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大木研究室
第33回

選別機の運転条件 ②

 

~電子素子選別シミュレータ「AESS」の開発~

電子素子選別シミュレータ「AESS」の開発

筆者が開発した電子素子選別シミュレータ「AESS(アエス)」については、本コラムでも何度か紹介してきた。AESSは、選別対象を電子素子群に絞り、ユーザが回収したい電子素子や選別目的を入力すると、各種選別装置、選別工程、個々の選別機の運転条件を最適化した上、その選別結果を予測するシステムである。今回は、AESSの機能に触れながら、電子素子を対象とした場合の、選別機運転条件等に関する特殊性について解説する。

これまでも述べてきたように、通常、粒子の「外形(大きさ・形状)」は、選別目的の金属・材料種とは普遍的な因果関係が存在しないため、着目物性での選別の阻害要因となる。破砕粒子の「外形」は2つとして同じものはなく、1億個の粒子があれば、1億種の「外形」が存在する。このため、バルク物性に基づく選別に対して、無限とも言えるパターンの「外形」がどのように阻害するかを予測することが難しく、現状は、事前にふるいでサイズ選別する程度しか術がない。他方、電子素子は人工物ゆえ、その種類ごとに特有の「外形」を有している。IC、メモリー、タンタルコンデンサなどの機能分類に対し、選別に影響する各々の「外形」の種類を掛け合わせても数百種程度である。「外形」が類似する電子素子もあるため、「外形」だけでは電子素子の種類を限定できないが、回収する電子素子が決まれば、その「外形」は数種~十数種程度に限定される。つまり、電子素子の姿のまま基板から剥離されると、「外形」も選別目的の金属・材料種に紐づけできるので、阻害因子とならないばかりか、選別物性の1つとして利用することができる。第27回で示した7つの物性のうち、通常の選別対象である破砕粒子では3つのバルク物性が選別に利用されるが、そこには常に「外形」という2つの阻害因子が伴う。感覚的な言い方をすれば、通常は、3-2=「1」の関係性の中で選別することが強いられる。一方、電子素子では「外形」も選別因子として利用できるので、3+2=「5」の選択肢の中で選別することができる。このように、他の破砕物とは異なり、電子素子は「外形」の種類が有限で、かつ、電子素子の種類(機能分類)に固有の物性であるため、精度良い計算ができるだけでなく、選別の自由度(選択肢)が高く、実質的に選別の理論限界自体も高くなるという特殊性を有する。

電子素子の選別にはこのような特殊性があるとは言いえ、計算で要求される選別スペックが既存の選別機で実現できるとは限らない。実際、筆者が電子素子群からタンタルコンデンサのみを回収する計算をAESSで実施したところ、既存装置では運転条件の最適化をしても実現不可能な選別要件が存在した。そこで、AESSが求めた選別条件を満たす2機の選別機を、新たに開発した。開発装置加えた選別システムで選別試験をしたところ、ほぼ計算通りの結果を得ることができ、従来はラボ試験でさえ分離効率30~50%程度しか到達できなかったタンタルコンデンサの選別を、実証プラントで分離効率95%以上を得ることに成功した。これは、リサイクルの選別において、計算によって選別工程や運転条件を最適化した世界初の例であり、また、計算によって必要スペックを割り出し、それを満足する選別装置を開発した世界初の例ともなった。

図4.2.2は初期バージョンのAESS画面の一例である。このソフトには3種の計算機能が搭載されている。「1.電子素子別最適選別条件シミュレータ」では、回収したい電子素子を選択すると、目的に応じた最適な選別工程、各選別機の運転条件と、選別結果が出力される。「2.金属元素別最適選別条件シミュレータ」では、回収したい金属元素を選択すると、多素子に跨って含有する元素を考慮した最適な電子素子選別を計算し、1.と同様の結果が出力される。「3.選別条件別電子素子分配シミュレータ」では、ユーザが任意の選別工程・運転条件を組んだ時、電子素子がどのように選別されるかが出力できる。最初のAESSは、パソコン電子素子からタンタルコンデンサを選別する計算をするもので、出力される回収物(選別工程・条件)パターンは約2,000兆通りであった。その後、AESSは対象物や計算パターンを随時更新するため、筆者の研究室のみで使用できるソフトとして発展してきており、一部の機能は筆者の開発した選別装置の自動制御機構に組み込んでいる。現在は、第27回で記した通り、360分類した電子素子を、最大10機の集合選別機を連ねた選別プロセスに投入した時に対応し、各選別機の運転条件や回収する電子素子に応じた選択し得る出力パターンは、35恒河沙通り(3.5×10⁵⁴)に及ぶ。これまで10年間に行った様々な対象に対する実験検証では、AESSで出力された選別工程・条件で選別すると、ほぼ計算通りの選別結果が得られることが確かめられている。

図4.2.2 AESS初期バージョンの計算画面の例

以上が、電子素子を対象とした場合の特殊性を利用した、AESS機能の概要である。一方、AESS計算を電子素子だけでなく、数多の破砕産物に対応させるには、その計算を可能にする研究基盤の確立が必要となる。すなわち、各種選別機に対する粒子外形が及ぼす因子を解明し、その阻害因子を緩和させるための整粒装置の開発が必要となる。現在、その確立に向けた研究開発を実施中である。

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