第31回
選別装置の選択 ⑨
~絶対運動選別機と相対運動選別機~
絶対運動選別機と相対運動選別機
集合選別機の中には、「特殊な場」と「着目粒子」の関係だけに基づいて粒子運動が決まる装置と、そうでない装置が存在する。ある物性の粒子Aを特殊な場(選別機)に置いたとき、粒子Aを単独で投入した場合と、異種の粒子Bと同時に投入した場合で、粒子Aの運動が同じになるのが前者、異なるのが後者である。これまで、このような視点で装置を分類する習慣がなかったため、筆者は前者を「絶対運動選別機」、後者を「相対運動選別機」と名付けた。旧来通り、実験検証によって選別条件を最適化する場合にはあまり意識する必要はないが、選別制御やシステムを自動化するような際には、両者の違いを明確にしておく必要がある。
話を簡単にするため、絶対運動選別機として「吊り下げ磁選機」を、相対運動選別機として「ジグ選別機」を例に説明する(図4.1.9)。例えば、絶対運動選別機である吊り下げ磁選機に、磁化率中程度の粒子(磁化率中)を投入する。この粒子が、この場(選別機)の秩序に基づいて磁石に引き寄せられ、磁着産物として回収される場合、磁化率中はそれ単独で投入しても(A-1)、異種粒子(A-2)と同時投入しても、同じ粒子運動をして磁着物として回収される。つまり、最終的に行き着く場所が異種粒子に影響されず、「場の秩序」と「対象粒子(磁化率中)」の関係だけで決まる。したがって、理論的には、異種粒子の混在状態によらず、何度選別をしても磁着産物となる粒子は変わらないため、もし、このタイプの理想形の選別機が存在したならば、第30回で示した「精選」「清掃選」は実施する意味はない。しかし、現実には、装置の機構上、コンベア上の磁束密度のムラなどにより、同一粒子でも磁着する場合としない場合が発生するので、「精選」「清掃選」の意義が生まれることになる。また、既述のように、粒子サイズが異なると粒子運動も変わるので、理想選別機が存在しても、磁化率中が分離効率100%で選別できるとは限らない。
図4.1.9 絶対運動選別機と相対運動選別機の特徴
次に、相対運動選別機であるジグ選別機に、比重が中程度の粒子(比重中)を投入することを考える。普通は行わないが、比重中を単独で投入すれば、水槽内の粒子層はすべて比重中となるので、重産物としても軽産物としても回収される。ここに、異種粒子として比重低を同時に投入すると(B-1)、比重中は下層に集まり重産物として回収される。一方、比重高を同時に投入すると(B-2)、比重中は上層に集まり軽産物として回収される。このように相対運動選別機では、共存する異種粒子により、どの産物として回収されるかが変わる。異種粒子の影響の受け方は選別機の種類によって異なるが、ジグ選別の場合、「場」による比重中の運動自体は大きく変わらないものの、「堆積時の秩序」に対して異種粒子の影響を受ける。「場」が目的粒子を回収産物場所に移動させる絶対運動選別機と異なり、相対運動選別機では、「場」は全ての粒子に運動を発現させ、生じた粒子間の運動差によって粒子位置に序列を生じさせる機構となる。したがって、比重中がどのような産物として回収されるかは、「場の秩序」との関係だけでは決まらず、共存する異種粒子の相対運動差で決まることになる。絶対運動選別機と同様、粒子サイズにより粒子運動が変わり、分離効率100%で選別できるとは限らないが、共存する異種粒子との比率などで選別結果が変わるため、仮に理想選別機であったとしても、「精選」「清掃選」の効果が期待できる。
以上、まとめると、「絶対運動選別機」は、場の秩序に基づく粒子運動によって、対象粒子を直接、産物回収位置に搬送、すなわち、粒子の最終的な行き先を指定する機構であり、異種粒子の有無に関わらず、個々の粒子は常に同じ産物となる。一方、「相対運動選別機」は、場の秩序に基づいて全粒子が運動し、その運動自体は最終的な産物回収位置を決めないが、共存する異種粒子との運動差で粒子を配列させて、その相対位置で産物回収位置を決める機構となる。