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大木研究室
第36回

選別工程導入の考え方 ①

 

~素材価値との関係~

素材価値との関係

旧来のカスケードが中心のリサイクル工程では、まずは破砕して粒状にし、既存の選別工程で鉄やアルミ、プラスチックなどを回収するなどが図られる。エントロピーの縮小工程という位置づけからも、対象全体を選別するなら、これら量の多い素材から粗選を施す考えは間違っていない。この操作で粗選したのちの残渣分には、貴金属や銅が含まれることが多く、あるいは初めからこれらを多く含む部品を回収すれば、銅製錬に売却して水平リサイクルルートに乗せることができる。一方、多くの素材はこのままでは水平リサイクルのための原料にはならないので、もうひと手間かけて、あるいは粗選自体の選別条件を見直して、高純度化を図る必要がある。

素材産業側の受け入れ純度(濃度)の基準は、人為的(政策的)にどこかがコスト負担して推進する場合を除けば、一般に素材の単価に依存する(図5.1.1右)。高単価素材は、原料を受け入れる側も処理コストを掛けられるので、原料が低濃度であっても水平リサイクルルートに乗せられる。例えば、金(きん)であれば、一般に10ppm以上の濃度があれば、銅製錬所が買い取り、金地金になる。逆に低単価素材、あるいは水平リサイクルのために素材産業において多大な処理コストが強いられる素材は、限りなく高い原料濃度が要求される。素材産業側も何が混入しているか不明な再生原料を扱った経験に乏しく、明確な再生原料受入れ基準(下限濃度)が示せないため、バージン材と同じ基準が要求されることが多い。結果として、現状、明確な水平リサイクルルートが確立されていない、素材単価が軽金属以下の素材については、限りなく100%に近い濃度が求められるばかりか、忌避物質がゼロであることを求められるケースも多い。しかしながら、物理選別には選別の限界があるため、一度混ざると、濃度を100%にすることも、忌避物質を0%にすることも、原則、不可能である。したがって、これらの許容範囲が明示されないと、選別工程を組むことができない。

図5.1.1 素材の単価と選別工程にかかる負荷

ここで、水平リサイクルを目指し、新たな選別工程を導入する側の立場で見ると(図5.1.1左)、高単価素材は、目的素材の高純度化が不完全であっても高価格で売却できるため、選別技術にかかる負荷が小さく、採算を取りやすい。他方、低単価素材では、選別技術に課せられる負荷が大きく、すなわち選別コストが高くなるにも関わらず売却単価は低いため、採算を取ることが難しくなる。このように、技術的な面だけを考えれば、水平リサイクルを目指す際、低価値素材になるほど相乗的に収益性が低下するため、自発的に選別する動機は生まれ難くなる。以上の様に、より高価値な素材を水平リサイクルルートに乗せる方が、物理選別工程の導入を具体化しやすい。逆に言えば、より低下値な素材を、素材産業側の努力などで水平リサイクルルートに乗せることができれば、社会的意義は高いと言える。

一方、別の動機としては、プラスチックのように大量に含まれる低単価素材が売却できないと、廃棄物処理費がかかるため、その支出を抑制する目的で選別を高度化するということが考えられる。ただし、元素に価値がある無機物では、理論的に水平リサイクルが実現しやすいのに対し、分子構造に価値がある有機物では、恒久的にその構造を維持することが難しいため、実現はより困難となる。経済的な水平リサイクルが実現できれば、それに越したことはないが、より多くの素材をリサイクルルートに乗せることを優先すれば、第11回で示した図のより高位のカスケードリサイクルを目指す(LGC*)など、柔軟な対応をすることが重要と考える。


* Low gradient cascade recycling:リサイクルを単純に水平/カスケードと2極化するのでなく、カスケードリサイクルの質を段階的に徐々に落として長く利用しようとする筆者の思想。

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