第38回
選別工程導入の考え方 ③
~導入の基本的な手順~
導入の基本的な手順
これまで行った企業の技術相談には、「手元の廃製品を、高度な選別によって素材Xを高純度な原料とし、従来より高値で売却したい」という思想のものが比較的多かった。ただし、廃製品を大量に入手しても、多種多様な素材の水平リサイクルを目指すようになった歴史が浅いため、高純度な再生原料の売却ルートが未だ確立されていないことも珍しくない。企業からの相談の多くは、時間と労力をかけて実際に選別工程を高度化してから、選別した高純度産物を素材産業に評価してもらうことが多いが、これはあまりお勧めしない。純度不十分や忌避元素混入を理由に、素材産業側から更なる選別工程の改善を要求され、これを何度も繰り返すという事例を多く見ているからである。例えば、純度や分離効率をさらに改善しようとするとき、単純に選別条件を精細化したり、工程を追加すればよい場合もあるが、破砕(単体分離)工程から組みなおすなど、根本から変更する必要がある場合もあり、それまで積み上げてきた努力が報われないことも多い。
筆者の研究室では、実際の試料を用いて、これを人工的に調合した模擬サンプルを(必要に応じて複数)作成し、どういう状態であれば受け入れ基準をクリアするかを初めに確認する。破砕による単体分離状態を調べれば、高純度化の理論限界は計算で求めることができる。もし、受け入れ基準が、選別では、理論上達成不可能なレベルであったなら、単体分離の促進方法から検討をするか、本格検討前に諦めるかの二者択一となる。これが合理的な選択であり、少なくとも選別工程改善に関する、出口のない無駄な試行錯誤を回避できる。また、選別による受け入れ基準の達成が、理論上不可能ではないが、容易でない場合には、達成させるのにどの程度のコストがかかるかを検討前に試算する。それが想定される売却額に比べ明らかに大きければ、選別工程の低コスト化に重点を置いて検討するか、諦めるかの二者択一となる。低コスト化の考え方としては、受け入れ基準をクリアするために、容易に選別できる成分と、達成が難しい(選別コストが高くなる)成分に分けて考える。この難しい成分がどのような単体分離状態であるか、あるいは元々何に由来するのか、などを分析する。もしかすると、破砕前に製品から一部のパーツを外す(除く)ことで解決できる場合もある。仮にこの取り外しが手作業になったとしても、全体として採算が取れれば、ベターな答え(合理的な解決法の1つ)といえるだろう。
選別工程の最適化は、実験による試行錯誤で達成するものという理解が、世界的に定着しているが、この方法では挑戦的課題の多くは解決に至らないため、努力が報われない。筆者らは、なるべく実験による試行錯誤は行わない。理論上到達できない課題は初めから着手せず、到達の可能性がある課題にエネルギーを投資する。このような思想から、新たな選別工程の導入を検討する際には、概ね表5.3.1のような手順で行う。
図5.3.1 選別工程導入の検討手順
このような手順で選別可能と判断された場合には、選別コスト(あるいは処理量や組成変動)を強く意識すべきか?を把握した上で、最後に選別試験を行う。実際の検討においては、表の①~③が不明なまま検討することを強いられる場合もあるが、原則としてこのような段取りを経ることで、最短距離で最適解に到達できる可能性が高くなることは知っておいていただきたい。
以上のことは、言われてみれば、至極当然なアプローチと思われるかもしれないが、現実的には、やみくもに選別試験を始め、出口のない検討を延々と続ける例が後を絶たない。