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磁場中の波動関数

ナノチューブの軸と垂直に磁場$H$をかけたときは, 有効質量方程式(1)で, $\hat{\fam\mbfam\tenmb k}\!=\!-{{\rm i}}\vec\nabla\!+\!(e/c\hbar){\fam\mbfam\tenmb A}$と置けばよい. ここで, ランダウゲージ
\begin{displaymath}
{\fam\mbfam\tenmb A}=\Big(0,{LH \over 2\pi}\sin{2\pi x\over L}\Big)
\end{displaymath} (4)

を用いると, 特に $\epsilon\!=\!0$では解析的な取り扱いが可能であり, 波動関数は
$\displaystyle {\fam\mbfam\tenmb F}^K_{sk}$ $\textstyle =$ $\displaystyle {1\over\sqrt{2A}} \pmatrix{ - {{\rm i}}s (k/\vert k\vert) F_-(x) \cr F_+(x) \cr} \exp({{\rm i}}ky) ,$  
$\displaystyle {\fam\mbfam\tenmb F}^{K'}_{sk}$ $\textstyle =$ $\displaystyle {1\over\sqrt{2A}} \pmatrix{ + {{\rm i}}s (k/\vert k\vert) F_+(x) \cr F_-(x) \cr} \exp({{\rm i}}ky) ,$ (5)

である.[14] ここで,

\begin{displaymath}
F_\pm(x) = {1 \over\sqrt{LI_0[2(L/2\pi l)^2]}} \exp \Big[ \pm \Big({L\over2\pi l}\Big)^2 \cos{2\pi x\over L} \Big] ,
\end{displaymath}

であり, $A$ はナノチューブの長さ, 磁気長 $l\!=\!\sqrt{c\hbar/eH}$, $I_{0}(z)$は第1種の変形ベッセル関数である. $I_{0}(z)$$z$が小さいとき$1$の程度であり, $z$が大きくなると指数関数的に増大することに注意する. $(L/2\pi l)^2$は磁場に比例したパラメーターであり, ナノチューブの半径と磁気長の比の2乗である. 強磁場( $(L/2\pi l)^2\!\gg\!1$)では$F_-$は円筒の下部$x\!=\!\pm L/2$のまわりに局在し, $F_+$は上部$x\!=\!0$に局在する. その局在長は$l$の程度である. 一方, 弱磁場( $(L/2\pi l)^2\!\ll\!1$)では, 波動関数が円周方向に広がっている.

また波動関数(5) に対応する群速度は

\begin{displaymath}
v={\gamma \over \hbar I_0[2(L/2\pi l)^2]}{sk \over \vert k\vert}
\end{displaymath}

である. $\epsilon\!=\!0$は4重に縮退しているのが, 輸送現象を考えるために, ナノチューブに入射する状態と出ていく状態を分離したことになっている. 磁場がないとき, $\epsilon\!=\!0$付近で正負の群速度 $v\!=\!\pm\gamma/\hbar$をもつ状態がK点とK'点に一組づつあり, 強磁場では群速度の大きさは指数関数的に減少し, それに対応し状態密度が指数関数的に増加する.



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T. Nakanishi 平成16年3月19日