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第39回
選別工程導入の考え方 ④
~対象試料のサンプリング~
対象試料のサンプリング
選別技術は様々な産業で用いられる。製造業で使用される場合には、選別工程に投入される原料は厳密に管理されるのが普通である。多くは、有用成分が主体の原料の中に含まれる、成分既知の異物を除去するなどが選別の役割となる。鉱山で行われる粗選工程でさえも、採掘されたものにどのような鉱物が含まれ、有用成分と除去成分がおよそ何対何かを把握した上で選別される。一方、リサイクルにおける選別では事情が異なる。リサイクルにおいても特定物を収集するルールがあったり、メーカ自身が収集する場合など、選別対象の組成がおおよそ既知となる場合もあるが、ほとんどのものは、第37回でも記したように、カオス様の形態で集められる。小型家電、自動車由来など、ある程度対象物を推定する情報はあるが、ロットごとのばらつきが非常に大きく、基本的に組成が不明なまま選別工程に投入される。これが、製造業で使用される場合との大きな違いである。
リサイクルにおいても代表的な一例をサンプリングして、元素や素材の組成分析をすることはある。しかし、これはバラつきの中の一例にすぎず、また、廃製品の中身は年々変化することも考慮しなければならない。さらに、本コラムでこれまでも述べてきたように、元素や素材の組成だけでは、選別の難易を知ることはできない。粒子ごとの破壊特性や単体分離状態、破砕された粒子の選別特性等の情報が総合的に集まらないと、高度な選別には至らない。すなわち、第38回の図の②で示した「対象物のキャラクタリゼーション」を精緻に行うことが肝要であるが、それを実施する際にも、どうサンプリングするかが重要となる。
実際には対象物に応じてケースバイーケースとなるため、ここでは抽象的な表現しかできないが、まずは、例えば過去1年間に入荷された選別対象物の、バラつきの大きさを把握する。図5.4.1(A)のようにバラつきが小さければ、1つの代表サンプルにおいて例えば分離効率90%となる選別工程が組めたなら、いずれの対象物においてもそれに近い精度での選別が期待できる。一方、バラつきが大きい場合(図5.4.1(B))は、1つの代表サンプルで高い分離効率を得たとしても、安定してその選別精度を得ることは期待できない。このような場合には、あらかじめおよそのバラつきの範囲を把握した上、これらの傾向との関連づけを行う。見た目で明らかに識別できればそれでも良いが、例えば図5.4.1(C)のように、どこからの入荷物かなどで分類する方法などもある。そして、各分類の代表試料を1つ以上サンプリングし、いずれの試料も同じ選別工程で、例えば分離効率70%以上となる最大公約数的条件を目指すか、各分類ごとに選別工程(選別条件)を変えて、いずれも分離効率90%を目指すかをなど選択する。
図5.4.1 対象物の組成バラつきとサンプリング
このように説明すると至って当然のことと思われると思うが、(B)のようなケースであるにもかかわらず、組成既知で同じものを選別し続ける製造業の場合と同様に考え、代表1試料の成否だけで判断されるケースが多い。実際のサンプリングは、上述したほど単純でないこともあるが、少なくともこのような配慮が必要であることは認識していただきたい。