XAFS

last update 2018.10.02

産業技術総合研究所
地質調査総合センター
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XAFSを用いた微量元素の化学形態分析及び局所構造解析

1.研究テーマ:

  1. 鉄水酸化物・マンガン酸化物中の希土類元素の局所構造解析

  2. 風送ダスト(黄砂)中の重金属元素が長距離輸送途上に受ける化学反応の解明

  3. 現世堆積物中の重金属元素の化学形態分析

2.研究背景と目的:

2.1 希土類元素の局所構造解析

ランタニド収縮のため、ランタノイドイオンはシリーズを通して一定の結晶構造・配位構造を持たないことが多い。たとえば、水溶液における希土類元素の水和数は軽希土類元素側では9配位であるのに対し、重希土類元素側では8配位をとる(例 Habenschuss and Spedding, J. Chem. Phys. 73, 442, 1980; Rizkalla and Choppin, Handbook of the Physics and Chemistry of Rare Earths, 15, 393, 1991)。この結果、水溶液中では軽希土類元素の方が重希土類元素に比べてより安定に存在する。水和数の変化に伴うエネルギー変化については、Kawabe (Geochem. J. 33, 249, 1999) によってすでに定量的な議論が行われている。

構造の変化によって引き起こされる熱力学量の変化は水溶液側に限ったことではない。これまでの研究によって、鉄・マンガン水酸化物と水溶液間の希土類元素の 分配係数パターンに、沈殿物中の希土類元素の構造変化によって生じた不規則な変化が起きている可能性が指摘されている(Kawabe et al., 1999a; 1999b, Ohta et al., 2000a; 2000b)。特に、Ohta and Kawabe, 2001 Geochim. Cosmochim. Acta, 65, 695-703 は二酸化マンガン中に取り込まれた希土類元素が構造変化をおこすことで、選択的に軽希土類元素を濃集する可能性を指摘した(下図左側)。この実験結果は天然系の深海底マンガン団塊にも確認される点で大変興味深い(下図右側)。鉄・マンガン水酸化物は非晶質な構造を持つことや、そこに含まれる希土類元素は1000-10 ppm (mg/kg) 程度であり、通常のX線分光法では構造解析を行うことは非常に困難が伴う。そこで、高エネルギー加速器研究機構のPF放射光を用いて、XAFS測定を蛍光法で行う事を試みている。

鉄マンガン酸化物と水溶液間の希土類元素分配係数パターン

最近の研究結果

A. ランタニド LIII 吸収端 EXAFS 解析時における多電子励起(Multi-electron excitation: MEE)の補正について

X線吸収端微細構造は、一つの電子がX線のエネルギーを吸収して空の軌道へ遷移することで生じる。ランタノイドの LIII 吸収端の場合は、2p 軌道から 5d 軌道への遷移に該当する(下の図の鋭いピーク)。ただし、EXAFS 領域は、もはや原子の束縛を離れた光電子の振る舞いを見ている(空軌道への遷移を見ているわけではない)。これに対し、多電子励起とは、X線のエネルギーを吸収して2個以上の電子が空軌道へ遷移することを言う。ランタノイドの LIII 吸収端EXAFS には、2p 軌道と 4d 軌道の二つの電子が同時に 5d 軌道へ遷移した結果、小さな吸収端(小さなピーク)が LIII 吸収端の120~150 eV ほどエネルギーの高いところに現れる(下の図の赤い部分)。多電子励起の吸収端は LIII 吸収端に比べ、面積比でわずか1%未満の小さなものであるが、わずかな振動から構造を解析する EXAFS においては、時に大きな分析誤差を与える。

これまで、多電子励起の報告例は数多くなされているが、実際の補正方法については、研究者ごとに異なっており統一性がない。Ohta et al. (2008) Amer. Mineral. 93, 1384-1392 では、比較的シンプルな構造を持つ希土類元素の水和イオンの EXAFS を用いて、多電子励起の補正法を確立した。その結果、水和イオンについては、多電子励起の存在は解析結果に大きな影響を与えないことが判明した。しかしこの解析法を、鉄マンガン水酸化物中の希土類元素の局所構造解析に適応した場合、決して無視できない誤差を与えることが分かってきている(Ohta et al., 2009. Amer. Mineral., 94, 467-475.)。

La L3 EXAFSスペクトルに認められる多電子励起

B. 鉄水酸化物・マンガン酸化物中に取り込まれた希土類元素の局所構造解析

鉄-マンガン水酸化物と水溶液間の希土類元素分配に関する研究において、希土類元素の構造変化によって、鉄水酸化物に比べ二酸化マンガンによって軽希土類元素を濃集する可能性を指摘した(Ohta and Kawabe, 2001. Geochim. Cosmochim. Acta, 65, 695-703.)。この仮定が事実かどうかを確認するために、鉄水酸化物およびマンガン酸化物に取り込まれた希土類元素の局所構造解析を試みた(Ohta et al., 2009. Amer. Mineral., 94, 467-475; Ohta et al., 2009. Amer. Mineral., 94, 476-486.)。その結果、二酸化マンガンに取り込まれた軽希土類元素は構造を重希土類元素側と大きく変えていることが判明した。

interatomic distances of REE3+(aq) and REE-doped FeOOH and MnO2
図の説明:EXAFSによって決定した希土類元素の第一配位圏(REE-O)の結合距離の変化

<REE3+(aq)
La-Nd(9配位) ↔ Sm-Gd(8-9配位) ↔ Tb-Lu, Y (8配位

<REE adsorbed on (or coprecipitated with) FeOOH>
La-Sm(8-9配位) ↔ Yb-Lu, Y (8配位

<REE adsorbed on δ-MnO2
La-Nd(9-10配位) ↔ Er-Lu, Y (8配位

重希土類元素については、鉄水酸化物系も二酸化マンガン系も、取り込まれた希土類元素の配位構造は同じである。これに対し、軽希土類元素側では、鉄水酸化物実験系に比べ、二酸化マンガン系では配位構造が重希土類元素の8配位構造から10配位構造へと大きく変化していることが分かる。すなわち、沈殿物中で生じた配位構造変化によって、分配係数に大きな変化が引き起こされたことが明らかとなった。

C. XANES スペクトル white line の半値全幅を用いたランタノイド局所構造および化学形態分析

近年、朝倉らの研究により、L3 吸収端 XANES スペクトルの半値全幅(FWHM)とランタノイド化合物の局所的な対称性の間に有意な相関関係があることが見いだされた(Asakura, H. et al., 2014. J. Phys. Chem. C. 118, 20881–; Asakura, H. et al., 2014. Inorg. Chem. 53, 6048–; Asakura, H. et al., 2015. J. Phys. Chem. C. 119, 8070–)。そこで、鉄水酸化物・マンガン酸化物・炭酸カルシウム中のランタノイドの L3 吸収端 XANES スペクトルの FWHM と EXAFS 解析から得られた局所構造情報との関係を調べた(Ohta et al., 2018. J. Phys. Chem. A.)。その結果、ランタノイドの局所構造の違いよりはむしろ、化学形態の違いとの対応関係が良いことが明らかとなった。FWHM は、水和イオン、鉄水酸化物・マンガン酸化物態、炭酸カルシウム態の順に系統的に増加し、共有結合性が強くなるほど大きくなると考えられる。ランタノイドのL3 吸収端 XANES は、どの化学種においてもシャープなピークを持つ類似したスペクトルを示し、第一遷移金属元素の K 吸収端 XANES のような化学形態解析には不向きと考えられていた。しかし、この研究結果より、ランタノイドのL3 吸収端 XANES スペクトルの FWHM を用いた化学形態分析の可能性が明らかとなった

FWHM of lanthanoid L3-edge XANES

また、原子番号の増加に伴う FWHM の系統的な変化を調べたところ、4f 電子に関係する明瞭な half-filled effect が認められた。L3 吸収端 XANES は2p→5d 遷移に該当するにもかかわらず、4f 電子に関係する効果が認められることは興味深い。これは静電場によって 5d 軌道の縮退が解ける結晶場分裂効果(Δcfs)と、フント則に従って得られる 4f 電子の基底項エネルギーの間に、次のような関係式を導くことで説明ができる(Ohta et al., 2018. J. Phys. Chem. A.)。

ΔΓ(q) ≈ Δcfs = Q×{ a + bq + cq2 + dq3 + (9/13)n(S)ΔE1 + m(L)ΔE3 }2

ここで、ΔΓ は L3 レベルの自然幅を補正した FWHM の値、Δcfs は 5d 軌道の結晶場分裂効果、n(S) と m(L) は全スピン量子数と全角運動量量子数、ΔE1ΔE3 はラカー係数、q は 4f 電子の数、Q, a, c, b, d, は係数を表す。

2.2 風送ダスト中の元素形態分析

風送ダストの研究ページを参照。大陸の乾燥・半乾燥地域から風によって大気中に舞い上がる風送ダストは、発生域の農業生産や生活環境に影響を与えるばかりでなく、全地球的な気候にも重大な影響を及ぼしている。しかし、自然起源の風送ダストについてはまだよく分かっていない部分が多い。そのため、特に微量元素の化学形態を把握することができれば、風送ダストによる物質移動の解明に非常に大きな貢献が行われることになる。本研究は、輸送途上における風送ダストに起きる化学形態の変化をXANES解析により解明すること目的とする。


Fe k-edge XANES of aeolian dust
Zn K-edge XANES spectra of aeolian dust
黄砂に含まれる鉄が飛来途中で光還元反応を受けて、二価鉄が増えることが期待されたが、実際には価数が変動することはなく、ほぼ全て3価の状態で存在する事が明らかとなった。 黄砂が発生する前の時期の大気中ダスト中の亜鉛の存在形態を調べた結果。粒径が大きいダストは鉱物粒子中の亜鉛と硝酸亜鉛の混合物として存在しているが、2μmを境に細粒ダストでは硫酸亜鉛の存在度が著しく増加する事が分かる。この変化は、ダスト粒子中の硝酸イオンと硫酸イオン濃度の増減とよく対応する。
いずれも Ohta et al. (2006) Geochem. J. 40, 363-376. より引用(図は新たに作成したもの)。

 

2.3 堆積物および土壌中の金属元素の化学形態分析

最近の研究成果は、堆積物・土壌中の元素挙動に関する研究ページを参照。

土壌中の有機物や2価鉄などによって、有害な6価クロムが無害な3価クロムへ還元される反応は環境化学的に重要な反応である。これまでの研究では6価クロムの還元反応速度の決定そのものが主要な研究対象であり、反応後のクロムの化学形態についてはほとんど着目されてなかった。しかし、6価クロムが還元反応によって消え失せてしまうということは、過去の汚染の記録が時間とともに失われることを意味する。本研究は、状態分析法(BCR法とXANES法)を用いて、6価クロムの還元反応機構の解明や、汚染6価クロムが還元されて生じた3価クロムと自然の3価クロムを区別することなどを目指す。

 

3.研究内容の補足:

X線吸収微細構造(XAFS)解析

4.共同研究者:

鍵 裕之