last update 2017.09.27
ADEC (Aeolian Dust Experiment on Climate impact) / ネットワーク観測グループ(G2)
<このプロジェクトは2005年3月に終了しました>
本プロジェクトの総括については以下の文献をどうぞ
Mikami et al. (2006) Aeolian dust experiment on climate impact: An overview of Japan–China joint project ADEC. Global and Planetary Change, 52(1–4), 142–172.
大陸の乾燥-半乾燥地域から風によって大気中に舞い上がる風送ダストは、発生域の農業生産や生活環境に影響を与えるばかりでなく、全地球的な気候にも重大な影響を及ぼしている。アジア内陸部の風送ダストの舞い上がり過程およびその大気中での長距離輸送過程に関する総合的観測調査を行うことを目的として、日中共同研究ADEC(Aeolian Dust Experiment on Climate impact)が2000年4月より5ヵ年計画で始まった。
地質調査総合センターは、ADECにおいて、粒子物性グループに属し、広島大学、名古屋大学、福岡大学、Institute of Atmospheric Physics, Chinese Academy of Science と共同で、風送ダストの長距離輸送途上(中国:北京・青島・合肥)と沈降過程(日本:沖縄・福岡・名古屋・つくば)において、ハイボリュームエアサンプラーやアンダーセンタイプエアーサンプラーを用いて降下ダスト粒子の採取を行っている。我々のグループでは、特にアンダーセンタイプエアーサンプラーを用いて、粒度分布・粒子形状・鉱物組成・化学組成分析を行うことにより、降下ダスト粒子の物性を明らかにする事を目的として研究を行っている。
サンプリングサイト(中国の地名をクリックすると観測点の写真にジャンプします。)
地質調査総合センターでは、主に粒度別に採取された降下ダストの無機分析に取り組んでいる。
総降下ダスト量や粒径別ダスト量の見積もり。
(Zhang et al., 2006. Aerosol and Air Quality Research 6, 268-280; Kanai et al., 2005. J. Meteor. Soc. Japan 83A, 73-106; Kanai et al., 2005. Bull. Geol. Surv. Japan 56, 273-301; Zhang et al., 2004. China Particuology 2, 196-199; Kanai et al., 2003. Bull. Geol. Surv. Japan 54, 251-267; Kanai et al., 2002. J. Arid Land Studies 11, 307-314; Zhang et al., 2002. The Chinese Journal of Process Engineering 2 289-292.)
風送ダスト中の水溶性成分(Na+, K+, Mg2+, Ca2+, NH4+, Cl−, NO3−, SO42−など)の測定など)の測定
風送ダスト中の鉱物成分の化学組成の決定。アルミニウムなどの主成分元素に加え、可能な限り多くの微量成分元素(第一遷移金属元素や希土類元素など)の測定
の試み。
(Ohta et al., 2005. Bull. Geol. Surv. Japan 56, 259-272; 太田ほか,2005.地質調査研究報告 56, 99-116; Ohta et al., 2003. Bull. Geol. Surv. Japan 54, 303-322.)
輸送途上における風送ダストに起きる化学形態変化をXANES解析
中国と日本で採取された風送ダスト試料を使い、長距離輸送途上でダスト中の金属元素(Fe, Mn,
Zn)の化学形態にどのような変化が起きるかを調べた。特に、長距離輸送途上でのFeの光還元反応に着目して研究を行った。詳細は微量元素の局所構造解析のページを参照)(Ohta et al., 2006. Geochem. J. 40, 363-; Takahashi et al., 2006. Env. Sci. Techno. 40, 5052-; Ohta et al., 2004. KEK Report 21B, 20.)。
研究結果の一例:2002年3月から4月にかけて日本観測点で採取したエアロゾル粒子の非水溶性成分の化学組成の特徴
上の図は、日本の4観測点における粒度別エアロゾル濃度を示している。黄砂が飛来(dust event)すると、大気中に2.1-7.0 μmサイズの粒子が多く浮遊することが分かる。これらのダストは主に鉱物エアロゾルから構成され、一部海塩粒子を含む。黄砂は発生後わずか数日で中国の内陸部から海を越えて日本へ飛来する。黄砂現象がないときは、粗い粒子については観測点周辺の土壌などが風によって巻き上がった粒子を、細かい粒子は硫酸イオンやアンモニウムイオンが大気中で凝集したものを観測している。
上の図は、最も黄砂の影響が強く現れる粒径2.1-7.0 μmの粒子(非水溶性成分)に含まれる元素濃度をAl2O3濃度で規格化した値を示す。I-IVはサンプリングの期間を表す。観測点毎にサンプリング期間が異なっているが、大まかに、I:2002/3/18-4/8, II: 2002/4/7-12, III: 2002/4/12-16, IV: 2002/4/17-24となっている。期間"II"が黄砂が日本に飛来した時期に該当する。黄砂が飛来しない通常期のAl2O3規格値は観測点毎に大きく異なっているが、黄砂が飛来すると、規格値は観測点に関係なく均質化する。このことから、非常に大量のダストが東アジア地域から日本へ運ばれていることが分かる。
観測点の写真 | 北京における大気中ダスト濃度(μg/m3) |
AlやFeなど多くの元素の濃度は、2 μm以上でほぼ一定の値を示すことから、基本的に鉱物粒子の寄与を示していると考えられる。一方、2 μm以下の細粒ダストでは多くの元素濃度が減少するのに対し、Cu, Zn, Pbなどの重金属元素は細かい粒子ほど濃度が高くなる傾向を示し、汚染物質の寄与を示していると考えられる(Ohta et al., 2005. Bull. Geol. Surv. Japan, 56, 259-272)。
観測点の写真 | 合肥における大気中ダスト濃度(μg/m3) |
北京同様、AlやFeなど多くの元素の濃度は、2 μm以上でほぼ一定の値を示すことから、基本的に鉱物粒子の寄与を示していると考えられる。一方、2 μm以下の細粒ダストでは多くの元素濃度が減少するのに対し、Cu, Zn, Pbなどの重金属元素は細かい粒子ほど濃度が高くなる傾向を示し、汚染物質の寄与を示していると考えられる。ただし、北京に比べ、細かい粒子に含まれるCu, Zn, Pbなどの元素の濃集は顕著ではなく、汚染物質の寄与は少ないと考えられる。(Ohta et al., 2005. Bull. Geol. Surv. Japan, 56, 259-272)。
観測点の写真 | 青島における大気中ダスト濃度(μg/m3) |
北京同様、AlやFeなど多くの元素の濃度は、2 μm以上でほぼ一定の値を示すことから、基本的に鉱物粒子の寄与を示していると考えられる。一方、2 μm以下の細粒ダストでは多くの元素濃度が減少するのに対し、Cu, Zn, Pbなどの重金属元素は細かい粒子ほど濃度が高くなる傾向を示し、汚染物質の寄与を示していると考えられる。ただし、北京に比べ、細かい粒子に含まれるCu, Zn, Pbなどの元素の濃集は顕著ではなく、汚染物質の寄与は少ないと考えられる。(Ohta et al., 2005. Bull. Geol. Surv. Japan, 56, 259-272)。
福岡/Fukuoka:
福岡大学 / Fukuoka University
2002/4/6-11がダストイベント(黄砂飛来)に該当。特に1-3 μmのダストが多く飛来している。7 μm以上の粗大粒子は観測点近傍の土壌等の巻き上げによる(春先は風が強いため)。元素濃度は1 μmを境に急激に変化する。ここでは、鉱物質エアロゾルに多く含まれるAl. Feの濃度分布を示している(Ohta et al., 2003. Bull. Geol. Surv. Japan, 54, 303-322)。
那覇/Naha
気象庁沖縄支所/Okinawa branch of the Japan Weather Association
2002/4/7-17がダストイベント(黄砂飛来)に該当。特に1-3 μmのダストが多く飛来している。7 μm以上の粗大粒子は観測点近傍の土壌等の巻き上げによる(春先は風が強いため)。黄砂現象の有無に拘わらず、大気中のダスト濃度は大きく変化しない。元素濃度は福岡観測点同様に1 μmを境に急激に変化する(Ohta et al., 2003. Bull. Geol. Surv. Japan, 54, 303-322)。
名古屋/Nagoya
名古屋大学/Nagoya University
2002/4/8-12がダストイベント(黄砂飛来)に該当。1-3 μmのダストが多く飛来していることが黄砂現象の特徴。7 μm以上の粗大粒子は観測点近傍の土壌等の巻き上げによる(春先は風が強いため)。元素濃度は 福岡観測点同様に1 μmを境に急激に変化する(Ohta et al., 2003. Bull. Geol. Surv. Japan, 54, 303-322)。
つくば/Tsukuba
地質調査総合センター/Geological Survey of Japan
2002/4/8-12がダストイベント(黄砂飛来)に該当。特に1-3 μmのダストが多く飛来していることが黄砂現象の特徴。元素濃度は福岡観測点同様に1 μmを境に急激に変化する(Ohta et al., 2003. Bull. Geol. Surv. Japan, 54, 303-322; 太田ほか,2005.地質調査研究報告,56,99-116.)。