希土類元素の地球科学

last update 2012.12.04

産業技術総合研究所
地質調査総合センター
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さて、希土類元素の大まかな特徴を見てきた次は、私の専門分野である地球科学(もっと狭い意味では地球化学)での希土類元素の話をしていきましょう。

第1回 Oddo-Harkins(オド-ハーキンス)の法則

 

1.1. 宇宙の元素存在度

希土類元素の地球科学についてお話しする前に、宇宙の元素存在度についてお話しする必要があります。

宇宙の元素存在度とは、宇宙に元素がどのくらいの比率で入っているかを示したものです。宇宙の元素ってどうやって測るかというと、太陽の光を分光分析と呼ばれる手法を使ったり、地球に落ちてきた隕石の中の元素を測ったりするわけです。太陽と隕石?全く異なる物質ですが、水素やヘリウムといった一部の元素を除くと、元素の構成比は意外なほどに、ほとんど全く同じなのです。もっとも、太陽系は太陽も、地球も、木星も、小惑星も、彗星も皆同じ星間物質からできているので、この結果は当たり前といえばそれまでです。

下に、試行錯誤の末求められた宇宙の元素の存在度について、図に示しました(Anders and Ebihara, 1982)。この図はシリカ(Si)が宇宙に106(100万)個あるとしたときに、他の元素が相対的にどのくらいはいっているかを示しています。さて、図を見てみますと、元素の存在量は原子番号が大きくなるに従って、ギザギザ(でこぼこ)しながら存在量が少なくなっていく様子が分かります。よく見ると原子番号が偶数のものは隣り合った奇数の元素よりも多く存在する事が分かります。このような特徴をOddo-Harkins(オド-ハーキンス)の法則といいます。この法則は、元素の形成メカニズムに深く関係しています。

宇宙の元素存在度

原子
番号
元素 宇宙存在度
(Si=106原子)
原子
番号
元素 宇宙存在度
(Si=106原子)
21 Sc 33.8 64 Gd 0.331
39 Y 4.64 65 Tb 0.0589
57 La 0.448 66 Dy 0.398
58 Ce 1.16 67 Ho 0.0875
59 Pr 0.174 68 Er 0.253
60 Nd 0.836 69 Tm 0.0386
61 Pm (天然に存在せず) 70 Yb 0.243
62 Sm 0.261 71 Lu 0.0369
63 Eu 0.0972      

補足説明:問い合わせが多いので、補足説明を入れます。上の図は次の論文のデータを元に作成しました(Anders, E. and Ebihara, M., 1982. Solar-system abundances of the elements. Geochimica et Cosmochimica Acta, 46(11), 2363-2380.)。また、日本語でないと困るという方は、「地球化学(松尾禎士監修),講談社,初版1989年」をご覧ください。

 

1.2. 元素の形成過程

元素の形成は、はじめは核融合で進みます。太陽のような星の中では、水素と水素が合体してヘリウムができる核融合という反応が起きています。地球から1億5000万kmも離れてるのに、太陽はがんがん明るくて熱く感じるのですから、核融合反応とは我々の想像を遙かに超えるものなのです。太陽ではせいぜいヘリウムぐらいしかできないのですが、太陽よりも少し大きな(重たい)星では、次に水素やヘリウムが核融合を起こして炭素、窒素、酸素などが生成されます。さらに太陽よりもずっとずっと大きい星では、中心の温度が1億度近くも上昇し、シリカや鉄といった元素まで核融合でできます。核融合でできるのは鉄あたりまでです。鉄の原子核は大変安定で、それ以上の大きさの原子核を作ろうとしてもあっという間に分解して、他の元素になってしまうのです。鉄が他の遷移金属元素と比較して飛び抜けた宇宙存在度を示すのはこのためです。

鉄よりも重たい(原子番号が大きい)元素は、星が最後を迎える超新星爆発の時に形成されます。この超新星爆発の時にはおびただしい数の中性子が放出されるのですが、それまでに形成されていた元素がこの中性子を吸収してどんどん原子核が大きくなっていきます (この途中で壊れてできる元素(LiやBeなど)もあります)。原子核の安定性の問題から、奇数よりも偶数の原子番号を持つ原子の方が安定して存在するので、元素毎に存在量が異なってくるのです。これがOddo-Harkins(オド-ハーキンス)の法則の原因です。

地球は、隕石が集まってできたものですから、当然地球上のありとあらゆる物質にも同じギザギザが見られます。次の図には、日本の花崗岩(墓石などに使われる石です)と玄武岩(富士山などが噴出した溶岩です)の希土類元素の濃度を表しています。横軸は原子番号順に希土類元素をならべて、それぞれの元素の濃度を、縦軸に示したものです。いかがですか?地球上の物質にどのようにOddo-Harkins(オド-ハーキンス)の法則が現れているかよく分かります。ランタノイドは並み居る元素の中で、特にOddo-Harkins(オド-ハーキンス)の法則がはっきり現れることで有名です。ですが、希土類元素の特徴を議論するにはギザギザが邪魔をしてわかりにくいですね。さてどうすればよいのでしょうか?

オド-ハーキンスの法則(希土類元素)

 

第2回 規格化

 

2.1.希土類元素存在度パターン(Masuda-Coryel プロット)

地球科学の分野では、毒を盛って毒を制するというわけではないのですが、岩石や海水・河川水などに含まれる希土類元素濃度を、隕石の値で岩石の値を割る作業を行います。こうすると、濃度が高いもの同士、濃度が低いもの同士を割ることになり、ギザギザが消えてなめらかになります。この作業を「規格化」といいます。規格化によって得られた図を、「希土類元素存在度パターン」とよびます。そのパターンの特徴からいろいろなことが分かります。規格化に気がついた研究者の名前を取って、「Masuda-Coryell プロット」とも呼ばれます。下の図には、先ほど示した玄武岩と花崗岩の希土類元素の濃度をC1コンドライトという隕石の一種で規格化した図を示しています。いかがですか?ずいぶんとなめらかなパターンになりました。たとえば、富士山の玄武岩はランタン(La)からルテチウム(Lu)までなめらかな直線を示しますが、花崗岩は、中程のユウロピウム(Eu)がなめらかな直線からずれていることなど、その特徴の違いがよくわかります。

隕石で規格化した希土類元素濃度パターン

ところで、上の図には、希土類元素のうち、スカンジウム(Sc)が抜けています。通常、希土類元素存在度パターンは、ランタノイドのみ、またはランタノイドとイットリウム(Y)をあわせたデータを示しています。これは、スカンジウム(Sc)がほかの希土類元素と異なり、岩石やマグマなど地球上での挙動は鉄などの第一遷移金属元素に似ているためです。上の図ではイットリウムは、原子番号順に並べているので一番左に示していますが、3価のイットリウム(Y)のイオン半径は、ホルミウム(Ho)とよく似ていることから、ホルミウム(Ho)とエルビウム(Er)の間にプロットすることや、ルテチウム(Lu)の右側に示すこともあります。いずれにしても、横軸に希土類元素のイオン半径ではなく希土類元素を原子番号順に等間隔で並べたことや、縦軸を対数で表すことに、この「Masuda-Coryell プロット」は重要な意味があります(そう思っていない研究者が多いのは残念ですが・・・)。これらの点については、後ほど詳しく説明します。

 

2.2. 規格化に用いる物質

Oddo-Harkins(オド-ハーキンス)の法則によるでこぼこを消すという意味では、隕石でなくても地球上のほかの岩石の値を用いてもいいわけです。ですが、規格化に使う物質によって希土類元素存在度パターンの意味合いが異なってきます。よく規格化に用いられている物質を挙げてみましょう。

  1. 隕石:規格化に最もよく用いられているのが隕石です。隕石にも色々種類があり、C1コンドライトLeedeyコンドライトと呼ばれる隕石の値がよく用いられています。聞き慣れない名前の隕石ですが、これらの隕石は太陽系形成初期に形成されてずーと宇宙空間を漂っていたもので、地球などの惑星を作った材料と考えられています。そのため、隕石で規格化をするということは、太陽系形成時に隕石ができて、その隕石が集まって地球ができて、マグマオーシャンになって、冷えて固まって大陸ができて、プレート運動で地殻とマントルが混ぜられて・・・と、太陽系形成期から現在までの地球がいろいろ経験してきた歴史を振り返ることになります。先ほどの図を見ますと、花崗岩も玄武岩も地殻の岩石ですが、隕石に比べ10倍から100倍も希土類元素が濃集しています。これは、地球のマグマ活動によって、希土類元素は核やマントルから地殻に濃集していったことを表しています。また、ランタン(La)などの原子番号の小さい元素(軽希土類元素)の方がルテチウム(Lu)の様な原子番号の大きな元素(重希土類元素)よりも地殻の岩石に濃集しやすいことも、この図からわかりますね。

  2. 大陸頁岩:North American shale composite(NASC:アメリカ大陸の頁岩)やPost-Archean Australian average shale(PAAS:オーストラリアの頁岩)等がよく用いられています。大陸地域に分布する頁岩と呼ばれるこれらの岩石は、地殻の平均的な化学組成を代表していると考えられています。そこで、大陸の平均的な値からどのくらいずれてくるかを見る場合に用いられます。たとえば、川の水に含まれる希土類元素は、陸上の岩石から溶けてきたと考えていいので、大陸頁岩を用いて規格化することに意味があります。隕石を使った場合に比べると、ずっと反応関係に近いもの同士の比較になっていることがわかります。

  3. 中央海嶺玄武岩:mid-ocean ridge basalt (MORB)の値が用いられています。ただし、MORBは希土類元素存在度パターンの規格化に用いられるというよりは、ナトリウムやカリウムといった他の元素もみんなひっくるめて規格化する場合(スパイダーダイアグラムと呼ばれます)に用いられています。対象としては、日本のような島国の火山やハワイのような海の真ん中にある火山に含まれる色々な元素の存在度パターンを調べるときに用いられています。