斑晶ガラス包有物

by Isoji MIYAGI @ Geological Survey of Japan, AIST

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人工的に合成された斑晶ガラス包有物

結晶の周囲にあるメルトが,結晶内部にとり込まれ,斑晶ガラス包有物が生成する様子がわかります.この写真の一辺は300μm(0.3mm)で,電子線プローブマイクロアナライザを用いて,カルシウム濃度の高さが輝度として表現されるよう撮影してあります.明るい灰色の部分は斜長石,それ以外の暗灰色の部分が安山岩質ガラス,黒い部分はマグネタイトです.この試料は,岩石の化学分析標準試料として産総研・地質調査総合センターが提供している安山岩「JA-1」に水を2重量%加え, ヒップを用いて2000気圧1150℃で2時間保持して結晶をほぼ完全に融解させた後,1℃/分の割合で冷却して結晶を晶出させ,950℃に達した後40時間保持してから,高圧のまま急冷によりガラス化させ,断面を研磨したものです.

火山岩の中に含まれる比較的サイズの大きな結晶のことを斑晶と呼びます.斑晶は地下深くのマグマ(硅酸塩メルトと結晶などの混合物)の中で成長した結晶だと考えられています.斑晶ガラス包有物あるいは斑晶メルト包有物(Melt Inclusions in Phenocrysts; MI) は,マグマの中で結晶が成長する際に,結晶の周囲にあった硅酸塩メルトが取り込まれ,かつ噴火後に急冷されたことによってガラス状態のまま固化したものを指します.また,結晶内に包有される液体(常温時)を流体包有物と呼び,斑晶ガラス包有物と流体包有物が混在することもあります.

斑晶ガラス包有物として捕獲されたメルトは,結晶の外部にあったメルトとは違って,周囲を丈夫な結晶で囲まれているため,噴火の際の減圧にともなう脱水作用から守られています.そのため斑晶ガラス包有物を化学分析すれば,噴火前のメルトの揮発性成分濃度がわかると期待されています.しかしながら,どんな斑晶ガラス包有物でも測定すればよいというわけではありません.というのは:

  • マグマ(メルト)中の揮発性成分濃度は時間とともに変化すると考えられます.その斑晶ガラス包有物がいつ,どのように生成したのかわからないと,どの時点の濃度なのかわからない.
  • 斑晶に守られているとはいえ,非常に長時間高温に保持されれば,斑晶ガラス包有物の組成は初期の値からずれる可能性があります.斑晶ガラス包有物が生成した(斑晶にすっぽり包まれた)後,噴火までにどのぐらい時間が経過したのか,できれば検討したいところ..
  • 同様の理由で,噴火後の冷却が速くない場合には,斑晶ガラス包有物の揮発性成分は二次的な変化を被る可能性もあります.
  • 斑晶ガラス包有物が生成した時点で既に,斑晶ガラス包有物の化学組成は,周囲のメルトの組成を代表していない可能性もあります..


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