カーボンナノチューブ
ナノチューブは, 最近フラーレン分子の製造過程で発見された半径ナノメートル程度の黒鉛の微細細管である.[1,2] 透過電子顕微鏡による詳細な観察の結果, ナノチューブは, 中心部分が空洞で二次元グラファイト面を丸めて得られる円筒状をしていることが明らかになった. 図1はナノチューブの電子顕微鏡写真である. 円筒の直径は20から300 であり, 長さは1 mと非常に長いものもあり, 数枚のグラファイト面からなる. ただし, グラファイト面の間隔は約3.4 であり, 原子間距離1.42 に比べて十分離れているので, 層間の相互作用は無視できる場合が多い. さらに, それぞれの円筒上では結合により構成される炭素の6員環が管の軸方向に螺旋状に配置しており, その螺旋度もピッチも様々である. 最近では1枚のグラファイト面からなるナノチューブも作られその直径は7から16 である.[3,4]本稿では, ナノチューブの電気伝導を中心に最近の研究成果を概説する. なおナノチューブの作製と精製方法から基本的な物性さらにラマン散乱など最近の研究成果をまとめた専門書が最近出版された.[5]
ナノチューブは天然に作られた擬一次元物質である. 二次元グラファイト面を円筒状に丸めてナノチューブを作ると, 円周方向の波数が量子化され, 量子化された一次元バンドの間隔は円周に反比例し, 直径 のナノチューブに対して eVである. これは, 室温よりも大きなエネルギー間隔であり, 電子の運動がナノチューブの軸方向だけに制限され, 一次元量子細線と見なすことができる.
しかしナノチューブは, 半導体へテロ構造で人工的に作られ, 従来提案され研究が進められてきた量子細線とは非常に異なっている. それは, ナノチューブが通常の量子細線とはトポロジカルに異なっていることと, 2次元グラファイト上で電子がフェルミエネルギーで交差する線形の分散を持ち, 自由電子とは非常に異なった運動をすることに起因する. このような特徴は, 次章で概説するように2次元グラファイトを連続体と見なし有効質量近似で扱うことにより明らかになる.