従来のロボットマニピュレーションは,ハンドあるいはエンドエフェクタによって対象物をアーム先端に固定し,指やアームのアクチュエータを駆動することによって対象物の位置および姿勢を変化させるものであった.この場合,対象物の把握は運動学的に完全であることが仮定される.すなわち対象物はハンドの指先やエンドエフェクタに対して相対的な自由度を持たず,対象物の運動はアームおよびハンドの運動のみによって記述することができる. 一方,人間が物体を取扱う場合には,対象物を完全に握りしめることはむしろまれである.人間は対象物をゆるく握ったり,単に手の平の上に載せたり,あるいは指先で引っ掛けた状態で,対象物の慣性を非常にうまく利用して操作を行うことが多い.またその際にも腕のすべての筋肉に力を入れているわけではなくて,手首などの関節はフリーの状態にしておくことが普通である.当研究室では,このような人間の巧妙な動作をロボットによる物体のマニピュレーション機能に取入れることを目的として,動的スキルを用いたマニピュレーションの研究を進めている. 簡単に言うと動的スキルとは操作される物体のダイナミクスを考慮し,さらには利用する技能である.従来の運動学的マニピュレーションと比較すると,動的スキルを用いることによる利点は大きく二つあげられる.一つは作業の多様化という点である.すなわち同じマニピュレータを使ってよりバラエティに富んだ作業が実行できる,またはその逆に同じ作業をより簡単な構造のマニピュレータで実現できる.もう一つの利点は作業の効率にある.動的スキルではより高速に作業が実行できたり,より重いあるいは寸法の大きな対象物を取り扱える可能性がある. 動的スキルの一例として,平らなエンドエフェクタ(パドル)の上で多面体を回転させる作業を扱った.対象物がパドル上に水平に支えられている状態からパドルを傾けながら加速する.パドル面から対象物が離れた後,対象物は接触エッジで支えられる.物体のエッジ回りの回転とエッジの運動の間には対象物の慣性による動力学的干渉が存在する.エッジを非駆動関節とみなし,対象物の回転を制御する.対象物の反対側の面が水平となった瞬間にパドルは対象物を再び捕え,減速して停止する.(ビデオ)
|
|