第37回
選別工程導入の考え方 ②
~エントロピー縮小の分担~
エントロピー縮小の分担
前回は、素材の単価と選別工程にかかる負荷について述べたが、今回は、今後、水平リサイクルを推進していく際の役割について、もう少しだけ具体的に示そうと思う。第6回で物理選別はエントロピーを縮小する工程であり、その極大から極小へつなぐための技術体系が必要であると記した。これは、物理選別の特性に鑑みて、スタートとゴールをどう設定するのが合理的か?ということを意味する。ここでのスタートとは、収集の仕方や前処理の有無など廃製品によって様々である。ゴールとは、前回述べたように、リサイクル工場が出荷する再生原料に対する「素材産業の原料受入れ基準」に依存する。
いずれにせよ、カオス様の廃製品群から、金属地金など高純度素材に至るまでの、壮大なエントロピー縮小を低コスト・省エネルギーに達成させなければならない。図5.2.1は、前回の入荷~出荷を示した図に、誰が担うのかという視点で整理しなおしたものである。これまでリサイクル工場では、廃棄物処理の一環として、廃製品を受け入れ、選別工程で運よく高純度化できた素材を売却するというスタイルが取られてきた。ある意味、社会に対してPassiveな構造の下で、リサイクルが進められてきた。その結果、貴金属や銅など高価な素材の水平リサイクルは自発的に進んでいるものの、多くはカスケードリサイクルに留まっているのが現状である。これは、前回述べたように、低単価素材になるほど高純度化が求められて選別の負荷が大きくなり、相乗的に収益性が低下するという技術構造的な必然ともいえる。このように、これまでのPassiveな静脈産業では、壮大なエントロピー縮小の全てを、既存の産業(素材産業等)に適合するように、物理選別の高度化で達成することが求められてきた。選別技術にもまだ伸びしろはあるが、技術には限界があるため、この考え方だけでは多くの素材を水平リサイクルに導くことは大変難しい。
図5.2.1 壮大なエントロピーの縮小を社会で合理的に分担することが重要
将来、社会全体の資源循環の最適化を目指す社会においては、比較的低コストで実現が可能な物理選別の高度化を目指すと同時に、技術構造的にこれでは実現が困難な部分については、社会の中で合理的な役割分担を設定することが重要となる。具体的には、対象物(特に素材単価)に応じて、リサイクル工場における選別工程のスタートとゴールをどう設定するかということになる。例えば、スタートにおいて、製品種・素材種ごとに細かく分類して収集することは現実的ではないが、物理的に混在していても、何らかの情報利用で、リサイクル工場で仕分け・選別がし易い工夫を施す。ゴールにおいては、再生原料の受け入れ基準を明確化し、可能な範囲で間口を広げるなど、改善の余地はあると考えられる。選別技術の革新で簡単に解決してしまうことがあれば、それに越したことはないが、社会で利用される製品種はあまりにも多く、また、変化し続けることを踏まえれば、持続的な資源循環の実現には、製品種・素材種ごとにエントロピー縮小の分担を決めていくかが重要となる。