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大木研究室
第44回

バルク選別の不確実性 ④

 

~篩分け(整粒)工程を例に~

篩分け(整粒)工程を例に

前回、3つの工程に分け、選別の再現性や分離効率の改善、選別工程の自動制御を実現するための課題を述べた。このうち、解体・破砕工程と選別工程は、対象物と破砕機、対象物と選別機の組み合わせで多様に変わる個別課題のため、事情がとても複雑となる。一方、篩分け工程は、前後の工程には影響するものの、基本的には目開き(穴)の形状と振動の与え方が異なる程度で、それほど多くの選択肢がない。そこで今回は、この工程の滞留時間を例に、バルク選別の不確実性を少し深堀りしてみる。

篩分け工程では、基本的には「サイズ選別」によって、選別工程の前処理として整粒を行う。「サイズ」とは、粒子の大小に他ならないが、実はその基準は曖昧である。球形粒子などすべて同じ形であれば、相似形に大小関係が決まるので粒子の体積(直径)が基準となる。このことから大きな粒子とは、一般に体積が大きいことをイメージするだろう。分析においても、投影断面積など体積に通ずる基準で示したり、当面積円相当径や、当体積球相当径のように、同じ面積の円、同じ体積の球の直径で示すことが多い。一方、リサイクル工場で粒子を選別する場合、2D,3D形状を分析するソータで粒子面積や体積を基準に選別することはできるが、1粒子ずつの分析を要するため量産性に課題がある。また、これらを選別基準としても、後段の選別工程に必ずしもメリットをもたらすとは言えないので、整粒目的でソータを用いられることはほとんどない。通常は、簡便かつ大量に処理できる篩(スクリーン)が用いられる。円篩や直進型のスクリーン選別機などを用いるのが一般的である。このとき、粒子サイズの基準としては、「篩下粒径」が用いられる。ある粒子を多段の篩で選別した際、目開き大の「篩A」の下、目開き小の「篩B」の上に溜まった粒子のサイズをB~Aと示す。単位は、古くはmesh、現在はmmやμmで示す。篩自体の規格等は教科書にあるので省略するが、「リサイクル用途で篩を使う視点」で見ると以下のようなことが言える。

例えば、篩分け工程で「1mm~2mm」に整粒した状況を考えてみる。対象となる粒子を360°回転させたとき、どの投影断面も目開き2mm(例えば正方形)の内側に収まる場合には、一時的に篩目の格子に留まる粒子があっても、姿勢が変われば速やかに篩下に落下する(図6.4.1 ①)。1mm~2mmの粒群と聞くと、多くの人が、このような粒子群を想像するだろう。次に、粒子を360°回転させたとき、どこかの角度で、投影断面が目開きの内側に収まる粒子の場合には、振動に基づく姿勢変化によっては篩下に落下する可能性がある(図6.4.1 ②)。この可能性の高さは、篩の振動によってもたらされる粒子の姿勢変化分布の何割が、目開きの内側に収まる投影断面になるかによる。一方、投影断面が目開きの内側に収まることがなくとも、篩下に落下するケースもある。例えば、アスペクト比の大きな粒子が篩に刺さったような場合、篩面で切断される粒子断面(篩切断面)が、都度、目開きの内側に収まれば、篩を通過して落下する(図6.4.1 ③)。ただし、振動による粒子の姿勢変化により、篩切断面が目開きの内側に収まり続ける必要があるので、落下の確率は大幅に低下する。星形の穴に星形のピースをはめ込む知育玩具があるが、振動を与えるだけで星形の穴にハマる確率が低いのと同じ理屈である。無限時間かければいつかはハマるが、所定の滞留時間で選別を終えるならば、多くは網上の残ってしまうであろう。このように多様な形状が混在する粒子群を篩分けた場合、①のほぼ全て、②の一部、③のごく一部が網下として回収され、基準が不明確なこのような粒群を「1mm~2mm」と呼ぶことになる。

図6.4.1 粒子形状による篩目の通過確率

このようにバルク選別技術の多くは、「無限時間かければ想定した選別ができる」という装置が少なくない。篩分け工程の場合、その都度異なる確率の揺らぎは無視したとしても、少なくとも、篩装置、滞留時間、対象粒子の形状分布を固定しなければ、試験の度に「篩下粒径が意味するサイズ」が異なることになる。対象粒子が球形に近い場合はあまり気にすることはないが、様々な形状のものが混在する場合は、重要な要素となる。特に球形から大きくかけ離れた針状粒子等を対象とする場合、篩の目開き形状にも配慮することが望ましい。

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