火山ガス観測プラットホームに関する考察

by Isoji MIYAGI @ Geological Survey of Japan, AIST

研究副産物



(宣伝 ^_^);
火山研究解説集:


文書作成日:1999年5月21日
文書作成者:宮城磯治(地質調査所・環境地質部・火山地質研究室)
※現在の所属=産業技術総合研究所・地質情報研究部門
文書修正日:1999年5月25日; 1999年9月1日; 1999年9月11日; 1999年9月27日; 2001年10月7日(HTML化と各所改訂); 2001年10月9, 21, 22, 23日; 2004年6月29日(ハイパーテキストの改訂);
デザイン変更:2008年4月30日水曜日


目次


作成の目的:
この文書は,そもそも宮城の個人的な研究興味を整理するためのメモでした.気象庁が有珠山でカイトプレーンを飛ばしたり,三宅島に一機1億円の高性能ラジコンヘリを投入した時点で,もはや自分がこの考察を進める必要性は消滅したと思いました.しかし,もっと少し安価&手軽にやる方法がないかと思い,もう少し続けてみることにしました.このページを公開した理由は,もしも民間の模型製作業者の方や航空光学系の研究者の方がコメント・指南をして下さるようなことがあれば,進展が少しはやくなるのではないか,という期待があるからです.(注※今のところ予算のあては全くありません)
プロジェクトの略称
VFO(火山ガス観測飛行物体)



何を知りたいのか:

  • 噴煙/噴気中の水と二酸化炭素濃度および放出量(ton/day)を知りたい.

何故知りたいのか:

(重要性)
マグマ中のガス成分(主に水と二酸化炭素)は,火山噴火現象の主要な原動力のひとつです.ガス成分の抜けかた(脱ガス様式)の違いによって,噴火の様子は大きく左右されます.たとえば1991年のピナツボ火山の大噴火のように爆発的に噴火するか,1991年の雲仙のようにだらだらと非爆発的に噴火するか,あるいは2000年の三宅島のようにほとんど噴火せずに膨大なガスを出すか,,.逆にいうと,マグマの脱ガスを理解することは,噴火現象を理解することとほとんど同じと言ってもよいかもしれません.しかし,このメカニズムはまだよく理解されていないのです.
(これまでの経緯)
最近,測定技術の発達により,マグマの脱ガスメカニズムの理解に必要不可欠な知見が,得られるようになってきました.まず,噴火時に「抜けた」ガスの量が見積もれるようになってきました.これは,人工衛星に塔載されたTOMSやCOSPEC等により,噴火中〜噴火後のSO2放出量測定が可能になったおかげです.その一方で,「抜ける前」のマグマ中のガス量も,わかりつつあります.これは,噴出物の分析(斑晶ガラス包有物の揮発性成分)によります.
「抜けた」ガスの量と,「抜ける前」の量を比較すれば,噴火直前のマグマ中の揮発性成分の存在形態の理解が,より具体的になります.我々火山ガスに関する知識はまだまだ貧弱で,このように,出た量と抜けた量のバランスさえ最近まで知られてなかったのです.
(最近の成果で不足しているもの)
SO2放出量の測定はほぼ実用レベルに達したと思われます.しかしマグマの脱ガスを理解するためにはSO2だけでは不十分です.何故ならば,SO2はマグマ揮発性成分の一部であって,主成分は水と二酸化炭素だからです.SO2が水や二酸化炭素と一緒に脱ガスする保障があれば別ですが,そうとは思えません.例えばこれまでの研究から,水と二酸化炭素とでは,脱ガス時の挙動が大きく異なると考えられています.

突破すべき技術的課題は何か

(遠隔測定技術)

現在考えられる火山ガスの遠隔測定には,少なくとも二通りあります.

1.測定対象から離れた場所にセンサーを置き分光学的に測定する方法と,

2.測定機器を積んだ移動物体を遠隔操作にて対象中に置く方法です.

まず1番の「分光学的な方法」に触れてみましょう.前述の,COSPECによるSO2測定がこれです.(参考:COSPEC測定風景)分光学的(紫外線)な遠隔測定によります.青空が紫外線の良好な光源として利用できるので好都合です.また,SO2は大気中の存在が微量なので吸光度のS/Nも良好です.水と二酸化炭素を分光学的に測定するには,赤外線帯の光吸収を使います.その場合は,まず光源が問題になります.青空は赤外光源として利用できず,赤熱した物体を背景に置く必要があります.さらに,水や二酸化炭素は空気中に多量に存在するため,遠距離からの測定では,吸光度のS/Nが悪くなります.

※この場合,シグナルは火山から放出されたガスによる吸光のことで,ノイズはそれ以外由来のガスによる吸光を指します.

このように,分光学的な手法では,水と二酸化炭素を分析するのは難しそうです.

一方,2番の,「ガス濃度計を測定対象にもってゆく方法」は,ほぼ実用段階にあります.実際,三宅島では既に,ガス濃度計を積んだ有人ヘリが噴煙をかすめるという方法により,H2S, CO2, SO2濃度が測定されています.

ではこの方法の何が不足かというと,濃密な火山ガスの中にセンサーをくぐらせていない点です.また,三宅島は脱ガスの規模や世間の関心という点で特別な例で,他の火山(薩摩硫黄島や桜島など)でこの方法を実行することは困難でしょう.


(ガス濃度センサー)
まず,測定器は「可搬型」でなければならない.測定器の大きさや重さはピンからキリまであり,大きくて重いほど性能は向上するが,この目的では小型軽量のもの(既に存在)で十分.(←何故ならば,この目的では,高感度・高精度分析(例えば環境基準ぎりぎりの量とか)をするのではなく,火山噴煙中の高濃度ガスを測定するから.)


(プラットホーム)

有人ヘリを使用して,安全に,濃密な火山ガスの中にセンサーをくぐらせる方法について,考えてみましょう.

まず2の1番として,濃密な火山ガス中に直接ヘリを突入させることは,いかにも,やめたほうがよさそうです.濃密な火山ガス中の飛行はきわめて不愉快でしょう.たとえ乗務員がガスマスクを装着したとしても,ガスマスクの存在がヘリの微妙な操縦動作を妨害するかもしれません.それに,腐蝕性のガスがエンジンや飛行計器等に支障をきたすことによって,命の危険をともなう事態に陥いるかもしれません.やはり,やめるべきでしょう.

次に2の2番として,長く垂れ下ったロープの先につけた測定器をぶら下げて,横にたなびいた噴煙の上空を有人ヘリが飛ぶ,という方法をとれるかもしれません.何かをぶら下げながらの飛行は,ヘリでは想定内(この場合長い, 1km位?)でしょうし,測定器は既存のものに軽微な改造を加えれば,用意できそうです.「お金の問題」さえなければ,実行は可能でしょう.

いずれにしても有人ヘリを使う方法は,かなり,お金がかかりそうです.どの位かかるかを,このページの表で検討してみると,ヒューズ500(単発,小型)クラスの貸しきり料金でも約35万円/1時間かかり,東京と神津島往復が約2時間で,神津島を基地に三宅島上空を6時間観測したとすると,一日あたり280万円.これを6日続けると1680万円になります.ちなみに,現在三宅島のヘリ観測で使用されている双発中型のヘリ(ベル412とか)の料金は約87万円/1時間ですから,同様に1日あたり696万円,6日で4176万円になります.う〜む.


あるいは:

2の3番として,ラジコン等の無人飛行物体に測定器を塔載する方法があるでしょう.この方法は,気象関係では既に実績があります.最近,地上観測や観測気球でカバー不可能な,広範囲の洋上の気象データを得る目的で開発された翼幅2.9mの無人機が,1998.8.21日にはカナダからスコットランドまでの3270kmを,26時間45分かかって飛行に成功しているそうです.この無人航空機は既に「aerosonde社」から販売されており,気象庁の気象研究所も顧客リストに入っています.機体や運用にかかる正確な費用はよくわかりませんが,上記のヘリのおよそ1日分のお金で,1週間の観測(24時間におよぶ連続観測も含む)ができるとのことです.

以上まとめると

  • どうやって測定するか.遠隔(分光学的)か,それともガス濃度測定器か:
→ガス濃度計を飛行物体に積み噴煙の中を通過させる方が実用的.
  • 何に載せて持ってゆくか.有人機か,それとも無人機か:
→お金をかけてよいのなら,有人ヘリを使えば解決.技術的困難は少ないが,生命の危険を伴うかもしれない.
→お金を節約したいなら(?)無人機.生命の危険は少なそうだが,技術的な検討課題が多そうだ.

ここでのチョイス:無人機

(知りたいことの整理)

知りたい事は「噴煙/噴気中の水と二酸化炭素濃度および放出量(ton/day)」

  • そのために必要なデータは:
 気温,湿度,二酸化炭素濃度,測定座標(緯度,経度,標高,時刻),風速.
  • および,そのために必要なデータの取りかたは:
火口からやや離れてたなびく噴煙を横切るスキャンを複数回とる.
  • これによって,ガス濃度の空間分布(噴煙横断線上の)が推定できるので,それに噴煙の流速をかけてやれば,単位時間あたりの火山ガス放出量がわかる.


(センサーを搭載する無人機の条件)
  • 小型であること.
 エンジンは数10cc以下の,ラジコンに毛が生えた程度を想定.あまり大きいと,製造,運用,コストがあがってしまう.これが達成できないなら有人ヘリ使用に対するメリットが減るでしょう.
  • あらかじめ設定された航路を自律的に飛ぶこと.
離着陸時は手動操縦でも構わない.設定された航路をトレースする精度は100m位でもよいが,実際に飛行した航跡は5〜10m程度の精度で記録したい.
  • 離着陸操作が容易なこと.
 補助器具が不要で,滑走距離が短かく,万一激しい着陸をしても機体の損傷が少ないほうがよい.
  • 運行に必要な人員や機材が少なくてすむこと.
 ※コスト節約上重要.これが達成できないなら有人ヘリ使用に対するメリットが減るだろう.
  • 比較的ゆっくり(時速50km位)飛んでも失速しないこと.
  • 上空の風に負けない程度のスピード(時速100km位)が出ること.
  • 重量5kgぐらいのセンサー等を,上空1000〜2000mに運べること.
  • 発電器を備えていること.
 センサー群の電源重量節約のため.
  • 上空での滞在時間が長いほどよいので,燃費が良いこと.
  • エンジンが停止しても安全に制御&降下できること.
 対策は,エンジン停止状態での滑空性能の向上や,エンジン再始動装置など.
  • 法律上の制限が少ないこと.
  • 信頼性が高いこと.
 そうならば,やや高価な測定器を塔載できる.</DD></DL>


以下,未整理で古いメモ

自律航行のための技術:

二次元の移動の場合は,GPS測位結果に基づいて舵をPID制御すればOK.模型

船での実現例も既にある.三次元の場合は,加えて,角度&加速度センサーを用いて姿勢の制御をする必要がある.

加速度と回転角速度の小型軽量なセンサーは既にある.

小型軽量なGPSはすでにある.

小型軽量なマイクロコンピュータはすでにある.


飛行物体の選択肢

気球,飛行船,固定翼機,回転翼機(ヘリコプター,ジャイロプレーン)ぐらいしか思いつかない.

気球は,

短所=自立航行できない
長所=安価である(?).ラジオゾンデなどで,周辺空気の測定をするためのノウハウが蓄積されている.

飛行船は,

長所=ゆっくり飛べて,安心感がある.法律問題は少なそうだ.
短所=実用的なペイロードを確保すると巨大になり,運搬がたいへんそうだ.風があると流される?.

固定翼は,

すでに実績がある.1998.8.21日に,スパン2.9mの無人航空機が,カナダからスコットランドまで3270kmを26時間45分かかって飛行に成功している.開発の目的は,地上観測や観測気球でカバー不可能な,広範囲な洋上の気象データを得ること.グループにはオーストラリア気象庁,アメリカのThe Insitu Group,ワシントン大学が参加している.
長所=この目的では,とくに見当たらず.
短所=ゆっくり飛べない(失速).離着陸に比較的広い平坦面が必要(ごく小型なら手投げ発進,網回収できるが).

固定翼(環状翼)は,

長所=固定翼に比べるといろいろある.
  • 素材を選ぶと(炭素繊維強化プラスチックと帆布)破損に対して非常に強い機体を作ることができる.墜落したときに環状体の外周が衝撃を和らげ,うまく地上を転がり,破損しにくい.
  • 構造がシンプルで工作しやすい.
  • うまく設計すれば小さく折り畳めるので,持ち歩きに便利である.
短所=ゆっくり飛べない(失速)かもしれない.

ヘリコプターは,

短所=最近農業用で高性能なものが出回っている.様々なスケールのものがある.目視&ラジコン操縦を前提としている.操縦は難しい.自律航行はかなり検討が必要だろう.大型の物は搬送が大変そうだ.シコルフスキー社は軍事用に無人偵察ヘリ(ドーナツ型で中に二重反転ロータがある)を開発しているようで,自律航行(離着陸を含む)ができる.でも価格は高そうだ.
製造コストの約半分はエンジン,アビオニクス,その他の装備品など外部メーカーの製品である.中でも大きな割合を占める部分は,ローター・システムとトランスミッションである.

長所

ジャイロプレーンは,操縦などは固定翼機とほぼ同じ.

短所=無人機は既成品がみあたらないので自作必要.

模型の作り方については,Webに情報があった.

長所=失速しない.離着陸は狭い場所でよい.ローター部分はヘリの部品で比較的安価につくれるかも.構造は単純.分解すればコンパクト.テイルローターが必要ない.

ティルローター不用によるメリット:

 長い精密なシャフト,複雑なテイルギアボックス,それに高回転するテイルローターを省略できるメリットは大きい.アメリカ陸軍の統計によると,テイルローターによる事故はヘリコプター事故の26%にも達するという.テイルローターが無いことによって消費する馬力を全部揚力に活用できる.普通のテイルローターではホバリング時,約10%のパワーを喰う.また,LTE(テイルローターの推力喪失)による事故も防げる.これはホバリング時,特定の角度からの風でテイルローターが推力を失い,方向制御ができなくなる現象.(http://www1.odn.ne.jp/ahsjapan/coax.html)

検討に値しそうな順は,飛行船,固定翼(環状翼),ジャイロプレーン,ヘリ,気球.

飛行船とジャイロプレーンの両方を開発して,使用状況によって使い分ける.

固定翼(環状翼)は比較的安価&安易に作成できそうだ.

飛行物体の作成

材料は

本体はCFRP炭素繊維強化プラスチックで作ると軽量に仕上がりそうだ.

CFRPを作成するには二通りある.

 ひとつは,炭素繊維に樹脂を塗りながら巻き付ける方法.
 もう一つは,あらかじめ樹脂を染み込ませてあるテープを巻いて加熱固化させる方法.120℃二時間ぐらい.-> プレプリグという名前で売られている.東レ,東邦レーヨンなど.カタログ請求未到着(1999年 10月 29日金曜日現在)
※アルミニウムあるいはアラミド繊維でつくったハニカム構造体をCFRPでサンドイッチするのが最近のトレンド?.

翼の材料として,帆布(最新のヨット用)

遠隔操作と直接測定センサーについて.

小型軽量ガスセンサの技術:

ガス測定結果が電気信号で得られれば,結果を電波で飛ばす方法は既にる.

その例としては,なになに,なになに,なになにがある.

空気中の二酸化炭素濃度を電気信号にする小型軽量なセンサーは,既にる.

その例としては,なになに,なになに,なになにがある.

空気中の水分(湿度)を電気信号にする小型軽量なセンサーは,既にある.

(センサーテックとヴァイサラ)
その例としては,なになに,なになに,なになにがある.

※案

 雲仙の「可搬型火山ガス分析装置」で,センサーユニットをつくってはどうか?

追加分

噴煙の温度,周辺大気温度・湿度を正しく測定することが必要


★★追加★★1999.9.24のビールゼミにて,

噴煙の画像解析から火山ガス放出量の推定をする方法について,気象研究所地

震火山研究部の福井 敬一さんに話題提供していただいた.


 観測できるパラメータのうち水蒸気フラックス誤差に一番影響ものは何か?

 噴煙の温度の1℃の誤差は,+25%の見積もり誤差を生じる.

 噴煙に取り込まれる大気温度の1℃の誤差は,-23%の見積もり誤差を生じる.

 噴煙に取り込まれる大気湿度の10%の誤差は,-18%の見積もり誤差を生じる.

 横にたなびいた噴煙の厚みの10mの誤差は,-13%の見積もり誤差を生じる.

 その他の誤差はこれらに比べるとずっと小さい.

  ∴ 噴煙の温度,周辺大気温度・湿度を正しく測定することが先決.

 この目的には,ジャイロや,ラジオゾンデなどを飛ばして直接測定するのが適していると思われる.最近のラジオゾンデはGPSをつんでいて,自分の場所と,測定データをセットで報告してくれる.このとき使用する電波は,ラジオゾンデ専用のもの.この使用に免許が必要らしい.だから外注するとかなり高額の技術料をとられるので,気象研などと共同研究するのが賢そうだ.

  ※ラジオゾンデは一個30万円(技術料などは除く)

★★追加★★

産業用ラジコンハンドブックによると:


航空法ではラジコン飛行機の定義ははっきりしていないので,

1.どのような飛行物体も飛ばしてはいけない場所

2.航空機が飛行していけない場所以外の場所

なら,飛ばすことが出来そうだ.


例)1は飛行場の近くなど.

  2は,「航空機は地上の構造物などから150m以上高度をとって飛行できるような高度を飛行すること」だから,150m以下ならOKということになる.

  恐らく,噴火の近づいた火山の近くは飛行禁止だろうから,そういう場所では飛ばすことができるはずだ.




★★追加★★1999.9.10のビールゼミにて,

雲仙シンポのまとめの際,火山ガスフラックス見積の困難な点が具体的に

とりあげられた.


※このようなケースでは,火山ガスフラックスの見積もりが非常に困難である.

 ドーム全体からH2O主体のガスが出ていて,かつ

 ドームの一部からSO2に富んだガスが出ている場合.

 

 前者のサンプリングは困難. 

 ふつう,後者のみガス採取を行い,そのSO2/H2O比に,コスペックで得られた

 SO2量を乗じてフラックスとする.しかし明らかに前者と後者でSO2/H2O比は違っ

 ているので,この方法をとるとH2Oフラックスを過小評価してしまう.

 


だから,火山ガスの風下で,空間的に網羅するかたちで大気中のSO2/H2O濃度などを

測定する必要がある.これには,VFOが適しているように思える.

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