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金属的ナノチューブと半導体的ナノチューブ

ナノチューブは直径と螺旋構造により金属にも半導体にもなる. このことは蜂の巣格子の強束縛模型で等方的な最近接格子の遷移積分$\gamma_0$のみを考えたバンド計算で初めて示された.[6]-[8] 同じことは有効質量近似あるいはk$\cdot$p 近似でも簡単に示すことができる.[9] 以下では有効質量近似に基づいてナノチューブの電子状態を議論する.

2次元グラファイトのフェルミエネルギー付近のバンドは結合への寄与が弱い$\pi $軌道からなり, 第一ブリルアン域の端にある K 点と K' 点付近で, 波数の一次に比例する分散を持つ. グラファイトの電気的性質は, この K 点と K' 点付近の状態で決まる. 有効質量近似では, 電子の波動関数はブロッホ関数と有効質量方程式

\begin{displaymath}
\begin{array}{c}\begin{array}{cccc} KA & KB & K'A & K'B \end...
...\ F_B^{K'} ({\fam\mbfam\tenmb r}) \end{array}\right)\end{array}\end{displaymath} (1)

に従う包絡関数の積で与えられる. ここで, $\hat{\fam\mbfam\tenmb k}\!=\!(\hat k_x,\hat k_y)\!=\!-{{\rm i}}\vec\nabla$ は波数演算子, $\gamma\!=\!(\sqrt3/2)a\gamma_0$はバンドパラメーターであり, $F_A^K ({\fam\mbfam\tenmb r})$, $F_A^{K'} ({\fam\mbfam\tenmb r})$ $F_B^K ({\fam\mbfam\tenmb r})$, $F_B^{K'} ({\fam\mbfam\tenmb r})$ はそれぞれAとB副格子の包絡関数であり, 格子定数 $a\!=\!\vert{\fam\mbfam\tenmb a}\vert$ のスケールでゆっくり変化する. ここで, 2次元グラファイトの単位格子は2個の炭素原子からなり, それらを図 2 に示すようにAとBとする.
図 2: (a) 2次元グラファイトの蜂の巣格子. 円周を与えるベクトル ${\fam \mbfam \tenmb L}$ の始点と終点が重なるように丸めることによりナノチューブが作られる. $(x',y')$ はグラファイト面に固定した座標系であり, $(x,y)$$x$軸が ${\fam \mbfam \tenmb L}$に平行になるようにとる. $x$軸と$x'$軸のなす角をカイラル角とよび$\eta $であらわす. 特に, $\eta\!=\!0$をジグザグ構造ナノチューブ, $\eta\!=\!\pi/6$を肘掛椅子構造ナノチューブとよぶ. (b) グラファイト面の第一ブリルアン域. $\pi $バンドはK点とK'点でフェルミエネルギーを横切る. (c) ナノチューブの円周方向に$x$軸, 軸方向に$y$軸をとる. 磁場$H$は軸に垂直にかける.
\begin{figure}\centerline{\hskip-0.750truecm \raise-0.50truecm\vbox{\hsize=10.0t...
...aise0.250truecm\hbox{(c)}
\epsfxsize=40mm \epsfbox{cnstr97a.eps}}}}\end{figure}
さて, 2成分の波動関数

\begin{displaymath}
{\fam\mbfam\tenmb F}^{K} ({\fam\mbfam\tenmb r})=\pmatrix{F_A...
...K'}({\fam\mbfam\tenmb r}) \cr F^{K'}_B({\fam\mbfam\tenmb r})},
\end{displaymath}

を導入する. (1)式は, 質量0の電子に対するディラック方程式と, KまたはK'について2行2列の部分はニュートリノに対する2行2列の Weyl 方程式とそれぞれ形式的に同じである.[10]

ナノチューブの構造は図 2 に示すように, グラファイトを丸めたときに重なる格子点をむすぶカイラルベクトル ${\fam\mbfam\tenmb L}\!=\!n_a{\fam\mbfam\tenmb a}\!+\!n_b{\fam\mbfam\tenmb b}$により決まる. ここで, ${\fam\mbfam\tenmb a}$ ${\fam\mbfam\tenmb b}$ は2次元グラファイトの格子ベクトル, $n_a$$n_b$ は整数である. カイラルベクトルの向き$\eta $をカイラル角と呼ぶ. 実際, $\eta\!=\!0$ $\eta\!=\!\pi/6$の場合を除けば, 一般にナノチューブは螺旋構造をもつ. 例外的な$\eta\!=\!0$をジグザグ構造ナノチューブ, また $\eta\!=\!\pi/6$を肘掛椅子構造ナノチューブとよぶ.

直径の大きなナノチューブの場合, 円筒状に丸めることによる$\pi $$\sigma$軌道の混ざりあいを無視でき,[7] ナノチューブの電子状態は円筒の周方向に周期境界条件を課すことにより得られる. ブロッホ関数は, K点とK'点がブリルアン域の中心ではないために, 円周を一周したときに位相 $\exp(\pm2\pi {{\rm i}}\nu /3)$ がつく($+$がK点, $-$がK'点). ただし $\nu$は, $N$を整数として

\begin{displaymath}
n_a+n_b=3N+\nu,\ \ \ (\nu=0,\pm 1),
\end{displaymath}

で定義される. 包絡関数に対する境界条件はその位相を打ち消すだけの余分の位相がつく. すなわち,
\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
{\fam\mbfam\tenmb F}^K ({\fam\mbfam...
... \exp\Big(+{2\pi {{\rm i}}\over 3}\nu\Big).
\end{array}\right.
\end{displaymath} (2)

一般化周期境界条件(2)式のもとで有効質量方程式(1)を解くと, ナノチューブの電子のK点付近のエネルギーは

$\displaystyle \varepsilon_{\nu n}(k)$ $\textstyle =$ $\displaystyle s \gamma \sqrt{\kappa_\nu(n)^2\!+\!k^2} ,$  
$\displaystyle \kappa_\nu(n)$ $\textstyle =$ $\displaystyle {2\pi\over L} \Big(n -{\nu \over 3}\Big),$ (3)

で与えられる. ここで, $s\!=\!+1$が伝導帯, $s\!=\!-1$が価電子帯を表す. なお, K'点のエネルギーは上式で$\nu$$-\nu$と置き換えることにより得られる. $k$はナノチューブの軸方向の波数であり, $\kappa_\nu(n)$ は円周方向の量子化された波数である. したがって, $\nu\!=\!0$の場合には, 直線状のエネルギー分散を持つ価電子帯と伝導帯が得られる. 一次元系なので, $\epsilon\!=\!0$での状態密度はゼロではなく, ナノチューブは金属となる. 一方, $\nu\!=\!\pm 1$の場合には, $E_g\!=\!4\pi\gamma/L$のバンドギャップをもつ半導体となる. さらに, ナノチューブの軸に垂直な断面を貫く磁束がある場合にはアハラノフ-ボーム効果により, バンドギャップが大きな影響を受け, 金属から半導体へ半導体から金属へと電子状態が大きく変化することも同様にして示された.[11]-[13]



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T. Nakanishi 平成16年3月19日