても良好な(分離効率100%に近い)選別結果が得られる。物性差Xによって本質的に選別がなし得るのかを確認する実験として行うことはあるが、リサイクルにおける実際の選別で、このような粒子条件となるケースはほぼ無いと言って良い。「A、B粒子条件2」は、バルク物性差は大きいが、粒子の大きさや形状にバラツキがある場合である。実際の選別で極めて良好な結果となるのは、このようなケースである。バラツキの大きさによって良好な選別ができる選別機条件の範囲が変わる。つまり、バラツキが大きいと、良好な選別ができる選別機条件が狭くなり、運転制御を繊細に行う必要がある。過去にお話ししたように、このバラツキをなるべく小さくするため、一般的には事前にふるい分けなどを行う。「A、B粒子条件3」は、粒子の大きさや形状にバラツキがあり、かつ、A、Bのバルク物性差が小さい場合である。例えば、比重が近い粒子A、Bを選別する場合などが該当する。この場合、選別の境界条件を変えても、分離効率を100%近くにすることはできない。また、分離効率最大、A純度最大、A回収率最大の境界条件が異なるため、目的に応じて選別機の境界条件を選択することが必要となる。実際の選別で比較的良好な結果となるのは、このようなケースである。「A、B粒子条件4」は、A、Bのバルク物性差が小さく、かつ、粒子の大きさや形状のバラツキが大きい場合である。同様に、分離効率最大、A純度最大、A回収率最大の境界条件を選択することになるが、この条件下では、もはや良好な選別結果が得られる境界条件が存在しない。粒子径が小さく、精度良いふるい分けができない場合などは、この状況に陥る。なお、本講では、簡単のため、大きさや形状がバルク物性Xに基づく粒子運動に及ぼす影響をA、B同一として図示したが、実際には必ずしもそうなるとは限らない。実験を繰り返すか、精緻なキャラクタリゼーションを行って計算により、対象物ごとにその特性や目的に応じた最適条件(境界条件)を求めることになる。

以上のように、粒子条件による選別の困難度に応じて、選別結果はもとより、選別機の運転条件、どのくらい精緻に制御すべきかが変わる。多くの選別機においては、選別操作の前に、ふるい分けなどで事前に整粒して、大きさや形状のバラツキを小さくすることが肝要である。また、リサイクルにおける選別では、投入する粒子群の組成が変化しやすいが、いずれの場合も、対象物が変わると選別の境界条件が変わるため、理想的には対象物に応じて運転条件を変えることが必要となる。

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